第4話 私に解けない謎はない
読野という名前には聞き覚えがあった。
悠平から聞いた話だが、何でも3年生に問題児がいるとか。
問題児と言ったら不良男子生徒の喧嘩、タバコ、イジメなどが想起されるがそうではない。
読野は急に、授業から抜け出す、初対面の生徒をどこかに連れ去る、理科室で謎の実験をする等、奇行が目立つ生徒だ。
浮いている生徒と言った方が正しいか。
ただ、たまの奇行に目をつぶれば容姿端麗、成績優秀と文句をつけるところがない。
校内にはファンが多いとか。
そりゃ、こんだけ美人なら多少の行動もギャップとして受け取られるだろう。
だが、いくら美人でも、部活に集中したい俺にとっては、関わりたくない存在だ。
俺は尻もちをついた状態から、腰を持ち上げ立ち上がった。
「出迎え方が少し強引だったわ」
「来客に対して、雑な扱いをしてしまったわ、ごめんなさいね」
「来客?一体、俺に何の用事があるんですか」
「少し、話が長くなるわ。どうぞ、かけて」
他団体の部室をじっくりと見たことが無いから新鮮だった。部屋の壁に沿って本棚があり、本棚には、小難しそうな本がぎっしりと詰まっている。部屋の中央には長机と、パイプ椅子。机の奥側にはホワイトボードが置いてある。
「手短に話してくれませんか。時間がないんで」
「短くまとめるのは無理ね」
「では、俺は、帰ります」
こんな変人と付き合っている暇はない。
早くグラウンドに行って自主練しないと。
「そう、それは残念ね」
「だったら、私一人で何とかするわ」
「でも、あなたに協力して貰った方が早く解決すると思うのだけれど」
読野は、後ろに組んでいた手を体の前方に持ってくると、俺にそれを見せてきた。
彼女が俺に見せた物は、捨てたはずの手紙だった。
「ゴミ漁りが趣味だなんて意外だな」
「あら、ゴミ箱の脇に落ちていた、ゴミを拾うぐらいのことはよくするわよ」
教室の入り口から、近くのごみ箱に、投げ入れるような捨て方をしたせいで、ちゃんと入っていなかったのか。
「それは、捨てたものだから、俺に渡してもらえますか?今度はちゃんと処分しておきます」
「あらそう、あなたの物だし、渡すわよ」
「でもこれって、元は手紙だったのでしょ?」
「そうだけど」
「なるほどね」
「本当は、手紙の謎について割り切れていないのでしょ」
「最近、何をしてても上の空だって、山口さん言ってたわよ」
「このことについて、誰かに、相談した?」
「してないけど…」
「だったら、運が良かったわね、私が相談相手で」
「運が良かった?」
「読野に相談したら何か変わるのか?」
「変わるわけないだろ」
「この手紙からどうやって内容を推理しろって言うんだよ」
「もう、彼女とは会えないんだ…」
俺だって本当は、諦めたくないさ。でも、来月には大会がある。いつまでも後ろを振り向いていてはだめなんだ。俺だけの気持ちでチームに迷惑をかけるわけにもいかない。こんな気持ちはここで捨てるべきなんだ。
「弱音を吐いていないで、私に任せなさい」
彼女の表情は自信に満ち溢れていた。
何が彼女に自信を与えるのかは分からない。
もしかしたら、彼女ならこの謎を解けるのではないか。そう一瞬思ったが、無理なものは無理だ。
「なんか、自信ありそうですけど、俺は手紙を捨ててこの件は忘れます。」
「そう…」
ついに諦めてくれたか…
俺の考えとは裏腹に彼女はこう言い放った。
「どう思うのかは、あなたの勝手だけど一つ確かなことがあるわ」
「私に解けない謎なんてないの」
なんでだろう、彼女の言葉には説得力があった。
「本当なのか?」
「ええ、約束するわ」
「それにね、大会があっても今日はサッカー部オフなのでしょ」
「たかだか、数時間であなたの気持ちが晴れるなら試す価値はあるんじゃないの?」
読野の言うことは確かだ。
最後に、誰かの力を借りて全力で謎を解いてみる。
それで解けなかったら、やるべきことはやったって思える。
それに、こんなに自信があるって言ってんだ。
解いてみせるさ。
俺は、机の上にあったホワイトボードのペンを彼女に投げた。
「手紙について話すからメモしてくれ」
彼女はペンをキャッチするとこういった。
「もちろん」
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