第40話 リュート=ファーマン
「あっ。リュートおはよう!」
「私の方が先よ!おはよう、リュート!」
「おはようございます。リュート先輩!」
「やぁやぁ!おはよう。今日も皆、可愛いね!」
「やだもぅ、先輩ったら!」
「こら!何リュートにくっついてんのよ!離れなさいよ!」
「あっ。リュートさん!おはようございます!」
「やぁ。おはよう。」
学園の校門から入ると、すぐに複数の女子達に囲まれる。
腕を掴まれ、胸を押し付けられながら歩くと、学園内に入る頃にはあっという間に数十人に膨れ上がっている。
爽やかな鐘の音が鳴る。
「さぁ。愛しのマドモアゼル達。始業の合図だ。教室に入ろうか。」
女子達がそれぞれの教室へと戻るのを確認すると、少しため息を吐いた後に自分の教室の『S』クラスに入って行く。
階段教室の後ろの席へと座ると、すぐに友達が僕の隣に座る。
「やぁリュート。今日も相変わらずモテモテだな。」
「ジェームスか。・・・・・まぁね。全然離してくれないから本当に困りものだよ、彼女達は。」
「君がどこに行っても女性に甘いからそうなるんだろう?自業自得さ。」
「そんな事を言ってもな。女性が困っていたら助けるのは当然だろ?当然の事をしたまでさ。」
「ハハッ。だから君は周りから女たらしと言われるんだよ。まったく。」
彼は友達のジェームス。『アーツ帝国』の4大侯爵家の御曹司だ。
斜め前の美しい女性を見る。彼女は、授業が始まる前の予習でもしているのだろうか。本を読んでいた。
彼女の名はジーン。こちらも4大侯爵家のご令嬢だ。
僕はこの教室を眺める。
「・・・・・ここに来てもう三年か。」
ここは『アーツ帝国』の学園都市。
『アーツ帝国学園』。
14才から18才までの帝国民が学習する事を義務付けられている学園都市だ。
この学園は世界的に有名な為、世界中の国の要望で、一握りだが各国からの入学を認めていた。
僕の名前はリュート=ファーマン。
種族は竜人で17才だ。
髪は金髪。瞳は青く、体格は細身の長身。自慢じゃないが外見だけでも結構女性から声をかけられる事がある。
竜人は15才になると、この世界を学ぶ為に、世界中にある学園に入学する決まりとなっている。そしてその歳の中から更に優秀な5名のみ、世界で最高峰の学業が学べると言われている『アーツ帝国学園』の入学が認められていた。
僕がこの学園に入学したのは、もちろん15才の頃。
ジェームスと話をしていると、静かに僕の隣に座る気配がする。・・・・・いつもの甘い香りと優しい空気を纏って。
「おはよう。クレア。」
「おはよう。リュート。聞いた?今日の1時限目は模擬戦だって。」
「そうなのかい?それじゃ、僕の雄姿をクレアに見せないといけないね!」
「フフッ。心配はしていないわ。逆にストレスは溜まっていないの?」
「ハハッ。何を言っているんだい?僕はいつも全力でやっているよ!」
「はいはい。」
彼女の名前はクレア。
同じ竜人で、僕の幼馴染だ。・・・・・・・そして、ずっと大好きな子。
『いいか、りゅう君。俺の言葉は今回も一つだ。それはな・・・・・・・『信じろ』だ!!!』
【ゴースト】様の言葉が頭をよぎる。
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「それでは、次の模擬戦を始める!・・・・・リュート!バージル!前へ出ろ!」
僕は闘技場のフィールドへと上がると、黄色い声援が飛ぶ。
「リュート~!頑張って~!」
「キャ~!リュートよ!」
「リュート!いつもの様に勝って!」
笑顔で手を上げて答える。
「おいリュート。いつもナヨナヨしやがって!おめぇのそういう所が気に入らねぇんだよ。今日は女がその顔を嫌いになるまでボコボコにしてやる!」
自分より背も横幅も体格のいい体をしているバージルは、選べる武器で一番大きい斧を持っている。
確か彼はこの学年での模擬戦では、常に上位に位置している学生だ。
僕はいつもの様に槍を選ぶと、フィールドの中央に立つ。
学園専用武器はそれぞれ本物だが、着ている防護魔法服がその武器に反応して、斬られたとしても体に傷をつける事はない。・・・・・殴られた様な痛みはあるが。
『S』クラス。
各学年で、特に優秀な生徒が揃っているクラス。学業、知識、武術、魔術、全てが他のクラスに比べてずば抜けて高い者達が集まるクラスだ。
僕はさりげなく観客席を見る。
・・・・・いた。
僕は笑顔でクレアに手を振ると、それに答える様に『頑張って。』と口を動かしているのが見える。
「それでは始め!」
「てめぇは!どこ見てんだよ!」
一気に距離をつめるバージルは、そのまま大きな斧を僕めがけて振り下ろす。
「・・・・・はぁ。」
ドンッッッッッッッッッッ!!!
誰もがバージルの振り下ろされた斧があたると思った瞬間に、突然バージルは真後ろへと吹き飛ばされた。
誰も何が起こったのか分からない。
教官の先生もだ。
見るとバージルは泡を吹いて気絶している。
「しょ、勝者!リュート!!!」
見ていた生徒達から歓声が上がる。
僕は手を上げて笑顔で答えながら、冷めた目で周りを見つめていた。
何だここは。
つまらない。
本当につまらない。
僕の父は、竜人の国で最強の戦士の一人だったらしい。
小さい頃に戦争で亡くなり、母が一人で僕を育ててくれた。
だからなのか、母を守れる様に、周りの女性を守れる様に、そして大好きなクレアを守れる様に。僕は強くなろうとずっと独学で己を鍛えた。・・・・・才能があるのかは分からない。でも、国を出てこの学園に来る頃には、竜人の戦士の誰と戦っても僕に勝てる者はいなかった。
そして三年。
学業に勤しんだが、こと武術に関しては全力を出す事は今もない。
少しでもだ。
それは相手を殺してしまうから。
だから僕は実力を隠す。
隠す事しか出来ないから。
『俺は常に真剣だ!』
頭をよぎる。
【ゴースト】様の言葉が。
僕は唇を噛みしめながら我慢すると、クレアを見る。
クレアは少し悲しそうに笑顔で僕を見ていた。
『信じろ』・・・・・か。
勇気を出せ。でもなく、気持ちを強く持て。でもなく・・・・・『自分を信じろ』。
この学園に入学して、すぐに【ゴースト】を聞いた僕は、あっという間にはまった。・・・・・【ゴースト】様曰く、最初から応援している僕達の事は【古参】というらしい。
僕は最初から聞いている古参として、そして聞き専として今までずっと聞いていた。
時には他のリスナーを応援したり、励ましたり。そして一緒に泣いたり、喜んだり。
つまらない学園生活を送る毎日だったが、これだけは本当に楽しく、夢中になった。
そしてこの三年。
『女性に優しく』がモットーの僕は、知らない間に交際を申し込まれる女性が沢山増えた。そして付きまとう女性も大勢増えた。
だからなのか、クレアは遠慮して距離を置く。
それが耐えられなかった。
耐えられなくなった。
勇気を出して、聞き専の僕は初めて【ゴースト】にお便りを出した。
僕を真っすぐに見て、やさしく、そして力強く話始める。
心の奥底に突き刺さる。
過去、どんな人に言われても、こんな事は今までになかった。・・・・・・・最愛の母やクレアでさえも。
それほど【ゴースト】様の言葉は僕の心を勇気づけ、覚悟を決めさせる。
リスナーの皆も応援してくれる。
「・・・・・ここで自分を信じなきゃ嘘だな。」
僕は覚悟を決めた。
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「竜王。今年の各国の学生派遣は約100万人です。」
「そうか。」
竜人が中心の国『ギルクラウン』。
その頂点に君臨している竜王は、幹部の報告を受けて頷く。
「・・・・・そういえば、もう彼は17才になりますね。卒業したらこの国に帰ってくるのでしょうか。」
「分からんな。・・・・・だが、もし帰ってきて求められれば、この座を渡してもいいと思っている。」
「・・・・・。」
幹部はその答えに返事が出来ずにいる。
竜王は王座に座りながら天井を見て思う。
・・・・・たった14才で、この『ギルクラウン』の最強を決める大会に出場して圧倒的な力で優勝した者。
その名はリュート=ファーマン。
この国は【強さ】が一番評価される。
それは、竜人は最強でなくてはならないという昔からの教えからきていた。
優勝したリュートと褒美として剣を交えたが、見た者は私が勝った様に見えただろうが実際は違う。リュートが手を抜いて負けたのだ。・・・・・わざと。
たった14才にだ。
今は17才。
彼は今どれ程の高みにいるのだろうか。
「フッ。・・・・・リュートよ。いつでも待っているぞ。」
竜王は小さく呟いた。
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放課後。
学生が寮へと帰宅し、残っている者はほとんどいない。
その学園の誰もいない広い庭園に、僕はクレアと向かい合っていた。
「クレア。・・・・・僕は周りに、女たらしだとか、浮気者だとか、何人も彼女がいるだとか言われているけど、実際は誰もいない。」
「・・・・・・・。」
「僕は、今もこれからもずっと一人の女の子だけしか見ていない。」
「・・・・・・・。」
『頑張れ~♪ 頑張れ~♪ りゅ~う~君!!!』
【ゴースト】様や、リスナーの応援歌が頭に響き渡る。
僕は真っすぐに彼女を見て告白する。・・・・・・・自分を信じて。
「クレア。君が好きだ。・・・・・ずっと好きだった。・・・・・付き合って欲しい。」
「はい。」
「へっ?」
即答するクレアに、思わず変な声を出す僕。
「だっ、だって僕は女たらしって・・・・・。」
「私はっっっっっっっっ!!!!!」
クレアが大声で僕の答えを遮る。
「・・・・・貴方が年齢関係なく全ての女性に優しくしようとしている事を理解している。・・・・・・貴方が浮気者でないのも分かっている。・・・・・・貴方が何人も彼女がいるというのが嘘なのも知っている。・・・・・そして貴方が学園最強なのも知っている。・・・・・だって貴方は強くて誰よりも優しいから。・・・・・だって貴方は思いやりがあるから。・・・・・だって貴方は強い人だから。・・・・・・私はね。貴方を見ていた。・・・・・・貴方を見ていたから。・・・・・ずっと・・・・・ずっと小さい頃から見ていたからっっっっっっっっ!!!」
彼女はとても素敵な笑顔で僕を見て続けた。
「私も好きよ。リュート。貴方が好き。・・・・・もう。・・・・・言ってくれるのが遅いよ。」
僕は黙って彼女を抱きしめた。
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