第43話 再会



「リュートおはよう!」


「おはよう、リュート!」


「おはようございます。リュート先輩!」




僕の周りに女性達が寄ってくる。




「やぁやぁ!おはよう。今日も今日とて皆、可愛いね!」



そんな朝のいつもの学園風景。




クレアと付き合えたからといっても、『女性に優しく』がモットーの僕は変わらない。逆にいきなり距離をおいたり、恋人が出来たと宣言すれば、彼女を妬む子が出て来てもおかしくない。だから学生期間中は今まで通りにしようという事になっている。



『S』クラスに入って、いつもの席へと座ると学友が話しかけてくる。




「やぁリュート。おや?いつもと何か感じが違うね。何かいい事でもあったかな?」


「おはよう、ジェームス!ハハッ!何を言っているのかな?僕はいつもの全世界の女性に優しいリュートだよ!」



「そのようだね。心配して損したようだ。」


「フフッ♪」



いつもの様に優しい空気を纏わせながら、静かに僕の横に座るクレア。



「おぉ!愛しのクレア!おはよう。」


「おはよう。リュート。」



僕の挨拶に、笑顔で返すクレア。



いつもと違うのは、そこに愛情が込められているという事だろうか。



授業を待ちながら目を細める。






・・・・・ありがとう。【ゴースト】。・・・・・僕は貴方に会いたい。会って心のゆくまで話がしたい。そして・・・・・そして・・・・・・・。






リュートの瞳が徐々に光がなくなっていく。




そんな朝のいつもの学園風景。






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「ミリオン様?何故そんな格好をされているのですか?もう完全回復されているはずですが。」


「む?ちょっと気になる事があってな。ほれ、皆の者!今日はあの【ゴースト】が来る日じゃ!粗相のない様にするのだぞ!」


「「「「「 ハハッ。 」」」」」



すると、数人の幹部が不満な顔で答える。



「【ゴースト】に頼まれても、あの島を渡すのは俺は絶対に反対だぞ。」


「そうですな。あの島はユーテラス大陸と我々魔大陸の重要な拠点になりかねない。いくら王が了解したとしても、到底我らは納得しまいて。」



「まぁよい。お前達の意見は分かった。あとは我に任せるのじゃ。ほれ、グレイブ。そろそろだろうから迎えに行ってくれ。」


「承知致しました。」



スーツ姿の男は、軽く会釈をすると王の間から出ていく。



「ムフフフフ・・・・・早く来い。【ゴースト】。」



王座に座っている美しい大人の女性だったはずのミリオンは、今はどう見ても幼女だった。






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サスケが開けた【ホール】から出ると、応接室の様な場所に着いた。その扉の前にはスーツ姿の男が立っている。





ん?





「ようこそおいで下さいました。【ゴースト】様。私はこの国の幹部の一人、グレイブと申します。」


「・・・・・俺は【ゴースト】だ。よろしく頼む。」



いつもの新しいキャップを深く被り、黒のコートを羽織って答える。



「フッ。私もよく聞いているリスナーの一人でございます。お会いできて感無量でございます。・・・・・さぁ、我が王がお待ちです。どうぞこちらへ。」



そう言うと、僕を筆頭に、クロック、レイン、ジェミを連れて歩き出すスーツ姿の男。





あれ?





やっぱりグレイブさんだ。





何でここにいるの?





僕は心の中で動揺しながら、クールに後に付いて行く。



巨大な扉が自動で開くと、とても広い場所に出る。神殿内の様な作り。そして僕の進む道の両脇には異形の格好をした者達が並んでいる。その道を真っすぐに歩いて行くと、数段高い所に王座があり、その周りには同じく数人の異形の者達が立っていた。




「ミリオン様。【ゴースト】様をお連れしました。」


「うむ。ご苦労。」



グレイブは僕達を王座の前に残すと、そのまま横へと並ぶ。





ん?





この声?





懐かしい。





いつも僕に甘えてきた幼女の声。





「初めましてだな!俺はゴースト・・・・・・。」




僕は顔を上げて挨拶をしながら王座を見る。


するとそこには一人の幼女が座っていた。



光に反射して輝く黄金色の髪。透き通る程の白い肌。血の様に赤い瞳。そしてポカンと開いている口には鋭い牙。



その幼女は手を震えながら立ち上がる。



驚いた僕は思わず声に出してしまった。




「へっ?・・・・・何で【ミリ】がここにいんの?」


「ヒカリッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」




その幼女は王座から僕に飛びついた。









「ヒカリ~♪ ヒカリ~♪ ヒカリ~♪ やっぱりヒカリだぁ~♪」


「ちょ、ちょっと待ってよ。何でここにミリがいんのよ!あと何で僕だって分かったのさ!」



僕の首周りをギュッと抱きしめているミリは、そのまま頬をスリスリしながら答える。



「顔が見えなくても、そんなの声ですぐに分かるのじゃ!どれだけ我と一緒にいたと思っておるのじゃ!その声を忘れるわけないのじゃ!」




あぁ。




そりゃそうか。




今は地声だったね。




僕はため息をつくと、諦めて帽子を取る。





!!!!!!!!!





「ヒカリ様?!」


幹部のグレイブが驚く。



「ヒカリだと?!」


幹部のバジルが驚く。



「ヒカリじゃと?!」


幹部のコングレットが驚く。




王座の周りにいる異形の者達は僕に気づくと一斉に驚いていた。




「ハハッ。グレイブさん。バジルさん。コングレットさん。他の幹部の皆さんも久しぶり。」




僕の周りは一時パニックになった。



それをただ何が起きたのか茫然と眺める事しか出来ない、仲間達三人を置いて。






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「あれ。これ旨いな。」


「ありがとうございます。この国『バルメリア』にある葉で作りました超一級品です。」




紅茶の味に近い。



まさかこの味に出会えるなんて、ちょっと感動だ。




グレイブがポットを持って恭しく会釈をすると、数歩後ろへと下がる。



王の間から移動した僕達は、今は豪華な部屋に通されて、円卓に座って紅茶を飲んでいた。


目の前にはミリが小さな手で同じ様に美味しそうに飲んでいる。




「・・・・・で?これはどういうことなの?」



レインが僕に説明を求める。


クロックさんも頷いている。




「まぁ、話せば長くなるから割愛するけどさ。簡単に言うと、僕とミリは前に一年位、一緒に住んだことがあってね。友達なんだ。」


「うむ♪うむ♪」



ニコニコしてミリは頷く。


その後ろで控えている幹部達も同じ様に頷いている。




僕が転生してすぐに『ログナント王国』から、今拠点を置いている『フレグラ王国』に移動する最中に出会った可愛い魔族の女の子。


弱っていた彼女を助けて、そのお付きの仲間も一緒に助けた。




『フレグラ王国』について、暫くはミリ達と共にしながら生活をしていたのだ。・・・・・まぁ、ミリ達がいたおかげで僕も助かった事が多かったんだけどね。



そして一年位したら、完全に元気になって国へと帰って行った。



それからだ。僕が【ゴースト】を始めたのは。




「なるほど。そう言う事だったんですね。・・・・・それで何故ミリオン様はそのお姿・・・・・・。」



殺気を感じたのか、すぐに黙るクロック。




グレイブが話を遮る。


「クロック殿。すみませんでしたね。まさか【ゴースト】様がヒカリ様だとは思わなかったので、変な駆け引きをしてしまいました。・・・・・謝罪します。」


「いえ。それは私も同じ事。ヒカリ様が知っているのが分かっていたら、私もこの様なことはしませんでした。」




二人で頭を下げている。




あれ?




これって僕が悪いの?




「・・・・・ヒカリ。」


ジェミがジト目で僕を見ている。



僕はいたたまれなくなって話を始めた。



「そうそう!ミリ。僕が来たのはさ。知っていると思うけど、クロックさんが僕の為に探してくれた土地を持っているのがミリ達だと聞いてね。だからここまで来たんだ。何とかならないかな?」


「うむ。あげるのじゃ。」










即答だった。











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