第36話 交渉2




ザワッッッッッッッッッッ!!!




クロックの言葉を聞いて、ざわつく周りの幹部達。




「ほう。あの島が欲しいとな。」



足を組んで私を見ているミリオンは鋭い目に変わる。




「貴様っ!言うに事欠いて、我らの島だ欲しいだと?」


「ふざけるな人間!」


「ミリオン様に面会できるだけでもありがたいというのに!」


「やはり殺す!貴様は生きて帰さんぞ!」



ミリオンが片手を上げて皆を制す。




「理由は?」


「はい。一つ目は、あの巨島は『魔大陸』と『ユーテラス大陸』の中間に位置する島。両方の大陸に行くのに時間がかかりません。2つ目は、失礼ながらあの島は領地といっても、現状は何も整備されていない無人島の状態。そして最後はあの島が【ゴースト】様の国として最も最適だからです。」



「・・・・・。」




ミリオンは目を閉じると暫く黙る。



「フッ。国・・・・・そして【ゴースト】か。」



小さく呟いた後に、立ち上がると私を見下ろしながら話す。



「お主の言いたい事は分かった。確かにあの島は今の所あるだけで、何も手を付けてはいない。しかし関係が悪化して、もし『ユーテラス大陸』との戦争になった時にあの島は重要になる。貴様の依頼だけで頷く事は出来ぬし、大金を積まれたとしても渡す事は出来ぬな。」


「そうですか。」




やはりそうなったか。



こちらは願いを言っただけで、まだ何も交渉はしていない。



本当の目的は、魔王がペンネーム【ろーど】かどうかが知りたかっただけだ。我々はリスナー同志。面会はスムーズにいくだろう。これからゆっくり交渉すればいい。




「それでは本日はこれで・・・・・。」


「【ゴースト】。」



「えっ?」




会釈をして帰ろうとした私にミリオンが続ける。



「貴様ではなく【ゴースト】を連れて来い。・・・・・そうすれば考えてやる。」



「はっ???」


「ミリオン様???」



「黙れ!!!」




動揺し始めた幹部達を一喝して黙らせる。




「よいか、ち~ぱぱ。もう一度言う。まずは【ゴースト】を連れて来い。・・・・・それからだ。」


「・・・・・承知いたしました。それでは失礼致します。」




踵を返すと、いつの間にか入口の方で待機していたスーツ姿の男の後に付いて行った。






「痛い所をついてきますね。」


「そうなのですか?」



元来た通路を歩きながら、スーツ姿の男が私に笑顔で話す。



「・・・・・【ゴースト】のリスナーはどんな事があっても曲げない固い信念がある。そして仲間意識が非常に高い。初期の【古参】と呼ばれるリスナーは特にね。それを利用しましたか。流石、稀代の策略家といわれるだけの事はありますね。クロック=ロドリゲス様。」


「知っていましたか。」



「もちろんでございます。『オーメン国』を滅ぼした後、行方が分かりませんでしたが【ゴースト】の元にいたのですね。」


「運命のめぐり合わせでこうなりました。しかし貴方の情報網も素晴らしいですね。魔王の右腕と言われているグレイブさん。」



「「 ・・・・・・・。 」」




それから二人は黙って転移魔法陣まで行くと、グレイブは会釈をしながら私に言う。



「それではクロック様。近い内に。」


「近い内に。」



クロックは返事をすると、消えていった。






-------------------------------------------------------






「はぁ~。」



僕は大きくため息をついた。



「・・・・・ヒカリ。・・・・・ごめん。次は何もしないから。」


「ホントに~? 次は絶対に手を出さない?」


「・・・・・はい。」



ジェミは、すまなそうに正座をしている。




いやね。



今日は稼ごうと思ってダンジョンに行きましたよ。



ジェミもついて行くと言うから連れて行きましたよ。



この娘は何といっても冒険者の最上級、元『超級』だ。色々と教えてくれる、鍛えてあげるって言うから同行してもらったんだけどさ。・・・・・もうほとんど戦わせてくれなかったのよ。






ちょっと危なくなると。



ザンッッッッッッッッッ!



「・・・・・危ない。」






ちょっとモンスターの数が多くなると。



ザンッッッッッッッッッ!



「・・・・・多い。」






ちょっと傷を負うと。



ザンッッッッッッッッッ!



「・・・・・大丈夫?」






もうね。



あまりの心配性で、あまりの過保護で、ほとんどのモンスターをジェミが倒しちゃうから僕にとっては何の成果も得られなかった。



あっ、そうそう。


この間ジェミがギルドに現れてパニックになったけど、それはこの国に友達がいて会いに来たという事にした。久しぶりに会えて後姿が似ていた僕に抱きついた設定になっている。・・・・・今は外を歩く時は深いフードを被ってもらっている。




「・・・・・次はちゃんと見守るし、手を出さないから。・・・・・また連れて行って。」



正座をしながらシュンとして反省をしているジェミ。



僕は優しくジェミの頭を撫でる。



「はぁ。分かったよ。僕はね、自分の事は自分でやりたいんだ。だから次はちゃんと教えてね。」


「・・・・・うん!」



嬉しそうに笑顔で返事をする。機嫌が直ったみたいだ。




「さて。それじゃ、やりますかね。」




!!!!!!!




すぐに立ち上がるジェミ。



いつの間にか影から出てきたレイン。



さくら、しずく、ち~ちゃんは地下へと駆けて行った。




「ハハッ。」




僕は二人を連れて地下へと下りる。



三人はすでにいつもの様に壁際で正座をしている。そこに並ぶ様にレインも正座を。ジェミは体育座りを。


皆、目をキラキラさせながら僕を見ている。



どんだけ楽しみなんだよ。・・・・・まぁ、パーソナリティの僕としては嬉しいんだけどね。




もうこの放送【ゴースト】は大分定着したと思う。



でも、まだリスナーのお便りの量が日に日に多くなっていっている。ファンになってくれている人がまだ増えている証拠だ。なら僕がやることは一つ。皆に楽しいんでもらう放送をやり続けるまでだ。




僕はコートを羽織り、帽子を深く被る。


首に貼ってあるシールを剥がして、【マスターキューブ】のマスを押した。






「よう!皆!俺の声が聞こえるか?!・・・・・・・さぁ、今日も始めるぜっ!!!!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る