第46話 ダンジョン4
三体の幽鬼が剣を僕めがけて振り下ろす。
「シッ!」
右に避けながら一刀。そのままの勢いで、もう一体の懐に飛び込んでの一刀。最後の一体は剣を受け流しながら距離をつめて一刀。
あっという間に三体を倒す。
「「 グルルルルルルル。 」」
目が赤く光り、牙は鋭いが肉がなく、骨だけの格好のモンスター。生前は魔獣だったのだろうか。
Dランクモンスター。
『ボーンタイガー』。
離れた所で様子を見ていたボーンタイガー二体。
幽鬼が倒されたのを見ると、すぐにこちらへと襲い掛かる。
僕は体制を整えると、待たずに同じ様に駆け出し距離をつめて、噛み砕こうと大きな口を開けた所でスライディングをし、股からくぐり、そのまま立ち上がりながら後から付いてきていた二体目のボーンタイガーに、対応できずにツッコんできた所を脳天にショートソートを突き刺す。そのまま返す刀で振り返ったボーンタイガーの首を両断した。
「ふぅ。まずまずかな。」
このダンジョンに来て、かなりの数をこなした。
今は25階層。
ソロで潜っている為結構稼げている僕は、今はダンジョン専用の【転移魔導具】を使って攻略している。結構高かったけど、マーキングした所から再開できるのでマジで便利だ。
「しっかし、この剣。すげぇな。」
アルフィンから買ったこの二本のショートソード。前使っていたダガーに比べると、切れ味も強度も段違い・・・・・いや、雲泥の差だ。
Dランクモンスターの幽鬼の鎧も、ボーンタイガーの骨も、通常では鎧の隙間を斬るか、魔法で破壊。骨も斧やハンマーで破壊するのが定石だが、いとも簡単に斬れてしまう。
この武器のおかげで攻略が早く進んでいるのは言うまでもなかった。
「・・・・・お疲れ様。うん。・・・・・【身体強化】も使わずによく出来ました。」
「あざっす!」
師匠兼先生のジェミに褒められたのは、マジで嬉しい。
最初にダンジョンに潜った頃より、かなり自分が上達しているのがよく分かる。
ソロでここまで潜れるのも、ジェミの教えの賜物だ。
僕はあと二階層程潜ると、そこでマーキングして【転移魔導具】でダンジョンを出た。
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「ただいま帰りました。レイナさん、換金お願いします!」
冒険者ギルドへと戻った僕は、少し離れた所で全身フードを被ったジェミを待たせて、受付のレイナさんの所へ来ていた。
「おかえりなさい、ヒカリ君。今日も随分と魔石を持ってきましたね。」
「はい!今日は27階層まで潜りましたよ!」
「27階層?それは凄いですね。ソロでそこまで潜る冒険者は結構少ないですよ?・・・・・しかも、Dランクモンスターの幽鬼にボーンタイガーにグールまで。これなら後は課題のモンスターを倒せばD級に昇格出来ますね。」
「マジっすか?!」
「はい。今回、D級に上がる為に倒さないといけない規定のモンスター・・・・・それは『キリッシュ』です。」
D級推奨の最下層、30階層にだけいるモンスター。
僕は報奨金を受取ると答える。
「キリッシュですか。あと三階層まで行けば戦う事が出来るので、それまでもう少し自信と力を付けてから挑戦してみます!」
「そうですね。慎重が一番です。特にヒカリ君はソロで、何かあっても助けてくれるパーティはいません。十分準備してからにして下さいね。」
「分かりました!」
何かあったら、ジェミもレインもいる。
だけどソロで潜っている時は、二人の存在は忘れる事にしている。
そうしないと強くなれない様な気がしたから。
「ちょっとそこで少しお茶を飲んでから帰ろうか。」
入口近くで待っていたジェミは、僕が声をかけると頷く。
まだ帰るには少し時間があるので、ギルドから出て少し歩いた所にある紅茶とケーキを出してくれる店で、ジェミといつの間にか影から出てきたレインを連れてお茶をする事にした。
たまにはこうやって、ゆっくりするのもいいよね。
「はぁ~。美味いね。」
紅茶を飲んで一息つく。
「モグモグ・・・・・このケーキ美味い。」
「ケーキというんですね!この食べ物!甘くて美味しいわ♪」
ジェミとレインが美味そうにケーキを食べている。
・・・・・はぁ。
何かここ最近、色んな事があったような気がする。
僕はやりたかったラジオ放送のパーソナリティと、生活費を稼ぐ為の冒険者をやれればいいだけだったんだけど、気がついたら、どんどん仲間が出来て、そして島まで貰って、今はクロックさんが動いてその島に僕達が住める家を建設しているらしい。
ずっと一人でいるつもりだったから、人生設計が思いっきり狂ってしまった。
まぁ、仲間が出来るのは嬉しいんだけどね。
今後は仲間を入れて、人生設計を考えないといけないな。
・・・・・そうそう。ミリは僕の【使徒】になったけど、今後も魔王として『バルメリア』を引き続き治める様にしてもらった。そして島で新しく家が出来たら、いつでも来ていいと約束して。『バルメリア』から貰った島まですぐだしね。
「・・・・・おい。聞いたか?【ゴースト】のグッズ販売・・・・・・。」
ピクッ。
紅茶を飲んで考えていると、近くの席で同じ様にお茶をしている客から声が聞こえる。
思わず【ゴースト】の名前が出て、その話に集中する。
やっぱり知らない所で噂されるのを聞くのは嬉しいからね!
「・・・・・聞いた聞いた。何かさ、全世界から【ゴースト】のグッズを求めてリスナーが買いに来るらしいぞ。」
「それは知ってる。だってさ、あの魔族でさえ買いに来るらしいぞ?『アーツ帝国』は平気なのか?」
「特別にグッズ販売期間のみ、許可証が無くても入国できるみたいだ。警備も軍が代わりにやって、行ける場所は限定されるみたいだけどな。」
「へぇ~。そうなんだ。一応俺もリスナーだからさ。休み取って買いに行こうかな。」
「だな。あと知ってるか?初日の販売のみ、あの【ゴースト】が来るんだって。」
「知ってる。知ってる。俺も聞いてたからさ。・・・・・何か噂だと、【ゴースト】見たさに初日100万人来るんじゃないかって言われているんだってよ。」
「ブフォッッッッッッッッッッ!!!!!」
思わず紅茶を噴き出す僕。
・・・・・今何て言った?
100万人?
初日に100万人って言った?
期間中にあわよくば1万人来てくれたら御の字だと思っていたのに・・・・・・。
初日だけで100万人だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?????
「それは分かるわ。だって【ゴースト】が来るんだぜ?しかも先着100名は握手付きだ。ガチリスナーは何日前から並ぶんだろうな。」
「想像もつかないな。流石に初日は諦めて違う日にするか。」
「それが正解だな。」
お客の会話が弾む。
「・・・・・ヒカリ?」
「あら。ヒカリ様?どうしたのですか?」
僕は暫く固まって動かなくなった。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
激動のグッズ販売が始まる。
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