ep.11-1 西地区の荒れた廃墟にて

西地区の人里離れたとある場所。


この場所は周り一帯が手付かずになっており、

家は上半分が無かったり、塀もほとんどが欠けていた。

もちろん、人の気配は全くない。



ただ、その中でもたった一つの廃墟だけはギリギリ形を保っていて、

この場所を示すシンボルのような建物となっていた。

とはいえ、廃墟の中はいたる所にがれきが散乱しており、

天井もなく、吹き抜けになっている。

天気は良いのか、空は雲一つなく晴れているものの、

すでに太陽は落ちて、だいぶ暗くなっていた。



仮面をつけ、頭から黒いローブをまとっている二人が、がれきに座っている。

顔は仮面で隠れてわからないが、がたいがごつい人と華奢な体つきの人のように見える。

その横には両手を前にした状態で手首を縛られて、身動きが取れないすずねがいた。



ごつい方が華奢な方に話している。



「おい、本当に来るのか?」

「知らないね。来なけりゃこいつを始末するだけ。それが今回の仕事......」



声のトーンからごつい方が男、華奢な方は女のようだ。

その声を聞いたすずねは顔を真っ青にする。

耳も尻尾もペタンとして、全く動かない。



「それもそうだな。俺たちはただの雇われだし」



その言葉に華奢な女が黙って頷く。

すると、遠くからガラガラと馬車の引く音が鳴る。

そして二人から見えない所で止まった。

その音を聞いた二人は黙って立ち上がる。



ざっざっ……



一人の足音が遠くから響く。

華奢な女がすずねの腕を引っ張って立たせる。

すずねは足腰に力が入らないのか、よろよろと立ち上がる。



遠くから、いつもの白い割烹着ではなく、

黒のロングコートを来た大将が一人で歩いてきた。

手はポケットの中に突っ込んだままであり、

顔もこれまでに見たことが無いほど怖く、目も全く笑っていない。

そして、声が届くぎりぎりまで近づいて大将が口を開いた。

これまでに聞いたことのない低い声で話す。



「時間どおりに来た。すずねちゃんは無事だろうな?」

「あぁ。お前が何もしない限りはな」



ごつい男が数歩前に出て話す。

それを聞いた大将は尋ねる。



「時間がもったいないからさっそく本題にいこう。何が目的だ?」

「要求はたった一つ。お前の店をやめてもらいたい」

「……」



大将は顔色一つ変えずに黙る。

何かを考えているようだ。そして少し経ったのち口を開いた。



「それは......難しい相談だな」

「……なら、この小娘にはこの世からさよならしてもらうことになる」

「たいしょう……」



すずねは誰にも聞こえない声で呟く。

聞こえていないはずだが、すずねの姿を見た大将は唇を噛みしめた。

そしてまっすぐ仮面の二人を睨みつけながら尋ねる。



「……どうしてこんなことをする?」

「なんだと?」

「俺が店をやめて何になる?俺の店に恨みでもあるのか?」



ごつい男は華奢な女を見た。

華奢な女は首をクイッとあげた。

それを見たごつい男は答える。



「知らねぇな」

「……金か」

「否定はしない。これが俺たちの生業だ」

「お前たち二人……のか」

「そうだな」



その答えを聞いた大将はゆっくりと、そして大きく首を横に振った。

そして続けて尋ねる。



「ここで俺が店をやめると言えば、それでいいのか?」

「そりゃ……そうはならないな」

「ならどうすればいいんだ?」



ごつい男はさらに一歩前に出た上で、懐から大きな牛刀のようなものを取り出す。



「とりあえず……腕の一本でもいだたくとしよう」

「なるほど。そうきたか」

「お前の腕一本とこいつが交換ってことだな」

「……であれば、すずねちゃんが無傷か見せてもらおう」



大将も二人に近づく。

ごつい男まで3mぐらい、華奢な女まで5mぐらいの場所まで歩いた。



「おい、それ以上近づくな」



ごつい男は牛刀を構える。

大将は立ち止まる。



どちらも一言も話さず、時が過ぎる。

どこかで石が転がったのか、カランという音が鳴る。

だが、二人ともに何も話さない。

数分後、ごつい男は何も進展しない状況に嫌気がさしたのか、口を開く。



「でどうする?お前の腕一本を犠牲にしてこの場を収めるのか……

 お前とこいつの二人とも死ぬのか。決めたか?」

「……」



大将は静かに目を瞑る。

そして叫んだ。



「両方とも断る!!!!」



そしてポケットから手を抜き、丸い何かを目の前の二人に向かって投げた。

その瞬間、大きな音と光が一面を覆った。

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