ep.7-3 みんなでおいかけっこ

ルヴィアは大将の目をしっかり見て話す。


「過去には9尾の妖狐がいたと書かれていたわ。

 でも、その妖狐が『いた』こと以外は何も書かれてないのよ。

 他の魔物については事細かに書いている書物なんだけど」

「……つまり?」

「どうすると尻尾が増えるとかは一切書いてないってこと。

 元々9尾なのか、尻尾が増えて9尾なのかはわからないの」

「なるほど……」



大将は少ししょんぼりする。

それを慌ててルヴィアが大将の方を向いてフォローする。



「ま、まぁ。私たちも完全に調べ切ったってわけじゃなくて、

 書庫を少し漁って調べただけだから。

 また、何かわかったら伝えに来るわよ」

「すみません、よろしくお願いします」

「その代わり2つお願い。一つ、あの子に何かあったら必ず連絡を頂戴。

 もう一つは……」

「もう一つは……?」



少しためて話すルヴィアに少しおびえながら大将が尋ねる。

ルヴィアの目線は再びすずねの方を見た。



「あの子のあの笑顔はちゃんと守ってね」

「……もちろんです」



二人は追いかけっこをしている二人を少し見ていた。

少し時間が経つと、ぜぇぜぇ言いながら

アイルは座っている二人の元にとぼとぼと歩いて帰って来た。

そしてシートの上に大の字で倒れ込む。



「もう無理!!!すずねちゃん、元気すぎ!」



倒れ込んだアイルの元にすずねが走ってくる。

そしてわくわくしながら話しかける。



「もうおわり?まだまだおいかけっこしよ!」

「むりむりむりむり!!!!!」

「む~」



アイルの言葉にすずねは頬を膨らませて残念なようだ。

それを見たルヴィアが立ちあがる。



「なら、私と遊ぶのはどう?」

「うん!!」

「なら、あの木までかけっこしようか。先に行くね~」

「あっ……まって!!」



ルヴィアは先に走り始め、それをすずねが追っかけていく。

あっという間に、二人の姿は小さくなっていく。

その姿を眺めつつ、大将は話す。



「大丈夫か?」

「大丈夫に見えるか??」

「お前ならまだまだ大丈夫だろう」

「こんなことで体力がなくなるなんて、

 俺も平和ボケしてるってことかもな……よっと」



大の字に寝転がっていたアイルは起き上がる。



「うーん、風が気持ちいい……」

「そうだな……」



二人に心地よい風が吹いている。

その風を肌で楽しみながら、アイルが話す。



「そうそう、祠の扉の件、俺の友達に依頼しておいた」

「おっ、ありがと」

「また、今度勝手に祠は見に行くって。あと、ざっくり1~2週間ぐらいだろうってさ」

「おう。その人に是非飯食いに来てくれって言っといて。おごらしてほしいから」

「了解~。俺もタダで食っていい?」

「……」



大将は沈黙する。

それに対してアイルも何も話さない。

ただ、二人の顔は自然とほころんでいた。

ふと何か思い出したのか、大将が話しかける。



「今日はどうしてお前しか来なかったんだ?

 魔王の方は側近含め時間が合わなかったって聞いたけど」

「あぁ、魔法使いは興味ないからパス。僧侶は行きたかったらしいけど忙しいって。

 あと……戦士はまぁいつも通りあれだから。

 魔王やすずねちゃんがいるところに来るとは思えない」



ハァと大きくため息をつく。



「もう少し考えを柔らかく持ってほしいものだけど。今日もたぶん剣を振ってると思う」

「……勇者一行でまだ戦士さんだけは見たことないからな」

「そりゃそうだろ」



当たり前のことを聞くなという顔で大将を見る。

大将は不思議そうに尋ねる。



「それはやっぱり……魔族が嫌いとか?」

「まぁな。そこは触れないでくれ」

「あぁ、わかった」



アイルはきっぱりと拒絶する。

大将も深くは聞かずに前を向く。


二人とも遠くの方を再び眺めた。

よく見ると、遠くからすずねが走ってこちらに来る。

その後ろをへとへとになったルヴィアが追いかけている。



「おーい!!」



すずねは両手を大きく振りながら大声で叫んでいる。

それを聞いたアイルは立ち上がり、叫ぶ。



「おーい!!俺もそっちに行くわ!!!」



そしてアイルは全力で走って行った。

大将も腰を上げ、アイルのあとを追いかけて走った。

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