第7話 謎解き3

「へーい、すみませんでした」

「残りの謎は【2013年4月1日】という日付についてね」


雪上が俺の顔を見て、手を挙げた。


「創さん、質問いいですか?」

「咲さんと何か約束をしたりしましたか?」

「約束?」

「仮に咲さんが創さんと再会したいと思っているなら、手紙に日付を書くはずですよね?」

「すぐに会いたいなら、数日後、長くても数ヶ月後を指定しますよね」

「でも、時期が数年後となると、何か特別な約束をしたのではないですか?」


咲と何か約束をしたか思い出す。

咲と遊んだ時に話したことは、お互いの習いごと、学校、家族、友達の話とかで約束なんてないよな。


「ごめん、約束はしてないな」

「あら、そうですか」


頭を抱えながら、悠平が言葉を発した。なぜか、不満そうな顔をして。


「創が忘れているだけなんじゃないか?」

「少年サッカーの帰りとか、約束しても勝手に帰ること多かったしな」


今更掘り返すなと思うが、帰りの自主練に意識が向きすぎて、悠平を置いて帰ってた。

確かに悪かったな。


「悪かったよ」

「そう言われても、覚えてないものはな…」

「創か咲ちゃんの誕生日がこの月とか?」

「いや、咲は8月生まれで俺は2月生まれだ」

「創と咲ちゃんが出会ったのは、4月ではなく8月…」

「2014年の4月とかなら高校卒業後だけど、13年はまだ高校生だし」

「2013年4月ってびビミョーな時期だよな」


確かに、咲はなんでこの時期を指定したのだろう。

何か特別な時期なのだろうか。

もう一度、咲との会話を思い出してみる。

俺は、目を閉じて過去の記憶を辿る。

記憶を手繰り寄せていると、この場にふさわしくない言葉が聞こえた。


「おっしゃ!やった!!」


驚いた俺は目を開けると声の主が悠平であるとわかった。

スマホを見て喜んでいる。


「悠平、どうしたんだ?」

「サッカー日本代表の試合チケットが当たったんだよ!」

「ワールドカップ前の親善試合だからさ、どうしても見たかったんだよね」


突拍子もない話題に、俺と雪上は呆れた顔をした。


「悠平さん今は、議論中ですよ!空気を読んでくださいね!」

「つい嬉しくて…ごめん」


読野もさぞ呆れた顔をしているのだろうと思い、彼女の方を見る。

意外だった。彼女はなるほどという表情をしていた。


「悠平君、そのワールドカップって四年に一度開催だったわよね」

「そう、四年に一度のビッグイベント!サッカーファンなら必ず見る試合だよ」


読野なら議論に関係ない話はしない。

何か関係があるのか。

俺がサッカーの話しを咲にしたからって、サッカーに関するイベントを指定するとは思えない。


「読野、流石にワールドカップは関係ないんじゃないか?」

「いえ、ポイントはサッカーの試合ではなく、【四年に一度】がポイントよ」


そう聞いて、俺の中の推理のピースが埋まっていく。


「そうか、数年に一度のイベントを指定すれば、再開することができるのか」


咲に何かがあって、数ヶ月単位では俺と会えなくなったとする。

そしたら、何年かに一度起こるイベントを指定すれば、そこで再会することができる。


「創君の言ってくれた通りだわ」

「何も、数年に一回の決まったイベントは、スポーツだけではないわ」

「えーと、私が好きな花で考えると、リュウゼツランという植物が百年に一度咲くと言われてます」

「そう、自然現象も数年に一度のイベントよ」

「数年に一度のイベントはたくさんあると思うの」

「創君、もう一度、その観点から、咲さんとした話にヒントがないか思い出せないかしら」


議題に挙がった観点から、再び咲との会話を思い出す。

数年に一度…話をするなら咲と俺が話しをしそうな内容。

サッカー、ピアノ…は、関係なさそう。


俺が、記憶をたぐり寄せていると、部室が暗くなった。

部室の窓から外を見ると、ちょうど、太陽が雲で隠れていた。

太陽が隠れた影響で、部室が薄暗くなったのだ。

太陽…星…


「あっ、思い出した」

「咲が頭につけていた髪留めが、星の形をしていたんだ」

「そしたら咲は星が好きっていうから、話を聞いて見ると、髪留めの星は彗星をモチーフにしているらしくてさ…」

「そこから、いつか星を見に行きたいねって…」

「創…やっぱり忘れていたじゃないか…」

「創さん、2013年4月の天体イベントをスマホで調べたのですけれど」

 雪上は、スマホを机の真ん中に置くと、記事をスワイプして見せた。

「【アンドレアス彗星】【2013年3月から5月ごろにかけて、日本全土で観測が可能】【4月1日が地球に最接近し、最も明るく見える】」

「【2013年4月1日】は彗星の観測日ってことね」


【2013年4月1日】が何の日付なのかは推理ができた。

でも、どこで会うかの場所だが…

ここしかないよな…


「再開の場所は、公園だと思う」

「創君、場所が公園だという根拠は何かしら」

「俺と咲は公園でしか会っていない」


俺は、読野の目を見てこう言った。


「それと、なんだかそんな予感がするんだ」


勘だなんて言ったら読野は、嫌な顔をするだろうが、咲も同じことを思っている気がした。


「創君…その言葉信じるわ」

「公園でしか会っていないなら、そこが一番確率として高いと思うし」

「なにより、咲さんのことを思う創君が、そう感じたのなら反対することはないわ」

「感は、経験の蓄積だって言われるくらいだし、咲さんとの思い出が無意識的に創君の推理を導いているかもね」


雪上が目を輝かせて言った。


「咲さんとはお互い、運命の糸で結ばれていると思います!糸をたどってみることもいいんじゃないんですかね!素敵です」


悠平も満面の笑みでこう言った。


「俺も賛成だぜ!」

「仮に推理が外れていたとしても、俺がそこら中駆け回ってさがしてやるよ」


読野はホワイトボードの前から動くと俺の椅子の後ろに来てホワイトボード用のペンを俺に差し出した。


「創君、今回の推理について、あなたがまとめてくれるかしら」


俺は椅子から立ち上がるとペンを受け取って、ホワイトボードの前へと移動した。

皆の顔を見つめて言葉を発した。


「今までの推理について整理するぞ」

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