第34話 使徒3



「ただいまぁ~。」


「あっ!ヒカリ様が帰って来た~♪ おかえり~!・・・・・・・誰?」




ち~ちゃんが嬉しそうにドタドタとやって来ると、玄関から入って来た僕を見て急に冷たい目を見て言う。




「ほら!走っちゃダメっていつも言ってるっすよね!・・・・・・・誰?」


「ち~ちゃん。家の中で走る事はいけません。分かりましたか?・・・・・・・誰?」



しずくとさくらも現れると同じ様に冷たい目を向ける。




皆さん。


僕が浮気して帰って来た様な目をするのはやめて下さい。




僕の背中には、とても柔らかい感触の物があたっている。




「・・・・・ここが【ゴースト】の家。」




冒険者ギルドでレイナさんと話をしていた僕は、突然、獣人の少女に飛びつかれた。




いや~マジで大変だった。




周りにいた冒険者達はパニックを起こすし、レイナさんも茫然として口を金魚みたいにパクパクして固まってたし。結局離してくれなかったので、そのままおんぶして、とりあえず家まで連れてきたのだ。



家に帰ったらやっと解放してくれたので、椅子に座ってもらう。




「はい!どうぞ!お茶です!」


「・・・・・ありがとう。」



ち~ちゃんが疑いの目をしながらも、お客様にお茶を出す。



「それで?君は誰?何で僕に抱きついたの?」


「・・・・・僕の名前はジェミニ。・・・・・いや、【じぇみ】って言えば分かる?」




「え~! じぇみ~?! うそ~!」


「マジっすか!」


「あら。」



突然コロッと機嫌が良くなる三人。



「じぇみ!えっとね~。私は【ち~ちゃん】だよ~♪ よろしく~!」



ジェミニは目を見開くと、笑顔になって隣で立っているち~ちゃんを抱きしめる。



「・・・・・ち~ちゃん。・・・・・治って良かったね。」


「うん!」




あれ?何か全然話が進まない。




「オホン!えっと・・・・・という事は、君はリスナーのじぇみで、僕に会いに来たって事でいいの?」



ジェミニは頷く。



ん?ちょっと待って。何かおかしくないか?



「ねぇ、ジェミニさん。僕に会いに来たって返事したけど、まず何で僕が【ゴースト】だと分かったの?・・・・・あっ!言っちまった。」


「・・・・・はぁ。今更何を言っているのですか?【ガチリスナー】なら、見れば貴方が【ゴースト】だとすぐに分かりますよ?」



いつの間にか僕の影から現れたレイン。



なに、そのちょっと小馬鹿にしたような目。何かムカつくんですけど。




ガチリスナー?




貴方は何を言ってるのかな?




全然意味が分からないんですけど。




だって顔は見せた事ないし、声だって変えている。




全然意味が分からないんですけど。




「そっ、そうなんだ。じゃ、ちゃんと自己紹介するね。僕の本当の名前はヒカリ。【ゴースト】は演者さ。よろしくね。ジェミニさん。」


「・・・・・じぇみ。・・・・・これからは僕の事、ジェミって呼んで。」


「ハハッ。分かったよ。それじゃジェミ。よろしく。後は仲間のレインにさくらにしずく。【ち~ちゃん】の名前はチェリー。ここにはいないけど、【ち~ぱぱ】のクロックさんとサスケ。今はこの六人が僕の仲間なんだ。」




「フフッ♪よろしくね。」


「よろしくっす。」


「よろしく。」


「ジェミよろしく~!」



「・・・・・うん。・・・・・よろしく。」




座っている僕の前で、和気あいあいと話始める皆さん。



うん。何か微笑ましいな。



これはあれだ。オフ会みたいな感じだ。知ってるけど会った事がない、顔が見えない仲間達。会ったらやっぱり嬉しいよね。




暫くその光景を見ていた僕は話しをきり出す。



「それでジェミは、何で僕に会いに来たの?」




ジェミは話始めた。




淡々と。




自分の壮絶な過去を。





「・・・・・・・。」




僕は黙って聞いていた。


仲間達も同じ様に沈黙している。




「・・・・・それで僕は君に救われた。・・・・・救われたんだ。・・・・・だから会いに来た。・・・・・君に会って。・・・・・【ゴースト】・・・・・いや、ヒカリと一緒に・・・・・共に歩きたいって。」


「そっか。」




村の人達を殺され。




親を殺され。




心を失って。




僕は立ち上がると、座っているジェミに近づいて頭を優しく触る。



「強いな。ジェミは。」



首を振って笑顔で答える。


「・・・・・もう大丈夫。・・・・・ヒカリの声が届いたから。・・・・・だから・・・・・だから僕も仲間にして欲しい。」






『寿命/残り1,990年』 


『貴方に対する忠誠が上限を超えました。使徒にしますか? 【使徒】残り10名/マスターと同じ寿命となる。マスターが死亡すると同じく死亡する。』






いつものスキルが表示される。



僕はレインを見る。


「私は賛成です。まさかこの時代にここまでの傑物がいるなんてね。フフッ♪」


「・・・・・僕も驚いた。・・・・・ここまでの化物。・・・・・初めて。」



「あら。何か言ったかしら?」


「・・・・・何でもない。」



二人して睨み合う。



「はいはい。いい?ジェミ。もし仲間になるんなら、絶対に仲間との喧嘩は禁止。それだけは約束して欲しい。」


「・・・・・分かった。・・・・・レイン。ごめん。」


「フフッ。これから貴方も【使徒】になるんですから、仲良くしましょう。」



「でもいいの?僕のスキルで【使徒】にすると、僕が死んだら君も死ぬんだよ?もちろん寿命も一緒だ。ち~ちゃんみたいに【使徒】にならなくても仲間なんだから、無理してならなくてもいいんだよ?」



ジェミの瞳が徐々に光を失っていく。



「・・・・・僕は君に救われた。・・・・・だから全てを捧げる。・・・・・心も・・・・・体も・・・・・だから【使徒】になる。」(・・・・・そして貴方を想うと胸が暖かくなるこの気持ちが一体何なのか・・・・・いつか分かる為に。)


「そっ、そう。分かった。それじゃ、好きな番号はある?クロックさんが9番を選んだから、それ以外なら選べるよ。」



「・・・・・1。・・・・・1がいい。」




即答した。



だって貴方の一番で私はずっといたいから。




「オッケー。それじゃ、よろしく!」



僕はジェミと握手する。


すると、ジェミの体が虹色に光った。


スキルの表示が追加される。




『寿命/残り1,990年』


【使徒】残り9名



ナンバー0:レイン=シルバー


ナンバー1:ジェミニ


ナンバー9:クロック=ロドリゲス




ジェミは目を見開く。僕のスキルが見えているんだろう。



「・・・・・凄い。・・・・・これがヒカリのスキル。」



僕は両手を叩くと皆に言う。



「よっし!それじゃ、今日はジェミの歓迎会だ!」




全員喜びの声を上げる。




・・・・・あれ?




普通に仲間にしちゃったけど大丈夫か?




冒険者ギルドで会った時に、そういえば周りが『世界一の傭兵』とか、『超級』とか言ってなかったか?





・・・・・。





・・・・・。





まっ、いっか。






僕は考えるのをやめた。










走る。





走る。





世界中に衝撃が走る。





【世界一の傭兵】が引退した。





それは、世界中の国にとって衝撃の出来事だった。





引退したのだ。





抑止力となっていた【戦争終結人】が。





これで世界は変わる。





激動の時代へと。






ヒカリは知らない。




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