第2話

「佐々木中尉、準備はできていますか?」

背後から声がした。振り返ると、上官の片桐少佐が立っていた。片桐は壮年の軍人で、伝統と規律を重んじる人物だ。


「はい、少佐。艦の状況は問題ありません」

翔太は敬礼しながら答えた。しかし、片桐の目は冷静ながらも何かを見透かすような光を帯びていた。


「君もあの旗について考えているのだろう?」

片桐が切り出した。翔太は一瞬言葉を詰まらせたが、正直にうなずいた。


「正直言えば、そうです。あの旗が掲げられることで何が起きるのか、少し心配です」


片桐は苦笑し、手すりに寄りかかった。


「心配するな。旗はただの象徴にすぎない。重要なのは、それを掲げる人間たちの意志だ」


「しかし、その象徴が過去を引きずり出し、未来を縛ることもあるのではないでしょうか?」


翔太の問いかけに片桐は一瞬目を閉じた。そして、遠くに見える新大和の艦橋を指差しながらこう言った。


「ならば、お前が未来を変えるためにその旗の意味を作ればいい。旗そのものに力はない。それをどう使うかが問題だ」


翔太は片桐の言葉に沈黙した。彼の胸に残ったのは、旗を巡る葛藤と自分自身の信念への問いだった。

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