第41話 祝い



「ただいまぁ~。」


「おかえりなさい!ヒカリ!」



パタパタと近づいて天使の笑顔で僕を出迎えてくれるちーちゃん。



「まだ掃除の途中っすよ!」


「走っちゃダメッていつも言っているでしょ。まったく。」



しずくとさくらが注意する。




「ハハッ。」



ちーちゃんも、すっかりこの生活に慣れて、毎日生き生きと生活している。とてもいい事だ。




今日は午後は用事があるから、午前中、久しぶりに『古の森』に状況を調べに行ってきた。


あれから一年近く経ったからか、モンスターも徐々に増えてきている感じがする。


前は歩けばすぐに接敵したけど、まだこちらから探さないと見つけられない状況だ。


入口から数キロ先までしか調べられてないから何とも言えないけどね。



でも稼ごうと思うなら、時間はかかるが、まだダンジョンに通った方がいいだろう。



それだけでも収穫だった。




僕は部屋に戻って私服に着替えると、ジェミに言う。



「今日はこれからギルドに行ってくるから、ジェミはお留守番ね。」


「・・・・・やだ。・・・・・やだ。・・・・・やだっ!!!」



駄々をこね始めた。




世界中に知られている有名人だ。街を歩くだけでも知っている人は知っているので、全身を隠すフードを被ってもらっている。そんなジェミがギルドなんかに来てしまっては、すぐ気づかれてパニックになる。



困っていると、レインがため息をつく。



「はぁ。しょうがないわね。今回だけ、ヒカリ様の影に一緒に入れてあげる。それでいいでしょう?」


「えっ?そんな事が出来るの?」



「私だけです。まぁ、こういった使い方はしないんですけどね。」


「・・・・・ありがと。レイン。」



「フフッ♪ これはね、本当は敵をどこかの影に一緒に引きずり込んで、そのまま死ぬまで影から出られない様にする為に使う技なの。少しは怖くなったかしら?」


「・・・・・怖くない。・・・・・ガチリスナー達は絆で結ばれている。・・・・・だから平気。」


「あら。面白くないわね。それじゃ、入るわよ。」



レインはジェミの手を握るとそのまま僕の影に入って行った。





ガチリスナー達は絆で結ばれている?





何それ?





ちょっと怖いんですけど?





まっ、まぁファンの間には何か特別な物があるのだろう。前世でもそこまで夢中になった事がないから分からないけど。



僕はさくら達に夕飯は済ませてくる事を伝え、冒険者ギルドへと向かった。






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ギルドマスターはエールのジョッキを片手に持つと、僕達冒険者を見渡して叫ぶ。



「よ~し!皆揃ったな?今日は冒険者ギルド『フレグラ支部』で、初めてA級冒険者が誕生した記念すべき日だ!今日はギルドの経費で好きなだけ飲んで食っていいぞ!・・・・・乾杯だ!!!」




ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!




一斉に飲み食いが始まる。



広いギルドの館内が、大勢の冒険者達でひしめき合っていた。



おそらく今日予定がない冒険者達はこちらへ来ているのだろう。ランクの低い冒険者は特にだ。タダで飲み食いが出来るからね。


もちろん僕もタダで飲み食いが出来るなら行くけど、今日はそんな事がなくても出向いただろう。



僕は中心で他の冒険者達に囲まれているパーティの所まで行くと、笑顔で声をかける。




「グリーミュさん!パナメラさん!アミュさん!イーシャさん!A級昇格おめでとうっす!!!」



「おぉ!ヒカリか!」


「あら。ヒカリじゃない!」


「ありがとう。ヒカリ。」


「ありがと。」




僕に気づくと、グリーミュさんがすぐに僕の肩に腕をまわす。他の『獣の誓』のメンバーも嬉しそうに返事をした。



「すごいっすね!この国で初めてのA級ですよ!」


「まぁな!ここまで実績を作るのに大変だったが、最後の課題の依頼も何とか達成できた。これもメンバー皆のおかげさ!」



「誇っていいと思いますよ。この国初のA級冒険者なんですから。」



レイナさんがいつの間にか近くにいて笑顔で声をかけた。




そう。


A級は国単位で数組しかいない憧れの存在。そしてこの『フレグラ王国』にはA級冒険者がいなかった。


それ程、A級になるには強さと実績が必要なのだ。


それになれた姉貴達は、マジで尊敬しかない。




レイナさんが続ける。


「でも、大変でしたね。スタンピートに派遣されてしまって。」


「あれはなぁ~。たまたま俺達がいたから、駆り出されるのはしょうがなかったが流石に参ったぜ。」



「でも、良かったんじゃない。ジェミニさんが見れて。」


「フッ。・・・・・だな。」



パナメラがジェミの名前を出すと、グリーミュが頷く。



「正直俺達だけだと、あのスタンピートは止められなかった。まさか最下層近くにいるデイトナまで出てくるとは思わなかったからな。それで撤退しようとした時に、ジェミニさんが応援に来てくれてな。・・・・・凄かったぜ。あれが冒険者の頂点『超級』か。・・・・・俺達ももっともっと頑張らないとな。」


「へっ、へぇ~。そんな事があったんすね。」




僕はエールを飲みながら自分の影を見る。




ジェミさん。


貴方ってそんなに凄い人なのね。




「まっ!とりあえずは無事に帰ってこれたんだ!これからもっと俺達は忙しくなるから、あまり構ってやれねぇがヒカリも無理しねぇで頑張るんだぞ!」


「うぃっす!」



「ハッハッハッ!よし!今日はとことん飲むぞ!!!」



午後から始まった飲み会は夜まで続いた。






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「ふぃ~。食ったし飲んだな。」


「・・・・・美味しかった。」


「そうね♪」



家に帰って、ちーちゃんがお茶を出してくれたので、少し食休みをしていた。



二人が飲み食い出来たのは、僕が隙を見て、テーブルに置かれた食事やエールを次々と影から渡していたからだ。


僕だけ飲み食いするのは流石に気が引けるからね。



「ちーちゃん。ご馳走様。・・・・・さて、ちょっとだけやるかな。」



「「「「「 えっっっっ!? 」」」」」




驚くと、僕をおいて、皆はすぐに地下へと下りていった。




動きがマジ速いな。




呆れながら地下へと下りると、【ゴースト】の準備をする。





今日は姉貴達を祝って、酒を飲んで気分がいい。


こういう時は、決まって雑談放送をしたくなる。


まぁ、リスナー達に伝えたい事もあるから丁度いいか。




僕は【マスターキューブ】のマスを押すといつもの様にスタートさせた。








「よぉ!皆!俺の声は聞こえているか?・・・・・今日は雑談放送だ。気楽に行こうぜ!」








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