第47話 グッズ販売1



「よし。着いたな!」




サスケが開けた【ホール】をくぐると、先には巨大なレンガ造りの会場がある。



ここは『アーツ帝国』北の国境付近の街『ログナット』。



僕は【ゴースト】になって初めてこの地を踏んだ。



誰が見ているか分からない。



だから僕は最初から【ゴースト】になりきる事にした。




「ゴースト様。お待ちしておりました。さぁ、こちらへ。」




クロックさんが僕を待っていたらしく、会釈をすると先頭で案内を始める。


僕の他には、レインとジェミ、さくらにしずくにサスケ。そしてち~ちゃんもやって来て、僕の家に住んでいる人は全員集合だ。




「パパ!私も手伝いに来たの!」



嬉しそうにち~ちゃんは、先頭を歩くクロックさんに追いついて手を握る。




「偉いね。ち~ちゃん。でもちゃんとレインさん達の言う事を聞くんだよ?」


「うん!分かった!」



親子で会話している風景は何とも微笑ましい。本当にち~ちゃんが元気になって良かった。



僕は会場の前まで来ると見上げる。




でかい。




かなりでかい。




〇〇ドーム2,3個分位あるだろうか。




こんな巨大な会場があるなんて凄いな。




クロックが見上げている僕に話す。


「この会場は、この街『ログナット』の一番大きな会場になります。通常は闘技場だったり、何かの賭けレースで使われていますね。あとは国境に近いので、ここで【世界会議】をやる事もあるそうです。」


「そうか。」



そのまま周りを見渡すと、午前中なのに人が歩いていない。そして会場の周りには等間隔に騎士の様な格好の人が立っている。




「こちらは会場の裏手になります。逆側がお客様が入る入口になっていますね。【ゴースト】様が来るという事で、特に裏手には人が来れない様に『アーツ帝国』に依頼して、厳重にしてもらいました。」


「そっ、そうか。」



「あぁ。それと全世界からお客様が来ているみたいなので、国境の検問からこの会場まで『アーツ帝国』の軍が監視しているみたいです。何といっても特別に、このグッズ販売だけに入国を許されていますからね。」


「そっ、そっ、そうか。」




「さぁ、こちらへどうぞ。」




裏口から入り、暫く歩くと扉がある。それを開くと広いホールへと出た。


見るとこの国の学生だろうか、200人位の制服を着た男女が集まっていた。




「ん?」




もの凄い視線を感じた僕は、その学生達を見た。




「あっ・・・・あっ・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「ゴォォォォォォォウゥゥゥゥゥゥゥゥスゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」




一斉に200名の学生がこちらへとなだれ込んでくる。




オイオイオイオイオイッッッ!


ちょ!ちょっと待て!!!




「待ちなさいっっっっっっっっ!!!!」




レインの声が響き渡る。


ビビっている僕の前にレインが立つと、大声を出して学生達を止めた。




「・・・・・気持ちは分かります。ですがリスナーとして、礼儀はちゃんとしなさい。【ゴースト】様に幻滅されますよ?」


「「「「「「「 すみませんでした!!! 」」」」」」」



「・・・・・この学生達は?」



何とか【ゴースト】を演じ切れている僕は、レインに聞くと、いつの間にいたのかアルフィンが答える。



「この方達はボランティアの学生です。わざわざこのグッズ販売を手伝ってくれる為に、休みを取って来てくれました。」


「本当か!それは助かるな!代表の学生はいないか?」




すると集団の中から現れた女性。カールした長い髪を揺らし、緊張した面持ちをしながら僕の前に立つと、カーテシーをする。




「お初にお目にかかりますわ。私『アーツ帝国』4大侯爵家イグナル家の長女ジ・・・・ジーンと申します。そしてこの200名は、『アーツ帝国学園』のリスナーの中から選抜して選ばれた者達。よろしくお願い致します。」


「「「「「「「 よろしくお願い致します!!! 」」」」」」」




何その選抜って?何かの大会じゃないんだけど。



帽子を深く被っていて、認識阻害魔法がかかっているから目元は見えないはずだ。堂々と会って話せるのは本当に助かる。




「そうか!ジーンだな!よろしく頼むぞ!」



そう言って、ジーンと握手する。




「はっ。はっ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♪♪♪」



握手したジーンは腰が抜ける様に地面へとへたり込んだ。




「おい。大丈夫か?」



手を貸そうとすると、すぐに金髪の可愛らしい美少女が僕の前に出てペコリと謝る。




「【ゴースト】様!ジーン先輩がすみませんでした!・・・・・私はユーリティアと言います。」



顔を上げて少し照れた顔をして続ける。



「えっと・・・・・リスナーの名前は【ゆーり】っていいます。」





ガシッ!





僕は驚くと、片手でしっかり握手を。そしてもう片方の手をユーリティアの肩に置いて言う。



「マジか!君が【ゆーり】ちゃんか!ハハッ!良かった!元気そうじゃないか!いつも聞いてくれてありがとな!!!」


「はっ。はっ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♪♪♪」




またへたり込んでしまった。




「・・・・・オホン。話が進まないので進めますね。この方達が二人一組でグッズ販売を手伝ってくれます。レイン殿やその他の方達は誘導と監視をお願いします。ち~ちゃんだけは、本日のみ、【ゴースト】様とユーリティアさんペアの販売を手伝ってあげてください。」



「うん!分かった!ゆーり!よろしくね!」


「はい。ち~ちゃん。よろしくお願いします。」




アルフィンは続ける。


「ブースは100ヶ所用意しました。今回は先着100名様に【ゴースト】様の販売とセットで握手会がありますので、今回のみ101ヶ所となります。一人一点のみ。代わりに並んでいる代行の人との交代は認めますが、途中からやって来て、並んでいる人と一緒に買える事は出来ませんので気を付けて監視してください。」



「了解したわ。」


レインが答える。





・・・・・何かガチだな。もっとユルイ感じの販売だと思っていたんだけど。しかし・・・・・・・。





「・・・・・あまり騒がしくないな。そんなに来てないんじゃないのか?」



僕が自然と疑問を口にするとアルフィンが笑顔で答える。



「【ゴースト】様。このホールは防音魔法が発動しておりますので、外の音は聞こえません。・・・・・まぁ、防音を解いてしまったら、聞こえなくてこんな普通に話せませんがね。」




へっ?




アルフィンは何を言っているのだろうか。




「【ゴースト】様。」




声の方に振り向くと、そこには金髪で瞳はブルー、細身の長身の青年。前世だったらモデルや俳優にいそうなイケメンがいた。



その青年は真っすぐに僕を見るとお辞儀して叫ぶ。


「僕はリュート=ファーマンと言います。そして・・・・・リスナーの名前は【りゅう君】です!この度は本当にありがとうございました!!!」




僕は思わずニヤリと笑うと、リュートの肩に腕をまわす。



「おう!そうか!君が【りゅう君】か!会いたかったぜ!色々と聞きたかったんだよ!約束だったな・・・・・よし!今日のグッズ販売が終わったら、一緒に飲み行くぞ!!!いいな?」



リュートはハンサムな顔を崩すと、今まで学友たちに見せた事のない笑顔で答えた。




「ハイッッッッッッ!!!」




いや~。




マジで嬉しい。





お便りを読んで話をした、ゆーりちゃんや、りゅう君。他にもお便りを出してくれているリスナーや聞き専のリスナー達。


こんな若い学生達が聞いてくれているという事は、ある程度流行っていると思っていいだろう。


流行の発信は、前世でも若い子達と相場が決まっているからね。




「そろそろ時間ですね。それでは【ゴースト】様。皆様。行きましょう。」



アルフィンがホールの先にある扉へと向かう。



その後に付いて行くと、他の皆も僕の後に付いて行く。






「さぁ、【ゴースト】様。・・・・・出番です。」






そう言うとアルフィンは扉を開けた。














来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! 



本物だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!



ゴースト様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!



ゴーストぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!



オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!



オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!





地鳴りがする程の大歓声が響き渡った。






・・・・・・・





・・・・・・・





・・・・・・・





・・・・・・・・・「え?」







思わず声が出た。


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