ep.8-1 扉の模様とお寿司

太陽がちょうど真上にあるぐらいの時間。

『ゆうなぎ』はまだ開店していないにもかかわらず、

店の中ではルトと頭にはちまきをつけ耳に鉛筆をかけている人間が

机の上に図面を広げて話し込んでいた。



「ここはこの模様の方が良い気が……親方、どう思う?」



ルトが書いた花のような模様の横に、親方と呼ばれた人間が耳にかけていた鉛筆を使って、

さっと模様を横に書く。



「いえルトさん、こっちの植物の模様の方が良いと思います。

 この植物はここら辺の町の伝統的ものなので、似合うかと」

「なるほど。この町の伝統か……やっぱりは親方には勝てねぇな。

そもそも、技術でも勝ってないか!ガハハ!」



ルトはげらげらといつもの感じで笑う。

図面の模様の細かい所を修正しながら親方は答える。



「やめてくださいよ、ルトさん。木とか金属への彫刻とかは確かに得意ですが、

 そもそもの加工はルトさんの方が圧倒的なんですから……」

「まぁな。また今度うちの工房に来いよ。一緒に何か作ろうぜ」



その言葉に模様の修正の手をピタッと止め、

ルトの方を向いて、目を輝かせながら答える。



「良いんですか、ルトの工房へ!?約束ですよ!」

「もちろん、親方ならウェルカムだ!」

「これは嬉しい……さて、この仕事もさっと終わらしちゃいますか!」



二人は話しつつも、図面に細かい模様を書き込んでいく。



「ねぇ……なにしてるの?ふわぁ……」



もふもふの2本しっぽを左右にユラユラさせながら、すずねが話しかけながら歩いてくる。

今起きたばっかりだからなのか、目をこすりながら歩いてくる。



「すずねちゃんか。いま、そこの祠の扉の模様を考えているんだよ」

「どんなもよう?」



ルトの返事に、すずねが覗き込む。

寝ぼけていた目が見開かれる。



「これ、すごくきれいなはな!たいしょう、すごいよ!!」



すずねはカウンター奥にいる大将に向かって叫ぶ。

その言葉に、トウカは黙りつつも顔がにやけていた。

呼ばれた大将は両手で寿司桶を持ちながら歩いてくる。



「確かに綺麗だな!ルトさん、トウカさん。

色々ありがとうございます。せっかくなんでお昼ご飯どうぞ」



手に持っていた料理を渡す。

それを見たルトとルトに親方と呼ばれていたトウカは声をあげる。



「やっぱり大将!うまそうだな」

「大将さん、こんな高そうなやつ良いの?」

「あぁ。なんか今回扉の件については、アイルが金を出してくれて、

 俺は何も出してないから、これぐらいは安いものだよ。

 さぁ、みんなで食べよう!」



寿司桶を図面が広げられている所じゃない机の上に置き、

お茶や小さな小皿を並べていく。

図面の前にいた3人は、大将が準備してくれた場所に移動し椅子に座る。

そして大将も座ったのち、全員手を合わせる。



「「「「いただきます!!!」」」」



各々、寿司桶に入ったお寿司に手を伸ばす。

そして口いっぱいに頬張って、みんな笑顔になる。



「このきいろいの、すこしあまくておいしい!!!」

「ガハハ!この赤いやつうめえぞ!」

「このコリコリした吸盤のついてるやつの歯ごたえ……たまらない」



三人とも色々な寿司をがっつき食べ始めた。



「きいろいつぶつぶもおいしい!」

「こっちは赤いつぶつぶだぞ……なんだこれは!?」

「こっちもこりこりしてる……なんだこの白いのは?」



大将は3人が各々バラバラなことを話す状況に苦笑しているようだ。

ただ、自分自身もすぐに食べ始めた。

大将はみんなが元気に食べていることにニコニコしている。

そしてあっという間に寿司桶の中が空になった。



「「「「ごちそうさまでした!!」」」」



みんなで手を合わせて呟く。

大将は机の上のお皿などを片づけ始める。

その様子を見ていたルトとトウカは大将にお礼を言う。



「大将、おいしかったぞ!また頼んだ!!」

「大将さん、こんなおいしい物ありがとうございました。

 さて、元気ももらったし扉の模様の件、頑張りますか!!」

「お安いものですよ。扉の件、ぜひよろしくお願いしますね」



二人は図面のある机に移動して、さっそく模様の吟味を始めた。

大将はお皿などの洗い物を始める。



「たいしょう、はいこれ。おすし、とってもおいしかったよ!」



すずねは空になった寿司桶を持って来た。

それを見た大将は寿司桶を受け取り、手を少し拭いてからすずねの頭に手を撫でる。



「ありがとう。また作るね」

「うん!やくそくだよ!!」



二本のしっぽは左右にゆっくり揺れていた。



お昼ご飯の片付けも終わり、すずねは店の掃除、大将は夜営業のための仕込みを始める。

もちろん、店の一角ではルトとトウカがあれやこれやと議論している。

すると、店の開き戸がバン!と力強く開き、ぞろぞろと人が入ってくる。



「おい、お前たち!この店で何をしている!!」



衛兵らしき人が3人、怒鳴りながら入って来た。

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