第38話 ダンジョン3
「ここが11層か。」
僕は周りを見渡す。
今日は早朝の一番魔導列車に乗り込んで、朝早くからダンジョンへと来ていた。
『古の森』からダンジョンへと移って、もう数ヶ月が経った。
E級冒険者推奨の10階層までは、とりあえず全てのルートを探索し終わり、最初はちょっと苦戦したモンスターもいたが、今は問題なく倒せる事が出来ている。なので今回は、日帰りで帰ってこれる様に朝早くから潜って、ギルドからの討伐依頼のモンスターを倒した後、とりあえず様子見で11階層まで来てみた。
「案の定、11階層も複数のルートがあるなぁ。」
降りた先には、多くの洞窟の入口がある。
「・・・・・ここ『フレグラ王国』のダンジョンは別名『迷宮ダンジョン』。・・・・・こんな感じがずっと最下層まで続くよ。」
僕の後ろでアドバイスをするジェミ。
最初こそ過剰すぎる程のお節介をされたが、今は納得してくれて余程の事がない限りは手を出さないでいてくれている。
「こんな洞窟がずっと続くのね。つまらないわ。」
僕の影から半分顔を出して呟くレイン。
それ、ちょっと怖いからやめて下さい。せめて全部顔を出して喋ってください。
「よし。とりあえず、どんなモンスターがいるかだけでも探って帰るか。」
最初は一人前と呼ばれているE級冒険者になって、ある程度稼ぎながら【ゴースト】をしようと思っていたけど、仲間が出来てしまったので今の家だと正直狭すぎる。レイン達は僕の影に住んでいるからいいけど、ち~ちゃんとジェミは同じ部屋で寝起きしてもらっている。二人ともやがらずに、姉妹みたいで微笑ましいけど、やはり狭い。一人暮らしの予定で買った家だったからしょうがないんだけどね。今はクロックさんが引っ越しするのにちょうどいい土地を探してもらっている。だからもっとお金を稼がないといけない。
という事で、もうちょっと頑張って上のランクを目指そうと思っている。
まぁ、いざという時はレインとジェミがいるという安心感があるから目指せるんだけどね。
「ん?・・・・・現れたか?」
歩いていると先の方に一体のモンスターが現れる。
白い髪をして、体には鎧の様な物を付けている。武士の様な格好だ。身長は3m程あり、頭には二本の角がある。そして特徴的なのは体の周りが薄白く発光している事。
Dランクモンスター。
『幽鬼』。
「予想通りか。・・・・・【身体強化】。」
僕は両腰からショートソードを抜き、身体強化魔法をかける。
D級冒険者の推奨階層は、11階層から30階層まで。その多くが死霊系のモンスターだと資料に書いてあった。
この幽鬼は小細工なしの剣での戦い。今のレベルを測るのには丁度いい。
「いくぜ!」
走りながら距離をつめる。
それに合わせる様に、幽鬼の一刀が頭上から襲いかかった。
ギィィィィィィィン!!!
それを片方のショートソードで受け止めながら攻撃をしようとしたが、思いのほか衝撃が強く、そのまま流せずに後ろへ弾かれた。
「ちっ!」
そのまま返す刀で一刀を入れる幽鬼。
「【二倍掛け】!」
瞬時に懐に潜り込んだ僕は、幽鬼の鎧の隙間からショートソードを刺しこむと、そのままジャンプしてもう片方のショートソードで首を斬った。
首を失った幽鬼はそのまま倒れずに、白い幽体となって鎧と魔石を残し消えていった。
「ふぅ。やっぱり全然強さが違うな。」
まず剣速がEランクのオーガに比べると全然速い。それでいてあの力強さ。一体だから良かったものの、複数の相手だと今の僕ではかなり厳しい。
すると、黙って僕の戦いを見ていたジェミが言う。
「・・・・・踏み込みがあまいよ。もっと思い切りよく踏み出さないと。・・・・・あと、身体強化に頼りすぎ。複数体ならいいけど、一対一なら身体強化を使わないで戦った方がいい。」
「分かりました!次回は気を付けます!」
「・・・・・よろしい。」
今のジェミは最高の先生だ。
元『超級』の冒険者に教えてもらえるなんて、普通じゃあり得ない。
だからモンスターを倒した後は、こうやってアドバイスをもらっている。
ダンジョンもそうだが、どこに行っても僕に付いてくるので、前に鍛えなくて平気なのか聞いた事があった。
「・・・・・毎朝、瞑想している。・・・・・だから問題ない。」
朝、まだ暗い内から起きて、ち~ちゃんが眠っている横で座禅して瞑想しているらしい。
前世で言うイメージトレーニングの様な物だ。
自分より強い相手をイメージして戦う。
そんなので強くなるものなのかと思ったが、達人レベルになると弱い相手しかいなくなるので、この方が鍛えられるのだそうだ。
うん。よく分かりません。
僕は魔石を拾う。
それから幽鬼を慎重に一体づつ三体倒して、ダンジョンを出た。
「ヒカリ様。ちょっとよろしいですか?」
朝早くダンジョンに入った為、まだ午後の明るい内に出た僕達は、折角だからと、この街『バディン』で色々と買い食いをしていると、レインが影から出て来て僕を引っ張っぱり、路地裏へと入って行く。
「どったの?」
「はい。影の中で【キューブ】から連絡がありまして。グッツ販売の試作品が出来たそうです。」
「マジで?!」
すっかり忘れていた。
そういえば、グッツ販売はレインに一任しているんだっけ。
「それですぐに来て頂き、判断を仰ぎたいと、アルフィン様が仰っております。サスケに【ホール】を開けさせておりますので、すぐに参りましょう。」
「ちょっ、ちょっと待って!・・・・・今、アルフィンって言った?」
レインは小首を傾けて当たり前の様に答える。
「はい。今回のグッツ販売の販路の確保は、商人のアルフィン様に依頼をしました。知らない商会に依頼するより、ヒカリ様が信頼をおける商人の方がいいと思いまして。」
「いや、確かにそうだけどさぁ。」
参ったな。
もちろんアルフィンは一番の信頼をおける商人だ。・・・・・友達だしね。でも、正体は隠してるんだよなぁ。
感づいたのか、レインは続ける。
「アルフィン様には、正体がヒカリ様だとは話しておりません。ですから商談する時は【ゴースト】でお願いします。ただ、帽子とコートだけだと顔が分かりますので、布で口を巻いたらどうでしょうか。」
「・・・・・それが一番妥当か。」
この世界にはマスクがないので、布を巻くしかない。
声もシールを剥がして地声にすれば、流石に気づかれないだろう。
「よし。まだ早いから、家に帰る前に行こうか。」
「はい!」
「・・・・・もちろん僕も行くよ。」
レインは認識阻害の魔法をこの路地裏にかける。
僕は首に貼ってあるシールを剥がし、腰にあるポーチから帽子とコートを取り出すと、いつもの【ゴースト】へと変身する。
「フフッ♪」
「・・・・・【ゴースト】だぁ♪」
二人とも目に光がないけど大丈夫か?
レインが呟くと【ホール】が現れる。
僕は演者【ゴースト】になりきる為、いつもの様に頭を切り替えた。
「よし。・・・・・二人とも行くぞ。付いてこい。」
「「 はい♡♡♡ 」」
二人を後ろに控えさせて、そのまま【ホール】へと入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます