第33話 販路




「待ち合わせ場所はここか。」



アルフィンは、目の前の巨大な城を見上げる。




ここは世界最大の国土と武力を持つ南の大国『アーツ帝国』。


その帝都『ミランディア』の中心にそびえ立つ帝城の入口で、アルフィンは人を待っていた。



「まさかこんな所を指定してくるとはな。」



アッシュと会った俺は、グッズ販売の元となる商品の製造を頼んだ後、次は販売場所としてこの『アーツ帝国』に来ていた。


ここに来る途中【キューブ】でレインに状況を伝えると、会って欲しい人物がいると言われ、この帝城前で待ち合わせをしていた。




「やぁ。待ったかな?」



横から声を掛けられ、その男を見て内心驚く。




「・・・・・これはこれは。まさか貴方が来るとは思っても見ませんでした。今、貴方は世界中で注目されている方の一人ですよ。・・・・・クロック=ロドリゲス様。」


「様は付けなくていいですよ。今は貴族ではありませんし、名もクロックです。気軽にクロックと呼んでください。」



二人は笑顔で握手する。



「ハハッ。私にはとても呼び捨てなど出来ませんよ。ほとんどの国が、貴方の知能を欲しがっていると言うのに。」


「フッ。買いかぶりですよ。特徴を聞いていたので一目で分かりました。貴方がアルフィンさんですね?」



「はい。しがない商人をしております、アルフィンと申します。以後、お見知りおきを。」


「レイン殿から聞いておりますよ。素晴らしい商才をお持ちだとか。」



「いえ、そんな。私はまだまだ未熟者です。ですが、今回は【ゴースト】様と仲間のレインさんに声を掛けてもらって、グッズ販売の全てを任せてくれました。・・・・・このチャンス。是非ともものにしたいと思いましてね。」


「そうですか。実は私もこの度【ゴースト】様と仲間になりましてね。用事を済ませるついでに、ここに立ち寄らせてもらいました。それでは行きましょう。」




そう言うと、クロックは俺を連れて帝城の中へと入って行く。


厳重な帝城の入口には、大勢の騎士達がいたが、クロックが入城許可証を見せると止められる事なく入る事が出来た。




事前にレインには伝えてある。


販売場所として『アーツ帝国』の北の国境付近の街『ログナット』にしたいと。



あそこは商いの街の一つであり、『アーツ帝国』の中で一番他国の商人や種族が集まる場所となっている。世界最大の国であり強国の『アーツ帝国』で販売する事が出来れば、安全面からも告知としても申し分ない。



だから『ログナット』の領主に了解をもらうつもりだったのだが。




黙ってクロックの後に付いて行くと、察したのかクロックは笑顔で言う。


「通常なら、あの街の領主に会って承認を得るのが筋でしょうけど、それだと時間がかかりますからね。手っ取り早い方法を取らさせてもらいました。」



暫く歩いて行くと、軍服を着た男が俺達を出迎える。



「お待ちしておりました。さぁ、こちらへ。」



軍服の男が先頭に立って誘導していく。



「申し訳ないですね。突然連絡してしまって。」


「いえいえ。クロック様がみえられるのなら、宰相も喜んで予定をずらしますよ。・・・・・それと、今回は陛下も皇女様もいらっしゃいます。」



「皇帝が?」



俺は思わず声が出てしまう。






『アーツ帝国』のトップ。



第35代皇帝 ハイト=ブローシュ=アーツ皇帝と会うだと?




軍服の男は先導しながら答える。


「クロック様とは是非お話がしたいと申されておりました。・・・・・さっ、着きました。謁見の間です。どうぞ。」



大きく開かれた巨大な扉をクロックと俺は入って行く。



真っ赤な絨毯が先へと続き、その両側には漆黒の鎧を着た騎士達が並んでいる。


その中心を歩くクロックに俺は付いて行く。



そして中央に座っている、精悍な男の前に来ると立ち止まり、頭を下げる。




「ハイト皇帝。お久しぶりでございます。そしてハートランド。急な面会に感謝する。」



座っているハイト皇帝の横で立っている女性は笑顔で答える。



「亡命してどこにいるのかと心配していたわ。友人なんだから、たまには連絡をしてくれてもいいでしょう。」


「すまないね。私も新しい主を見つけて忙しくてね。」


「ほう。」



ハートランドとの会話に割って入る皇帝。



「クロックよ。今、新しい主と言ったな。・・・・・・それはどこの国の王だ?」



クロックは皇帝の方を見ると、会釈をしながら答える。



「いえ。国には仕えておりません。皇帝よ。私は今、個人に仕えております。」


「クロック程の者が個人に仕えるだと?お主ならどこの国も引く手あまただろうに。」



そう言うと、皇帝はハートランドを見る。


「・・・・・私の所に連絡があって、ハイト皇帝がお会いになったのも、貴方をあわよくば引き抜きたいからよ。個人に仕えているのなら、その方と一緒にこの帝国に来る気はない?」


「ハートランド。知っているだろう。私は決めたら絶対に曲げないと言う事を。そして、私はその御方を王にしたいんですよ。魅力的だが、その話はお断りしよう。」


「そう。残念ね。・・・・・それで?貴方を射止めたその御方とは誰なの?」





「・・・・・【ゴースト】。」





ガタッ!!!




黙って皇帝の隣に座っていた皇女が突然立ち上がる。



「ごっ!【ゴースト】?・・・・・今、【ゴースト】様と言いましたか???!!!」



皇帝は立ち上がった皇女を手で制す。



「ユーリティア。静かにしていなさい。経験の為に同席をさせたのだ。口を挟むなら退席をさせるぞ。」


「すっ、すみません。お父様。」



そう言うと、皇女は黙って座る。



「クロックよ。すまないな。・・・・・そうか。今話題のあの男の元にいるのか。ただあの男は世界中で認知されてはいるが、謎が多すぎる。どんな男なのだ?」




すると、クロックは両手を広げて答えた。



「【ゴースト】様は、とても素晴らしい御方!私の娘を助け、そして私の『心』を救済されたっっっっっ!!!!!私はあの御方の腕となり、足となり、そして頭脳となり、微力ながらお仕えしようと心に決めたのですっっっっっ!!!!!」


「そっ、そうか。」



皇帝は若干その姿を見て引いている。



「・・・・・素敵♪」



隣の皇女は小さく何か呟いている。



「それで?今日は何の用で来たの?」



ずっと黙っていた俺は、クロックの隣に出る。


「ハイト皇帝様。ユーリティア皇女様。そしてハートランド宰相様。お初にお目にかかります。私は商人のアルフィンと申します。この度は、クロック様の伝手で同行を許されました。」



挨拶をすると、皇帝と宰相は黙って先を促す。



「今回クロック様と一緒に来ましたのは、先程話が出ました【ゴースト】のグッズ販売をこの国でやらせてもらいたいと思いまして・・・・・その許可を頂きたく、参りました。」


「グッズ販売ですか。」



「はい。ご存じの様に、【ゴースト】は今や世界中に知れ渡っている人気者です。そのグッズを販売するとなれば、世界中から客がやってくるでしょう。そうなれば、良からぬ者も間違いなく現れます。ですが、この『アーツ帝国』ならば、お客様に安全が保障出来て、安心して買って頂ける。そう思いまして、第一候補としてお願いに参りました。・・・・・最初は販売予定の『ログナット』の領主にお願いにあがろうと思ったのですが、クロック様が来て頂きましたので・・・・・。」


「なるほどね。クロックらしいわ。直接トップに許可を得れば、後はどうとでもなるものね。」



ハートランドは答えると、クロックは肩をすくめている。



すると、黙っていた皇女が話したそうに前のめりになって皇帝を見ている。



「ふむ。グッズ販売か。・・・・・ユーリティア。何か言いたそうだな。話す事を許そう。」



「お父様っっっ!これは絶対!ぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇったいにっ!!!許可を出すべきです!!!!!」


「うっ、うむ。」



鬼気迫る皇女に気圧される皇帝。



「陛下。この話は悪くないかと。世界中の者達が『アーツ帝国』に来るとなれば、我々の強大さや偉大さの一端が見せられる。そして、【ゴースト】の販売を許可した懐の深さも世界中から来る客に伝わりましょう。」



ハートランドは皇女を優しく制止すると、皇帝に進言する。



「そうだな。・・・・・それでは許可しよう。後は宰相。任せるぞ。」


「ハッ。」



「キャァァァァァァァァァァ!やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



椅子から立ち上がって、ぴょんぴょん飛び跳ねている皇女。



呆れた顔をしながら、皇帝は皇女を連れて謁見の間を後にする。




「すまないな。ハートランド。助かった。」


「いいのよ。私達の仲でしょう。・・・・・でもね。貴方が言った『王』にするという言葉・・・・・よく覚えておくわ。ゆめゆめ忘れないでね?」


「フッ。もちろんだ。せっかく皇帝に会えたんだ。だからわざと言ったのさ。・・・・・まぁ、いつかそうなった時に、仲良く出来る事を願うよ。」




そう言って、クロックとアルフィンは謁見の間を後にする。




一人残ったハートランドはいなくなるのを見ると、独り言の様に話す。




「・・・・・いい?クロックとあの商人。状況を常に報告して。」


「ハッ。」



どこからともなく聞こえる声は、返事をすると遠ざかって行った。






「【ゴースト】・・・・・クロックが付いて、どこまで脅威になるか見極めないとね。」



そう言うとハートランドは謁見の間から出ていった。







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