第39話 試作品
【ホール】から出ると、どこかの館の中へと出た。
目の前にはクロックさんとサスケがいる。
「お待ちしておりましたヒカリ様。・・・・・ここではずっと【ゴースト】様と呼ばせて頂きます。」
「拙者も同じ様にするでごわす。」
「分かった。それでここは?」
「はい。ここは南の大国『アーツ帝国』です。そしてその北側にある国境付近の街『ログナット』の宿屋になります。・・・・・さっ、アルフィン殿がお待ちです。」
僕は頷くとクロックさんの後に付いて行く。
真っすぐ突き当りの部屋の扉の前まで来ると、レインが魔法を唱える。
「この部屋に結界を張ったわ。これで外に声が漏れる心配はありません。入りましょう。」
クロックさんがノックをして扉を開けて入って行く。
それに続いて入ると、部屋の中にはアルフィンが待っていた。
クロックさんや仲間達が道をあける。
そのまま僕がアルフィンの前まで来ると、アルフィンは片膝を付いて頭を垂れた。
「・・・・・【ゴースト】様。お待ちしておりました。私の名はアルフィン。今回レイン殿に託され、グッズ販売の製造販売を任されております。以後、お見知りおきを。」
「そうか。分かった。」
うわぁ~。
友達の前で【ゴースト】を演じるのは、やっぱり変な気分だ。
でもバレるわけにはいかないから、演じきるしかないけどね。
アルフィンは立ち上がると続ける。
「今回のグッズ販売ですが、レイン殿の意見で【ゴースト】様が被っている帽子がいいのではないかという事になりまして、その試作品を作って来ました。・・・・・まずは【ゴースト】様専用の帽子から。」
そう言うと、アルフィンは商人専用の高額な空間収納鞄から、黒のキャップを取り出してテーブルの上に置く。
「おぉ!すげぇな!」
手に取って思わず声を出す。
僕が色んな街の革屋でパーツごとに頼んで組み合わせた物とはわけが違う。何の素材かは分からないが、とてもしっかりしていて色も均一のブラック。そして前立てには白の『G』のマークが。・・・・・崩した感じの『G』になっていてとてもカッコイイ。
「さっ、【ゴースト】様。一度被って頂けますか?」
僕は頷くと、顔が見えない様に後ろを向いてから、被っているキャップと取り換える。
「「「「 おぉ!!! 」」」」
被って向き直ると、仲間の皆が感嘆の声を上げる。
壁際にある大きな鏡を見ると、前立ての『G』が薄く発光していた。
「この帽子は、世界で高名な【創造者】と呼ばれているアッシュ=ルーフが特殊な素材で作った代物です。この世界で生きている者は大なり小なり魔力を持っています。その魔力に反応してマークが薄く光る仕組みになっております。そして【ゴースト】様のみ、どんな位置でも鼻から上が分からない様に認識阻害の魔法が常時発動しております。・・・・・そして、この帽子を販売すれば、偽物を売ろうとする者も出てくるでしょう。それを防ぐ為に、本物かどうか一発で分かる様にしております。」
僕は深く被ったキャップを鏡でよく見る。
これ、完全に前世のキャップと同じ感じなんだけど。
いや、被り心地はこっちの方がいいかも。
「【ゴースト】様。この帽子は【ゴースト】様専用に作った代物です。どうぞお納めください。」
「えっ?いいのか?・・・・・それじゃ、いくらだ?」
「いえいえ。貴方様にはもう十二分に報酬を貰っております。なのでどうかお納めください。被って頂けた方が、アッシュも大変喜ぶかと思います。」
「そうなのか?・・・・・分かった。これからはこの帽子を被る事にしよう。アッシュという者には、よくお礼を言っておいてくれ。」
「承知しました。」
アルフィンは恭しく礼をする。
「それでは、次は販売用の帽子に移ります。」
次にテーブルの上に置いたのは、白と青と赤の三色のキャップだ。
この三つのキャップは、僕専用の黒のキャップと違って、前立てに『G』のマークはなく、両側面に小さく黒の『G』マークがついていた。
なにこれ。
こっちもカッコいいんじゃない?
僕はその内の一つを手に取ってよく見る。
「・・・・・ほう。これもいいな。」
「そうですか!それは良かった!皆さんもぜひ手に取って見てください!」
アルフィンが他にも数点同じ様にキャップを取り出すと、すぐに仲間が集まって手に取る。
帽子をすぐに被り、嬉しそうに鏡の前でポーズをとったりしている。
「あぁ!これよ!これなのよ!これ!これ!!!」
レインが被って叫んでいる。
何が?
「おぉ!!!これは素晴らしい!!!素晴らしいぞ!!!!」
クロックが被って同じ様に叫ぶ。
何が?
「・・・・・凄い。・・・・・凄い!・・・・・凄いぃぃぃぃ!!!!」
ジェミが被ってぴょんぴょん飛び跳ねながら叫んでいる。
だから何が?
「拙者!!!これは飾って毎日拝むのでごわす!!!」
サスケが被らないで天に掲げている。
・・・・・もう、好きにしてください。
「それでどうでしょうか。この三色の帽子を販売しようと思っております。もちろん、両サイドにあるマークも発光する仕組みになっていて、同じ様に作れない代物になっております。」
僕は仲間達を見る。
「皆はどうだ?」
「問題ありません!」
「絶対に売れるでしょう!」
「・・・・・間違いない。」
サスケは高速で頷いている。
グッズ販売の話はレインに一任したけど、まさかここまでクオリティのいい商品が出来るとは思わなかった。・・・・・流石アルフィンだな。
僕はアルフィンに向き直る。
「全員賛成だ。」
「そうですか!それでは了承をもらいましたので、量産に移らさせて頂きます。」
「あぁ。よろしく頼む。」
クロックさんはこれからアルフィンと販売場所の設営や、今後のスケジュールの打ち合わせをするから暫くはまだこちらにいるとの事。
【ゴースト】を演じきれてホッとした僕は、クロックさんと護衛のサスケを残して帰って行った。
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「・・・・・あれが【ゴースト】。」
アルフィンは部屋から出ていった【ゴースト】を見送ると呟く。
初めて会った。
商人として世界中を周り、忙しい毎日を送っているので、たまにしか【ゴースト】を聞けていない。
初めて会って分かった。
ここまで。
ここまでとは。
会った瞬間。
自然と片膝を付いて頭を垂れた。
【ゴースト】。
帽子を深く被り、口を布で覆っている為に素顔は分からなかったが、いるだけで気圧される。
圧倒的な存在感で。
【キューブ】から発信して、あっという間に世界中のリスナーを虜にした男。
そして今でも、新しいリスナーが続々と増えている。
その圧倒的なカリスマで。
「・・・・・これは参ったな。これ程とは。」
あまり【ゴースト】を聞けていなかったが・・・・・会ってしまったらもうダメだ。
惹きつける。
惹きつけられる。
その圧倒的なまでの存在に・・・・・そして声に。
「アルフィン殿。そろそろ次の打ち合わせに入りますか?」
立ちすくんでいた俺に声をかけるクロック。
「・・・・・そうですね。すぐに打ち合わせをしましょう。」
徐々に。
徐々にアルフィンの瞳の光がなくなっていく。
そしてクロックと話始めた時は、完全に光がなくなっていた。
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