第8話 結論

俺はホワイトボードに今までの議論の内容をまとめた。


「これが俺達の導き出した推理だ」


「2006年8月31日、15時に俺と咲は公園で会う約束をした」

「だが、咲は公園に来なかった」

「約束を破った事情が何かは分からない。きっと、二人の距離を広げる何かがあったんだ」

「俺との離別を避けるために、咲は手紙を書いた」

「手紙に【集合場所、集合時刻】と【隠し場所のヒント】を書き、それを俺が読むことで再開を果たす。咲はそう計画を立てたんだと思う」

「咲は、手紙と隠し物を持ち、約束の時刻よりも前に公園へと向かった」

「手紙は、後から公園に来る俺が気づく場所に置く必要がある」

「俺達が出会った木の下に置くだけでは、手紙は風で飛ばされてしまう」

「そこで、木の近くにあったベンチに手紙をテープで貼り付けたんだ」

「次に、公園のどこかに穴を掘り、持っていた何かを埋めた」

「隠し物の目印として、埋めた場所には花の種を植えた」

「花は栞と同じ花、マーガレットだ。マーガレットは日本で自然に咲かない花だが、この地域の気候特性から野外でも咲くことは可能だ」

「花は長期間に渡って咲き続ける」

「看板とは違って、他の誰かが見ても隠し物の目印だとは分からない」

「そういう意味で、花は目印にうってつけだ」

「彼女と待ち合わせの約束をしたのは、2006年8月26日。たった、6日間で花は咲かないが、きっと隠し物自体、俺が手紙を見落とした時の保険だとしたら、長期的に咲く花を目印とすれば辻褄があう」

「そうして、計画を実行した彼女は公園から立ち去った」

「以上で推理のまとめだ。何か指摘がある人はいるか」


読野が、目をとがらせて俺の顔を見た。何か間違いがあっただろうか。彼女のとがった目は丸くなり、笑顔でこう言った。


「今の推理に問題はないわ」


 続けて、悠平と雪上が言葉を発した。


「創!俺も大丈夫だと思う!」

「創さん、私も同じ考えです!」


 大きく息を吸い込み、浅くなっていた呼吸を元の呼吸に戻した。その直後、咲に繋がる大きな手掛かりを得た実感に安堵した。彼女とまた会えるかもしれない。今彼女は何をしているのだろうか。

ピアノはまだ続けているのだろうか。それとも…。

咲との再会に浮かれている俺を横目に、読野が立ち上がった。


「まだ、事件の推理をしただけよ」

「答え合わせをして、初めて推理から真実になるの」

「今の推理が間違っている可能性もある」

「創君、浮かれるのはまだ早いわよ」


読野の言葉に、ふと我に返った。

そうだ、あくまで推理だ。

咲と再会するために、まだ、しなくてはいけないことがあるだろう。


「公園に行って、真実を確かめよう」

「皆、協力してくれるか?」

「私から、創君にけしかけた話よ、最後まで協力するわ」

「それに、推理が合っているか確かめたいしね」


雪上もこちらを向いて、うなずいた。


「はい!こんな面白そうな話!見過ごすわけにはいきません!」


悠平に目線を向けると、ニヤニヤした顔をしていた。


「当たり前だろ!お前が好きな咲ちゃんがどんな子か興味あるし、見ないわけにはいかないだろ!」


自分一人では、ここまで推理をすることはできなかっただろう。皆には感謝したい。まさか、手紙を捨てるという最悪の事態がかえって、最善の手であったなんて思いもしなかった。俺はホワイトボードに張った手紙を手に取り、握りしめた。


「真実を確かめに行こう」

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