ep.12-4 アイルが見たもの
「あの場所は……もしかして……」
大将は何かを思い出したのか、少し声を震わせながら話す。
アイルは大将と同じ方向を向きながら答える。
「あぁ、お前さんの倒れていた場所さ」
「……なら、この周りの焼け焦げた跡は?」
「これは、雷の跡だと言われている」
「雷の跡……?まぁいい。ならどうして、俺の倒れているところだけ焼けていないんだ?」
大将はアイルの方を向いて尋ねる。
アイルは大将の方を見ずに、そのまま血の跡の場所を眺めながら話す。
「それを話すためには、俺が実際に当日見た話しをした方が良いな」
そう言うと、アイルは大将に長話を話し始めた。
◆◆◆
「おいおい……どうなってやがる。
ほんの少し前まで雷が止まらなかったから式典を終えて来たってのに……」
いつもとは異なり、びしっと決まった赤色の豪華な礼服を来たアイルは呟く。
天気は快晴でちょうど夕暮れになっていた。心地のいい風が勇者の頬を撫でる。
だが、目線の先は一面は吹きさらしになり地面は焼け焦げ、ボコボコになっていた。
そしてその様子はアイルの知っている場所とは大きく異なるらしい。
横には先端に丸い玉のついている杖を持ち、青い礼服を着ているアイルより少し年上に見える女性が話しかける。
「勇者!!あそこに倒れている方々は!?」
「はぁ!?誰だ、こんなところに」
アイルと女性は倒れている人がいる方に走る。
その途中で何かに気づいたのか、勇者の顔はみるみる真っ青になる。
「おい……待ってくれ。そんな……ハズは」
アイルは女性を置いて走る速度を急にあげる。
倒れている人に近づくほど、地面は焼け焦げが多くなっていく。
そして、そこには3人が倒れていた。
その3人の場所以外は全て真っ黒に焼け焦げているにもかかわらず、
3人が倒れている地面だけが全く焼けていないように見える。
勇者は服を汚すことをいとわず、地面に膝をついて叫んだ。
「大将!すずねちゃん!!ルトさん!!!」
並んで倒れている三人の様子を見て、手を出して起こそうとする。
だが、その手に何かがべったりついたことに気づき、手が震えはじめる。
そして後ろから走ってくる女性に泣きそうな顔で叫ぶ。
「僧侶!早くしてくれ!!!大将がやべぇ!!!血が……血が!!!」
そこに来た僧侶と呼ばれる女性は三人を見て冷や汗を流す。
アイルと同じく膝をついて様子を見て、力強く勇者に答える。
「勇者、しっかり!!まだ息はあります。
ここは私に任せて、他の二人を見て来てください!」
僧侶は杖を握りしめ、魔法を詠唱し始める。
大気が震え、緑の光が集まってくる。
その光が大将の体を包み込んだ。
「勇者一行の僧侶として、絶対に死なせませんよ!!!」
僧侶はさらに魔法を詠唱する。
大将の体を包み込む緑の光がさらに流れ込んでいるようだ。
その様子を尻目に、アイルは他二人を起こそうとする。
すると、先にルトの目が開く。
「うーん……ここは?」
「ルトさん!大丈夫ですか!?」
アイルの言葉にルトは首を大きく振って頭を起こしているようだ。
そしてアイルの方を見る。
「勇者殿……大将と嬢ちゃんはどこに!!?」
「大将はたぶん大丈夫のはず……この世界最強の僧侶が見てくれてる。
すずねちゃんはそこで倒れているよ」
「……そうか、それなら良かった」
「何があったんだ?さっきまで暴風が吹き荒れているところで!!」
「暴風?あぁそうか……」
ルトは何かを思い出したようだ。
そしてアイルの話を無視して、すずねを起こそうとする。
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
「……ん」
すずねはルトの声で目が覚めた。そして上体を起こす。
それを見たルトはすずねに再度話しかける。
「嬢ちゃん、体に異変はないか?」
「……!!!」
すずねはルトの顔を見て怯え始めた。
キョロキョロと周りを見渡し、緑の光の玉の中にいる血まみれの大将と僧侶を見た。
そして自分の血が付いた手をじっと見て、何か違和感に気づいたのか尻尾を動かす。
その様子を見ていたアイルがルトと同じ言葉をかける。
「すずねちゃん、どうかしたの?」
ビクッ!!!
すずねは立ち上がり、アイルとルトから後ずさりをして距離を取る。
そして涙をボロボロと流し始めた。
「こないで!!!」
すずねの言葉にアイルとルトは驚きを隠せない。
すずねはそんな二人を無視して続けて言い放つ。
「もう……たいせつなひとを……」
「だれもきずつけたくないの!!!」
そう叫ぶと、すずねはアイルとルトを置いてどこかに走り去ってしまった。
その後ろ姿から見える尻尾は、3本揺れていた。
◆◆◆
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