第35話 交渉1



「さて。目的の地へ着きましたね。」




貨物船から降りたクロックは、周りを見渡す。




南の大国『アーツ帝国』から更に南にある最南端の国『オーランド』。


同盟国ではないが、隣国として友好的な関係を築いている『アーツ帝国』の宰相ハートランドに融通してもらい入国した私は、そのまま貨物船に同乗し、南の海へと出た。




この世界は大きく二つの大陸に分かれている。




一つは私達ヒューマンや他の種族が生活している『ユーテラス大陸』。


一繋ぎになっているこの大陸は、とてつもなく大きく100ヶ国近くある。




そしてもう一つ。



『ユーテラス大陸』から【魔海】と呼ばれている海を挟んで南にある大陸。


魔族と呼ばれる者達が中心となって生活している『魔大陸』。



この大陸は『ユーテラス大陸』の四分の一位の大きさだが、それでも大きく、そして広大だ。




クロックは乗船していた船から降りると、そのまま検問所の方へと歩き出す。




この『魔大陸』は五つの国しかない。


文献によると、昔はこの大陸も多くの国があったらしいが、【力】が中心の魔族は、強者が台頭し、徐々に国が減って今に至っている。




五人の【魔王】が治める、五つの大国。



その内の一つ。



『バルメリア』。




『魔大陸』の北に位置するこの大国は、『ユーテラス大陸』の『オーランド』と国交を結んでいる。



他の種族を軽視し、差別する傾向が高い魔族は『ユーテラス大陸』にはやってこない。しかし、この『バルメリア』国の魔王は、こちらの大陸の文化や技術を積極的に取り入れていて、あまり差別をする様な事はしない。・・・・・ただメリットがなければ相手にされないが。そして『ユーテラス大陸』と『魔大陸』を挟むこの海は、巨大な魔物やモンスターが生息している魔海。だから決まった契約時間に運航しないと、この大陸に上陸する事はまず出来ない。数キロ航行しただけで、すぐに魔物やモンスターに襲われるからだ。



貨物船の乗員達は、目の赤い魔族の者達へ挨拶すると積み荷を運び出している。




手慣れたものだ。


大金を払って、積み荷の受け渡しが終わったら私が戻るまでは待機してもらう契約だ。



魔族にも種族はあるが、共通しているのが目が赤い事。





「止まれ。・・・・・何用だ。」



港を塞ぐ様に、巨大な壁が建っている。


その前に建設された検問所にいる魔族の衛兵が問いかける。



「私はクロックと申します。そちらの魔王様に面会をお願いしたく参りました。」


「王にだと?貴様分かっているのか?我が王に会うのなら、正式な書面を持参してから来い。」




!!!!!




周りにいる魔族も、目の前で対応している魔族も息を飲む。



それは、クロックの影から一人の男が現れたからだ。



全員息を飲み、そして固まっている。



その圧倒的なまでの強者のオーラに。




「あぁ。すみませんでした。こちらが書面になります。これで何とかお目通り出来ませんか?」



そう言うとクロックは、ハートランドに頼んで作ってもらった書面を渡す。正式な『アーツ帝国』の刻印が押された物を。



慌ててそれを受取ると、魔族は目を通す。


「わっ分かった。すぐに連絡を取ろう。少し待っていてくれ。」



そう言うと検問所へと入って行った。




「サスケさん。助かりました。」


「少しは役に立ったようで、よかったでござる。」




この世界は【力】が中心。



強い者が頂点に立つ。



最初は私を見て邪険にしていた魔族だったが、サスケさんが現れた途端に態度が変わった。・・・・・それは、この人が圧倒的なまでの強者だからだ。



サスケさんを含む三人のレインの眷属。




私から見ても分かる。



その圧倒的なまでの強さが。




「フッ。眷属でこれでは、レインはどれ程の者なのか想像もつきませんね。」



私は独り言の様に呟く。




すると、対応していた魔族の男が戻って来た。



「お待たせした。・・・・・会って頂けるそうだ。運がいいな。我らの王は滅多に面会をしない。たとえそちらの王が来たとしてもだ。本当に珍しいのだぞ?」


「そうですか。それは良かった。」



「それでは付いてまいれ。」



私はサスケさんを連れて衛兵について行く。



検問所へ入り、奥へと進むと、広間へと出た。



そこには巨大な魔法陣がある。




「それでは、この中央に立ってくれ。これは転移魔法陣。すぐに謁見の間へと移動できるだろう。」




私達は巨大な魔法陣の上に乗ると、床がひかり、視界が変わる。


どこかの応接室だろうか。壁には絵が飾られ、天井にはシャンデリアの火が灯っている。




「いらっしゃいませ。『アーツ帝国』の使者よ。私はこの国の幹部の一人。グレイブと申します。」



いつの間にか対面にいる黒いスーツ姿の男。



「こちらこそ、お時間を頂きありがとうございます。私はクロックと申します。後ろにいるのはサスケです。以後お見知りおきを。」




スーツ姿の男は頷くと、扉を開ける。その先は真っ黒な渦の様になっていた。




「さぁ。我が王がお待ちです。どうぞこちらへ。」



そう言うと、スーツ姿の男は渦へと入って行った。




「それでは行きますか。」



私は同じ様に渦の中へと入って行く。


サスケさんには影に戻ってもらった。警戒感を持たれても困るのでね。




するとまた視界が変わり、広い空間へと出る。


円柱が何本も建っていて、神殿の様な作りに見える。先には数段高い所に巨大な椅子があり、そこに美しい金髪の女性が座っている。その周りには異形の者達が並んでいた。


スーツ姿の男の後に付いて行き、女性の前まで来る。




「ミリオン様。お連れ致しました。」


「うむ。・・・・・・・よく来た。客人よ。」



クロックはその場で『アーツ帝国』式のお辞儀をする。



光に反射して輝く黄金色の髪。透き通る程の白い肌。美しい顔立ちと魅力なプロポーション。血の様な赤い瞳。そして口を開いた時に見えた鋭い牙。




・・・・・あれが、この『魔大陸』の五つの国の一つ『バルメリア』を治めている魔王。




ミリオン=ロード。



バンパイアの始祖であり、この国の王。



ここまで美しい女性だとは思いもしませんでしたね。




「お初にお目にかかります。・・・・・私はミリオン様に会えるのを確信しておりました。」


「ほう。・・・・・何故そう思った?」




「・・・・・・・【ゴースト】。」




ピクッ。




ミリオンが反応する。




そう。



書面には、面会の許可と一緒にゴーストの事で話がしたいと最後に一文を入れた。



やはり私の予想は当たりだったようだ。




私は肩をすくめる。


「形式ばった態度はやめましょう。書面にあった『アーツ帝国』の刻印は本物ですが、あれは頼んで貰った物。私は『アーツ帝国』の使者ではありません。どうしてもミリオン様に頼みたい事がありまして、ここまで来ました。」




「頼みたい事だと?貴様!無礼だぞ!」


「下等な種族が。我らに依頼など・・・・・殺すぞ。」




並んでいる異形の者達が怒鳴る。



黙って聞いていたミリオンは、手で制すると問いかける。



「わらわに頼みたい事だと? 面白い事を言うではないか。わらわがその頼みを聞くと思うのか?」


「ええ。私は確信しております。・・・・・・・古参リスナー・・・・・・・【ろーど】様。」




ピクッ。ピクッ。ピクッ。




ミリオンが動揺している。




もう一押し。




「あぁ。申し遅れました。私はクロックと申します。・・・・・・・リスナー名は【ち~ぱぱ】。」




ガタッ!




ミリオンが驚きの顔で立ち上がった。



「・・・・・私は今は【ゴースト】様に仕えております。・・・・・あの!【ゴースト】様にですっ!!!!!・・・・・その意味。ミリオン様には分かりますよね?」


「なっ!なっ!!なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!【ゴースト】に仕えておるじゃとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!どういうことじゃ!!!」


「ミリオン様!」




立ち上がってクロックの所に行こうとしたミリオンは、黒のスーツ姿のグレイブが間に入り諫める。


落ち着いたミリオンは椅子に座り直すと、肩ひじを付いて続ける。




「貴様が【ち~ぱぱ】か。・・・・・【ち~ちゃん】は息災か?」


「はい。【ゴースト】様のおかげで。」



「そうか。・・・・・それで頼みたい事とはなんじゃ?」



私は真っすぐにミリオンを見て言う。








「・・・・・この『魔大陸』と『ユーテラス大陸』の丁度中間にある、ミリオン様の領地の巨大な島。・・・・・あれをください。」





















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