第49話 使徒5




『ロイエン国』。



別名『魔導の国』と呼ばれているこの小国は、世界中から脅威と畏怖を集めている国であり、あの世界最大の『アーツ帝国』でさえも注視している国の一つだった。


それは常に魔力や魔石の研究をし、まだ見ぬ成果を多く持っている事。


そして数々の最先端の魔道具を開発し、世界各国に販売している事が大きい。




その首都『ザンブグロク』。


夜でも魔石を使った灯りで、首都全体が明るい。そしてその中央には雲を突き抜けるかと思うほど高い巨大な塔が。その周りを囲むように10個の塔が建てられている。



エレノアは、その内の一つの塔の屋上に飛空魔法で降りると、すぐに最上階の部屋へと向かう。



「ローレット様。只今帰りました。・・・・・先程、会議をさぼって困るとルーカス様に苦情を受けました。私がいない間、何をやっているんですか。」



ベットに寝そべって本を読んでいる桃色の髪をした可愛らしい女性は、帰って来たエレノアを見る。



「だって~♪ ルーカスも~♪ スカーレットも~♪ 元老院の爺たちも~♪ 働け働けって~♪ うるさいんだもん~♪」


「はぁ。第一席の貴方が働かなすぎだから言われるんですよ。」



エレノアがため息をつきながら続ける。



「そんな事をやっていると、頼まれたグッズをあげませんよ?」


「!!!」



ガバッと起き上がると、エレノアの方へと駆け寄る。



「エレノア~♪ 買えたの~?」


「・・・・・大変でしたよ。初日じゃないから、そこまで混まないと思っていたのですが・・・・・並んで買うのに三時間かかりました。」



そう言うと、ローレットに赤い帽子を渡す。


すぐに帽子を受取ると、まじまじと赤い帽子を見る。両側に黒い『G』の文字が。被って鏡の前に立つと、キャップの両側が魔力に反応して薄く発光する。



「良かった~♪ 本物だ~♪♪♪」



珍しくローレットが機嫌が良くなっているのが、長い付き合いのエレノアには分かる。





「・・・・・はぁ。」



エレノアは、またため息をつく。



最初は販売初日に行くから一週間前に現地入りするなんて言いだして、止めるのに大変だった。



ローレットはこの国を運営する十人の内の一人。


そんな人が一週間もいなくなるのは、国として到底認められない。


だから私が何とか説得して、代わりに買いに行くという事で、この国にいてもらったのだ。




貴方はこの国の【第一席】。


ローレット=ジャニー。



最も発言権があり、最も権力を持っている事をもっと自覚してもらいたい。





ローレットは帽子を被った自分の姿を見ながら思う。




・・・・・まだ足りない。




一つだけの借りだけでは。





「・・・・・直接借りを作れないといけないわね。・・・・・【ゴースト】。」



彼女は自分の姿を見ながら小さく呟いた。






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『アーツ帝国学園』。



その学園内にある木の下で、赤く染まる夕暮れ時に男女が話をしていた。




「リュート。どうしたの?話って。」



放課後にリュートに呼び出されたクレアは、小首を傾げながら尋ねる。



「実はね。クレアに話をしないといけない事があるんだ。・・・・・この間【ゴースト】様のグッズ販売の選抜に選ばれて、手伝いに行ったのは知っているね?」


「知っているも何も、私も行きたかったんだから!もー。私のくじ運が悪いのが本当に悔しかったわ。」



クレアは頬を可愛く膨らませている。



「ハハッ。そういえばクレアもリスナーだったね。・・・・・それでさ。初日に販売が終わった後に、【ゴースト】様と一緒に二人だけで飲みに行ったんだよ。」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



クレアは目が飛び出さん程に驚いている。





・・・・・・・




・・・・・・・




・・・・・・・





「ここはな!俺の仲間のクロックが用意してくれた酒場だ。今日だけは俺とお前の二人だけの貸し切りだ。ゆっくり飲もうぜ!」


「はいっ!」



僕と【ゴースト】様でエールを合わせて乾杯する。



定員が次々と料理をだしながら、女店主がわざわざこちらに来て頭を下げた。



「【ゴースト】様。本日はこの『喜び亭』を選んで頂き、誠に・・・・・誠にありがとうございます!お代は頂きませんので、遠慮なくどんどん飲んで食べて下さい。」


「えっ?・・・・・そうか。すまないな。」


「とんでもございません!!!【ゴースト】様からお言葉を頂いただけでも私は感無量です!!!」



女店主の瞳が徐々に光がなくなっていく。



僕が口を挟む。



「貴方もリスナーなのですね!それでは遠慮なく頂かせてもらいます!」


「はい!今日はゆっくりとお楽しみください。【りゅう君】♪」


「え~・・・・・。」




【ゴースト】様が何か小さな声で呟いていたけど気にしない。


もう【ゴースト】様と一緒に飲んでいるだけで、僕は完全に舞い上がっていた。



飲みが進み、僕は思いの丈をぶつけた。自分の実力が周りに比べてあまりにもかけ離れていて、全力を出し切れていない事などを。


そしてお互い酔いがまわってくる頃に、【ゴースト】様には四人の仲間がいるのを知った。




僕はお願いする。



「【ゴースト】様!僕も、僕も仲間にしてくれないでしょうか?僕は戦いには自信があります!絶対に役に立ちますから!どうか!どうかお願いします!!!」



【ゴースト】様は少し酔いがまわっているのだろうか。気持ち良さげに答えた。



「おぅ。そうか?りゅう君みたいな仲間が出来るなら、それは嬉しいな!・・・・・全力が出し切れてないなら、俺の仲間なら多分大丈夫だろう。・・・・・いいぞ!それじゃ、これからもよろしくだ!!!」



そう言って、【ゴースト】様と僕は握手した。





・・・・・・・




・・・・・・・




・・・・・・・





念じると出てくる。




『寿命/残り1,989年』


【使徒】残り7名



ナンバー0:レイン=シルバー


ナンバー1:ジェミニ


ナンバー2:ミリオン=ロード


ナンバー6:リュート=ファーマン


ナンバー9:クロック=ロドリゲス




驚いているクレアに説明する。



ゴーストの仲間になった事を。



「・・・・・ごめん。先に君に相談して決めたかったんだけど、どうしてもこのチャンスをモノにしたかったんだ。」



すると、突然クレアは僕に抱きついた。



「羨ましい!!! あぁ! とても羨ましいわ!!! 【ゴースト】様の仲間になれるなんて!・・・・・でも、貴方の実力なら何の問題もないわ!私も応援する!・・・・・【ゴースト】様の『国』にある【新居】が出来たら呼んでくれるんでしょ?恋人の私も絶対・・・・・ぜーーーーーーったいに付いて行くわっっっ!!!」


「あっ、ああ。もちろんさ!この学園を退学する事になるけど、一緒に行こう!!!」


「うんっ!」



抱きしめたクレアの瞳には光が無かった。








そう。








クレアもガチリスナーだった。







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