第3話 ミステリー研究会

2013年3月25日




クラスルームが終わり、先生が三学期の終わりを告げた。学級委員が終了の号令をかけると、教室は一気に喧噪に包まれた。旅行の予定、部活の大会、進路について、色々な話題で溢れていた。


今日は珍しく部活はオフだ。だが、家でダラダラと寝転がっているよりも体を動かしたい。自主練相手の悠平に声をかけようとあたりを見回すもいない。


どこに行ったのだろうか。


まぁいいか、グラウンドで練習をしていれば、あいつも来るだろう。そう思い、俺は一人で教室を出た。




教室を出た俺が向かったのはグラウンドではなく、教室と同じ校舎にある、とある同好会の部室だ。


手紙のせいで、ここ最近授業をまともに聞いていなかった。


そんな俺に、ノートを貸してくれた恩人がいる。


部室に向かっているのはそんな理由があるからだ。




部室の前についた俺は、扉をノックする。




「失礼します、山口さんいますか?」




部室の中にいた山口さんと目が合うと、俺はノートを返した。




「失礼しました」




深めにお辞儀をすると、部室の扉を丁寧に閉めた。無事に恩人に感謝を伝えることができた。


用も済んだので、グラウンドへと向かった。




廊下を歩いていると、正面から少女が歩いてきた。少女の背丈は小さく、高校生というよりは中学生ぐらいに見える。


一年生だろうか…


文化部の生徒なのか…


彼女について色々と考えていると、二人の距離は縮まっており、お互いの顔が分かるぐらいの距離になった。




俺は、廊下の中央のポジションから右へずれ、教室の壁に沿うような形で相手へ進路を譲った。


相手も同じことを考えていたらしい、俺から見て右側にずれ、再び二人は正対する形となる。


再び進路を譲るべく、廊下の中央の位置に戻ったのだが、またも相手が同じ動きをした。


相手を避けようとしてお見合いすることはよくある。


たしか、連続回避本能って名前か、相手を見過ぎて同じ行動をとり、結局前に進めなくなる。




こういう時は、その場に止まって相手を先に行かせよう。


だが、数十秒経っても相手は止まったままだ。


気まずい時間が流れる。


ならば強硬突破だ。多少の衝突覚悟で俺は強引に相手の左側へ抜けようとした。


だが、俺の動きに合わせるように相手も動く。


右、左、右、左、右と足を出すも少女の顔が目の前に現れつづけ、全く視界が開けない。


しびれを切らせた俺が彼女に声をかけた。




「あの。俺の左側から抜けてくれませんか?このまま止まっているので…」




彼女は今までのことが無かったかの様に満面の笑みで答えた。




「えーと、律歌りつかさんがお呼びです」


「はい?」


 


何を言っているんだ。


荒唐無稽な返事に、思考が停止する。


口を半開きにして、彼女の顔を見つめていると彼女の腕は俺の両肩に伸び、手で肩を握った。


その瞬間、女子とは思えない力で、押された。


いや違う、肩を押すのと同時に、俺の手を後方に引っ張る力が働いた。


みるみる、部室の扉に吸い込まれていく。


不意をつかれた俺は、抵抗する力を発揮する間もなく、教室の扉に背を向けたまま、尻餅をつく形で部室に入った。




「いって!怪我でもしたらどうするんだよ。こっちは大会前なんだぞ!」




一体、誰がこんなことを指示したんのだろうか。彼女が言っていた、ってやつか。


向こう一週間は笑えなくなるぐらい怒ってやる。そう思い、振り返った。


 


「ミステリ研究会にようこそ!」




そこには、長い黒髪、色白の肌、高い鼻、透き通った青色の瞳の少女がいた。




「私が部長の読野よみの 律歌りつかよ」

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