ep.12-3 再び西地区へ

アクアと大将をお姫様抱っこしているゴーレムが西地区に到着する。

ゴーレムは抱っこしていた大将を立たせると、膝をついて動かなくなる。



「少し歩きますよ」



アクアはそう言うと、どんどん歩きはじめる。

大将はそのアクアの後ろについて行くが、すぐに大将の記憶と違うところが多いのかアクアに尋ねる。



「アクアさん。ここ、こんなにも吹きさらしでしたっけ?もっとがれきがあった気が……」

「えぇ。先日ここに来た際、私も全く同じ感想を持ちましたよ」

「えっ」



大将はアクアの返事に戸惑う。

アクアは目的地があるのか、どんどんと先に歩き続ける。

歩けば歩くほど、地面の所々に何かで焼け焦げた跡が見られるうえ、

地面がデコボコし始めた。

大将はその道を少し歩きにくそうにしながら呟く。



「確かこの道はすずねちゃんを迎えに行くときに歩いた道だったはず。

こんなにもデコボコしていたら気づくと思うんだけどなぁ……」

「……」



前を歩くアクアは無視しているのか、聞こえていないだけなのか、何も話さない。

そして急にアクアは立ち止まり、大将もそれにつられてアクアの後ろで立ち止まる。

アクアは急に声を張り上げた。



「勇者様、魔王様!!大将を連れてきました!!!」



そう言うと、少し遠くから走る音が聞こえてくる。

その音は次第に大きくなる。

大将は目の前にいるアクアの奥から勇者アイルと魔王ルヴィアが走ってくるのを見つけたようだ。

そして少し手を振った。



アイルとルヴィアはいつも店に来るようなラフな格好で近づいてくる。

そして大将の目の前に立った。


ルヴィアは少し涙ぐんでいるように見える。

アイルは下を向いて、顔が良く見えない。

ルヴィアが口を開く。



「大将!!体は大丈夫なの!?」

「えぇ、何とか生きてます。ご心配おかけしたようで」

「そりゃ意識が戻らなかったからね……まぁ元気そうでよかったわ」



ルヴィアはにこりとする。

次に、まだ下を向いている勇者が低い声で尋ねる。



「大将……側近ちゃんにちゃんと魔法で痛みは止めてもらったか?」

「……?あぁ。緑色の魔法はしてもらったけど」

「そうか……」



大将はアイルが下を向いていることと、アイルの発言の意図をつかめていないようだ。

アイルはゆっくりと顔をあげる。

その顔は真っ赤になっていて、激怒しているのが良く分かった。

そして振りかぶって大将の左頬を右手で作った握りこぶしで殴った。



「ゴフッ」



大将はアイルに殴られた衝撃で倒れる。

何をされたのか理解できない大将は、ただただ左頬をさすって黙っている。

アイルは殴った右手が痛いのか、ひらひらさせながら叫ぶ。



「お前!!どうして俺を呼ばなかったんだ!!!!」

「……すまない。ただ、時間も全くなかったし、お前は終戦記念日の式典だったじゃないか」



大将の言葉にアイルはさらに顔を真っ赤にする。

そして胸倉をつかんで大将を立たせて怒鳴る。



「終戦記念日の式典なんて、お前の命に比べればカスみたいなものじゃねぇか!お前も、すずねちゃんも、ルトさんも……死ぬところだったんだぞ!!わかってんのか!!!?」

「……すまない」



大将はいい訳もせず、素直に謝る。

アイルは胸倉を掴んでいた手を離し、低いトーンで話す。



「次に同じ事したら、お前とは絶交だからな。どんな時でも困ったら俺に頼ってくれ」

「……あぁ、わかった」



大将はアイルの目をじっと見て答える。

アイルは何かに納得したのか縦に大きく頷く。

横で見ていたルヴィアは大きくため息をついて話す。



「ハラハラさせないでよ」

「これに関しては謝る気はないね。さすがに今回は大将が悪い」

「私も頼ってほしかったってところは同じ気持ちだから……

まぁ、これぐらいにしときましょ」



アイルとルヴィアはにこやかに話す。

その様子を見ていた大将はアイルに怒られた影響かいつもより小さな声で尋ねる。



「アイル、ルヴィアさん……。アクアさんに、すずねちゃんに会いたければここに来いって言われてきたんだけど……」

「あぁ、そうだな。大将、この光景を見てどう思う?」

「この光景……?」



アイルは自分の体で風景を遮っていたことに気づいたのか、

サッと横にどいた。

目の前の光景を見て大将は信じられないのか目を見開く。

そして小さな声で呟いた。



「なんだ……これは……」



大将の目の前には、さっきまでぽつぽつしかなかったはずの真っ黒に焼け焦げた地面が

ほぼ一面真っ黒になっていた。そしてさっきまで以上に道がボコボコなっていた。



ただ、その焼け焦げた地面の中央にある半径2mぐらいの円の内側だけが焼け焦げておらず、平たんではあるものの、その真ん中には血の跡がべったり残っていた。

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