ep.13-1 「ゆうなぎ」への帰宅

アクアとゴーレムに乗った大将はすずねがいると言っていた大将の店「ゆうなぎ」の前に到着した。

西地区で色々話したためか外は夜になっており、満天の星空が広がっていた。

ゴーレムによって大将は降ろされる。

アクアは魔法を唱え、ゴーレムを手乗りサイズまで小さくしてポケットにしまった。

そして大将の方を向いて話しかける。



「大将、私はこれで。すずねちゃんのこと……よろしくお願いします。

あと、またご飯食べに来ますね」

「もちろん。次来た時もおごらせてくださいね」

「それと、もう一つ……」



アクアは大将のお腹あたりを指さした。



「お腹部分の魔法は一時的だから絶対に無理しないでください。

全て終わったら、ちゃんと病院に戻ってくださいよ。

じゃないと痛い目見ることになりますから」

「……わかりました」



アクアは大将の返事を聞いてニコリとして、歩いて町の中に消えていった。

その様子を見届けた大将は店の前に立つ。

店の扉に手をかけた瞬間、少し立ち止まり何かを思い出したかのように呟いた。



「アトラスが言っていた『生きてるけど、今が一番大切な時かも~』って言うのは、こういうことか……。とはいえ、こんな時に俺にできることはほどんどないと思うけど……ね」



自称気味に少し笑いながらも、「閉店中」の看板が下がっている店の扉を開け中に入った。



店の中はがらんとして、人の気配が全くない。

一階も二階も電気がついておらず、時計の規則的なカチカチという音のみが店の中に広がっていた。

大将は一階の電気をつけ、周りを見渡す。


いつもの店では考えられないような散乱した椅子や机、散らばっている道具の数々。

すずねの誘拐を知り、ルトと主に作戦会議をして、バタバタのまま出て行った状況がそのままが残されていた。

ただ、そこにはすずねの姿はなかった。

大将は首を横に振り、散らばっている状況を片づけもせずにゆっくりと二階に向かった。



二階に到着する。

一階と同じく時計の音しか聞こえず、人の気配が全くなかった。

大将はゆっくりと歩き、すずねがいつも寝ている部屋の扉の前で立ち止まる。

そして目をつぶり、一度大きく深呼吸をした。

ゆっくりと目を開き、口を開き声をかける。



「すずねちゃん……開けるよ」

「……」



その言葉に部屋の中からは物音一つ返ってこない。

それでも大将はすずねの部屋の扉をゆっくり開けた。

大将の目に入ったのは、部屋の角で布団を頭からかぶって三角座りしているすずねだった。



外も夜で暗く部屋の電気はついていないため、大将はすずねの顔をしっかり見えてはいないようだ。

大将は様子をうかがうためかすずねの部屋に足を踏み入れ、少し近づいた。



すずねに近づいた大将はすずねの様子をみて、目を見開く。

そこに座っていたのは、いつもの元気なすずねではなく、顔はやせ細り、目の下には隈ができていた。

うわの空なのか、何かをぶつぶつとずっと呟いていた。

部屋に入って来た大将のことも気づいていない様子で、目線は宙をさまよっていた。



大将はそんな様子のすずねに気づき、下唇を噛んだ。

右手に力が入っているのか、握りこぶしができている。

そして、すずねにさらに一歩近づき、いつもの優しい声で声をかける。



「すずねちゃん」



その言葉を聞いて、ビクッとするすずね。

ゆっくりと大将の方を向き、目から涙が流れ頬を伝う。

下を向きほとんど聞こえない、かすれた声で話す。



「お願いだから、こないで……」



すずねから出た言葉は、拒絶だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る