再び旭日旗が翻る時
ごく普通の日本人
第1話
2075年、灰色の空が東京湾を覆い、冷たい風が波をかき乱していた。かつてこの港には、大洋を駆け抜けた無数の艦船が停泊していたが、今は閑散としている。日本が「平和国家」の旗印を掲げて久しい。だが、世界は変わりつつあった。
佐々木翔太は、新型護衛艦「新大和」の甲板に立ち、遠く水平線を見つめていた。視界の先には小さな点のように見える巨大なクレーン。進水式の準備が進む中、彼の胸の内は波のように揺れていた。
「また、あの旗が掲げられるのか…」
彼は父が遺した一枚の古い写真を思い出した。それは、大日本帝国海軍の艦艇に掲げられた旭日旗だった。紅白の鮮やかな光条は、当時の日本人にとって誇りであり、敵対国にとっては恐怖の象徴だった。その旗が進水式のセレモニーで復活することを、政府は「文化と伝統の継承」と説明していた。しかし、翔太の心は複雑だった。
彼の父・佐々木正治は旧日本海軍の末裔でありながら、戦後は平和主義者として生涯を捧げた人物だった。正治は戦争が生んだ悲劇と、自らが関与した破壊の責任を背負い続けた。その影響を受けた翔太は、平和を守るという信念のもと海上自衛隊に入隊したが、今、国が掲げる「防衛」の理想が崩れかけていることを肌で感じていた。
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