第50話 リスナー3



「ただいま帰ったっちゃ。」




「おっ!隊長がやっと帰って来たぞ!」


「あっホントだ~。」


「お帰り~。」




命の次に・・・・・いや、命より大事な帽子を被ったウチが帰ってくると皆が集まってくる。




「それで?愛しの愛しの【ゴースト】様はどうだったの? あと、どうしたのその腕。どこか怪我でもしたの?」



副隊長のセレストが、包帯を巻いている右手を見ながら聞く。



「もうね~♪最高だったっちゃ♪」





見たくて。





聞きたくて。





会いたくて。





どうしても直接【ゴースト】様の顔を見たくて、声を聞きたくて、そして会いたかった。





うちは古参リスナーだ。


戦場でキャンプを張っていた時に、連絡かと思い偶然【キューブ】を押したら現れた男。・・・・・それからハマりにハマり、ずっと聞き続けている。


彼がお便りを読み上げる声は、この殺伐とした戦場に唯一の癒しをウチに与えてくれた。





彼の声が。





頭に響く。





心に響く。





そして想いに響いた。





彼だったら、ずっと思い描いているウチの悩みに答えてくれるんじゃないか?


仲間に話せなかったこの気持ちを受け止めてくれるんじゃないか?




でも怖い。




お便りを出すのが。




ずっとそう思っていた。


そんな中、初めての【ゴースト】様とウチ達リスナーの『絆の証』を販売すると発表があった。




心が躍った。




だって会えるだけでなく、先着100名様に握手してくれると言うではないか。


仲間に頼み、二週間の休みを貰って会いに行った。




うちは自分の包帯が巻かれた右手を見る。





・・・・・【ゴースト】様に会って決心がついたっちゃ。





ずっと聞き専だったけど、今度お便りを出してみよう。・・・・・読まれるか分からないけど。




「あとこれはね~・・・・・ウフッ♪ ウフッ♪ ウフフッ♪♪」


「・・・・・ねぇ。今の貴方の顔。キモイわよ。」




手を見ながら顔を崩し、よだれが出ていた。






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「おい!とうとう動き出しぞ!」


「・・・・・やっと動き出してくれたか。」



丘の上の指令室で戦場を見渡しながら将軍が呟く。




今、戦国期に入り、あらゆる所で戦争が起こっている。


それは【戦争終結人】と呼ばれていた、世界一の傭兵ジェミニが引退したからだ。



今までジェミニがいた事によって、あまり戦争には発展しなかった。


なぜなら、他国に攻め入ると、攻められた国がジェミニを雇うからだ。



あの世界一の傭兵は、ほとんど仕事を受けるのは防衛側。


大きな損害を受ける攻め側は、諦めざるを得なかった。




しかし引退して風向きが変わる。


足枷が無くなったからだ。




今は世界中で、小国と小国との争いが絶えない状況になっている。




将軍は動き出した団を見る。



「・・・・・必然的に注目される様になった傭兵団か。・・・・・さて、この戦場のにらみ合いが動くぞ。」






傭兵団『プレンゼ』。



7人で構成されているこの傭兵団は、あの引退したジェミニの次に恐れられている傭兵達だ。


そして彼女達は、金さえ払えば、どんな国にも仕事を受ける。



先頭にいるダークエルフが何かを唱えると、突如、巨大な見た事のないモンスターが召喚された。それに呼応して他の団員達が唱えると、同じ様にモンスターを召喚する。




個のジェミニ。


集団のプレンゼ。




ジェミニがいなくなった事により、世界二位の傭兵団が必然的に脚光を浴びる。




「・・・・・世界最強のテイマー集団『プレンゼ』か。」



将軍は呟くと周りにいる兵達に叫ぶ。



「よし!『プレンゼ』が動いた!第一陣、第二陣は左右に展開!!一気に攻め落とすぞ!!!」



オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!









蹂躙が始まった。






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「アシェリー。今はどうなんだ?」


「聖務以外はずっと部屋に籠っているわ。」



「困ったものだな。」


「・・・・・。」




ここは三人の大聖女がいる『ロマンティ皇国』。



その首都にある宮殿内で、聖騎士団の隊長ブレットと副隊長のアシェリーが歩きながら話をしていた。



「それで?【ゴースト】を見たのだろう?どうだったんだ?」


「・・・・・危険。・・・・・あれは危険だわ。」



歩きながらアシェリーは外の庭園を見る。



一番に並んだからこそ、フィア様と交代した時に見れた。





あの男。





【ゴースト】。





あれは危険。





危険すぎる。





姿を見た瞬間。





惹きこまれた。





惹きこまれたのだ。





『ロマンティ皇国』法王ロットシュチュアートに忠誠を誓ったこの私がだ。





何の魅了魔法も使っていない。


ただ座っているだけなのに、あの圧倒的なまでの存在感。




あんなのを見てしまったら、どんな者でも話しをしたくなる。


そして話をしたら・・・・・もう戻れなくなってしまう。





「・・・・・あれは化物。・・・・・カリスマの化物ね。」





アシェリーは晴れた庭園を見ながら呟いた。






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「あぁ!・・・・・【ゴースト】様ぁ♪」



フィアはベットで枕を抱いて転がっている。



聖務以外は、ずっと部屋に閉じこもって【ゴースト】様と会った事を思って悶えている。



私は仰向けになると、包帯が巻かれた右手を見る。





会えた。





やっと会えた。





貴方に。





古参でガチリスナーの私は、ずっと貴方に会いたかった。


そしてとうとう会う事が出来た。



絶対に一番に並びたかった。




それは私の。



リスナーとしての誇り。




結局止められて、アシェリーに迷惑をかけたけど。




「・・・・・もうダメだ。」



自然と私は言葉を出す。





もうダメだ。





貴方に会ってしまった。





貴方を見てしまった。





貴方の声を聞いてしまった。





貴方と触れ合ってしまった。





貴方を感じてしまった。





もう戻れない。





もう戻ることは出来ない。





瞳の光が徐々に失われていく。






「・・・・・貴方を。・・・・・貴方だけをっっっっっっっ!!!」






フィアは聖騎士の二人に呼ばれるまで、部屋から出る事はなかった。
























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