第二話
2-1
◇
雲は出現する高度によって大きく3種類に分けられ上層雲、中層雲、下層雲と呼ばれている。
上層雲は基本白色でゆったりした動きに見えるのにいつのまにか形が変わっていたりして変化が早い。上空は風がとても強いらしい。
中層雲は水平方向への広がりが大きい雲が多い印象。秋の空によく出るひつじ雲とか呼ばれる無数の雲たちも中層雲の一種だ。
下層雲は地表面から上空2000メートルくらいに出現する雲で、個人的に見てて1番面白い雲だと思う。いろんなヤツがいる。もこもこしてるやつとか山にへばりついてるやつとか扁平なのとか。
「今日はだいぶ下層雲が広がってるな」
昼休みの時間。3階渡り廊下のベンチに腰掛けて購買で買ってきたのであろうパンを頬張りながら天望部部長・晴山智紀は言った。(部員に三年生がいないので二年だが部長をやっている)
いつものように自分の席をクラスの女子に占領されてしまった俺は、今日は声をかける勇気が出ず、弁当を食べるために渡り廊下にあるベンチへと逃げたのだが、そこでちょうど顔見知りと出くわしたのである。
「なんで今日こんなに雲低いんだろうな」
3階渡り廊下は屋根がないので見上げれば空が見える。空は灰色の雲で覆われていた。見るからに低い雲もあって山肌にへばりつくような雲も見える。風が強いからか動きは速い。
「んー海上の霧が風に乗って吹き込んであそこの山に当たって浮いた雲なんじゃないかな。でも風強いから気温が上がりきる夕方には抜けるかもね、適当だけど」
晴山は勉強熱心なやつで、自分が気になったことはとことん調べて詳しくなるタイプの男だ。元々は天体観測目的で天望部に入ったはずなのに、2個上の気象に詳しい先輩の「今夜のこの町の天気予報」があまりにもよく当たることに相当衝撃を受けたのか気象に興味を持ち今となっては気象予報士の資格を取ろうとか言って勉強している。高校生でも取れるものなのだろうか。
今となっては俺よりも断然気象について詳しいし、元から天体についての知識に明るい上に好奇心旺盛だから天望部部長に相応しい男だ。
「やっぱすげーな、お前」
そう呟いて俺は自分の弁当をつつく。からあげうまい。冷食だけど普通にうまい。
「適当だから当たるかわからないよ、深川先輩じゃないんだから」
そう言いながらパンを頬張る晴山。
深川先輩というのは件の気象に詳しい2個上の先輩のことだ。この町の天気に関しては天気アプリなんかよりよく当たった。結局卒業までどうやって天気を予報しているのかは教えてもらえなかったが本人は「ツいてただけだよ」と言っていた。入学当初、屋上でぼんやり空を眺めていた俺を天望部に勧誘したのも深川先輩だった。
「期待してるよ、晴山。いつかピーカン晴れの夜に天望部で天体観測でも企画してくれ」
「あぁ、新入生の勧誘も兼ねて近々企画しようと思ってんだ。もうゴクセンには相談してる」
……冗談のつもりだったが本当にやるつもりらしい。
「村瀬、今日放課後部室に顔出してくれ。他の部員にも俺の方で声かけとくから、詳しい話は今日部室でやるよ」
天体観測といえば夜だ。街明かりから遠い方が星はよく見えるだろう。ということは場所は山上公園か、海辺か。最近暖かくなってきて虫も活発になってきた。天体観測は当然同じ場所に留まることになる。つまり……
「……」
「新入生が思わず食いつく勧誘文句考えなきゃなー」
なんてこった。
昼休みが終わって午後の授業が始まっても曇ったままの俺の心とは裏腹に空は晴山の予報通り下層雲が抜けて青空を覗かせていた。
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