ep.12-5 ルトの回答

話を静かに聞いていた大将は、アイルの話を止める。



「アイル……すまない、ちょっと待ってくれ。話を聞いて少し混乱しているから……」

「どうかしたのか?」



大将は必死に何かを思い出しているようだ。

そして言葉を紡ぎだす。



「いや……そもそもそこには3人しか倒れていなかったのか?」

「そうだな」

「すずねちゃんを襲った2人は居なかったってことなのか?」

「そうだな。それについてはルトからも聞かれたが、お前たち3人以外は誰もいなかった」

「なるほど……あともう一つ」



大将は不思議そうに尋ねた。



「どうして、ルトを見て怯えたんだ?ルトが助けてくれたんじゃないのか?」

「それは……」



アイルが言い淀んでいたところ、横にいたルヴィアが大きくため息をついて答えた。



「大将、私も勇者の話を聞いてルトにどういうことか何度も聞いたわ。

なんなら魔王として答えるように命令もしたけど……

『彼女は悩まなくていいことで悩んでいるだけだ』と」



それを聞いた大将はあまりにも驚いたのか目を丸くする。



「ルヴィアさんの命令をルトさんが聞かないなんてありえるんですか?」

「私も初めてでびっくりしたわよ……忠誠心が低くなってきてるのかしら……」



ルヴィアは少し悩みつつ答える。

何かを思い出したのか、手をポンと叩いて大将に話す。



「一応、時期が来たら話すと言われたから、それで手を打ったわ」

「わかりました……アイル、そのあとの話しを聞かせて欲しい」

「あいよ」



アイルはすずねがいなくなった後の話をつづけた。



◆◆◆


すずねは二人を置いてどっかに走り去っていた。

理解できない態度と走り去っていくことに驚いたアイルは追いかけようとするものの、

ルトがその手を取って止めた。

アイルはますます理解できず、ルトに怒鳴る。



「ルトさん!!どうして止めるんですか!!!」

「勇者殿、今だけは……今だけは一人にさせてあげてください」

「なぜだ!?明らかにすずねちゃんらしくないぞ!!」



アイルはすずねを追いかけるためにじたばたするものの、ルトががっちり逃がさない。

すずねはどんどん小さくなって、ついにはどこかに行って見えなくなった。

見えなくなったのを確認してからルトは手を離した。

だが、アイルはルトに怒りを隠さずに尋ねた。



「ルトさん……何か説明してくれるんですよね?」

「……今は詳しいことはいえないです」

「どうして!?」

「……あの子が負った傷は恐らく大将しか対処できないかと」

「傷!?怪我なんてしてなかっただろうが!!!」



ルトがあいまいな回答しかしないことにしびれを切らしたのか、

アイルは怒鳴った。

それでいても、ルトはアイルをじっと見て答える。



「勇者殿、落ち着いてください……」

「落ち着いていられるか!!式典中に雷が西地区で出て、式典終わり次第こっちに来たら、

雷は止んでいるにもかかわらず、大将は血まみれで倒れていて。その上すずねちゃんは起きたら怯えていて……どうやったら落ち着けるってんだ!!!」



アイルが顔を真っ赤にしてルトを詰める。

ルトはアイルの怒りに臆せずに答える。



「勇者殿!!!この俺のすべてを投げうっていいですから。

 お願いです。今……今だけは俺の話す通りにしてください。

 時期が来たらすべてお話いたしますから……」



ルトはアイルに土下座をする。

アイルは真っ赤になった顔で奥歯をギリギリとしていた。

だが、目をつぶり大きく深呼吸してから静かな口調でルトに話した。



「約束だぞ……もしすずねちゃんに何かあったら、お前をぶん殴る」

「ありがとうございます……」



ルトはそういうと、大将の方を見に行った。


◆◆◆



アイルはふぅとため息をついてから話を続ける。



「そのあとは大将を病院に連れて行って、現場検証したりしたかな。ルトにも色々聞いて、誘拐犯は二人、猫又とオークであることは聞けたけど、どうして助かったのかとかは答えられないだの、知らないだのばかりで……」



アイルは首を横に振る。

それを聞いていた大将は周りをキョロキョロしつつ尋ねる。



「当の本人のルトは?」

「わからない、昨日から見てないからな。ただ……」

「ただ?」

「すずねちゃんの居場所ならわかる」



アイルは大将の目をじっと見て答えた。



「お前の店だ。俺の知り合いが教えてくれた」

「……やっぱり。心配だから今から行っていいか?」

「あぁ。さっさと行ってやれ!魔王の側近に連れて行ってもらえばいいから」

「わかった。ありがとう!」



大将は側近のところまで行き、何かを話して再びゴーレムに抱っこされてどこかに飛び去った。

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