第32話 見つけた2
A級パーティ『獣の誓』のリーダー、グリーミュは立ち尽くす。
「・・・・・・・。」
言葉が出ない。
それは横にいる仲間達も同様に。
何だ?
一体何が起きた?
目の前には、細切れになった血だらけの死体が地面へと広がっている。
A級の俺達とB級のパーティで出来る限りのモンスターを倒し、スタンピートを抑えようとした。
ドラゴンも後一体までになった時に、Aランクモンスターのデイトナが二体現れた。
一体でも今の俺達には敵わない相手。
それが二体も。
逃げる事しか出来ない。
そんな時に現れた獣人の少女。
まだデイトナを含めて数十体いたモンスターを・・・・・一瞬にして倒してしまった。
一瞬でだ。
あの甲殻で覆われた巨大なデイトナさえ、一瞬で細切れにしてしまった。
おそらくモンスター達は、斬られた事さえ分からなかっただろう。
外に出たモンスターを一瞬で倒した少女は、そのまま一人でダンジョンの中へと入って行く。・・・・・・・そして暫くしてダンジョンから出てくると、ギルド本部の幹部グレイの所まで来て言う。
「・・・・・多分スタンピートはおさまった。・・・・・ここはダンジョンが二つもあるから、もっとモンスターの数を減らした方がいい。・・・・・分かった?」
「あっ、ああ。すまなかったな。まさか君が助けてくれるとは思わなかった。我々も冒険者達に依頼して減らす努力はしているんだが、何せ今は上位冒険者がいなくてな。おそらくそれが原因だったんだろう。」
「・・・・・そう。・・・・・こっちのダンジョンはある程度減らしておいたから・・・・・暫くは大丈夫。」
「そうか。ありがとう。冒険者ギルドとして何かお礼をしたいのだが希望はあるか?只、世界一の傭兵レベルの依頼料は払えないがな。」
「希望?・・・・・なら【大転移魔法陣】を使わせて。」
【大転移魔法陣】。
同盟国や友好国同士が巨大な転移魔法陣を設置して、時間をかけずに瞬時に移動できる魔導の国『ロイエン国』が開発した魔道具。
一回使用するのに一千万ゴールドする事から、王族や貴族、大金持ちの商人位しか使う事が出来ない。
「・・・・・この『ポルト国』で西側の唯一の友好国『ログナント国』。・・・・・そこまで行きたい。」
「分かった。何とかしよう。・・・・・おい!すぐに後始末をするんだ!私は暫くいなくなるから後は頼んだぞ!」
後ろに控えていたギルド職員が、すぐにモンスターの残骸やダンジョン調査へとB級冒険者達を連れて入って行く。
「あのっ!」
グリーミュは思わず声を掛ける。
獣人の少女はグレイの後に付いて行こうとして立ち止まると、振り返ってこちらを見る。
「・・・・・何?」
「おっ俺達は・・・・・いや、獣人の冒険者達は全員貴方を目指しています!貴方が世界一の傭兵になっているのも知っています。・・・・・また、冒険者に戻る事はないんですか?」
「・・・・・。」
暫く考える素振りをすると、無表情だった獣人の少女は笑顔になって答える。
「・・・・・ありがとう。・・・・・でも、戻るつもりはないよ。・・・・・もう次は決まっているから。」
そう言うと少女はグレイの後に付いて行った。
その後ろ姿を『獣の誓』全員が見送る。
冒険者のランクで最上位のS級。
世界でもたった10組しかいない。
しかし、例外としてその上が存在していた。
『超級』。
ダンジョンの最下層。【管理者】まで到達した者達。
超級はパーティが二組。
そしてソロが一組。
世界で三組しかいなかったが、ソロの冒険者が引退した事で今は二組しか存在していない。
そのソロの冒険者。
それが彼女・・・・・『超級』冒険者でいて、ダンジョンの最下層【管理者】を唯一倒した・・・・・ダンジョンを消滅させた【踏破者】となった者。そして今は世界一の傭兵をやっている獣人の少女。
その名は【ジェミニ】。
グリーミュは後姿を見る。
私達の・・・・・獣人の憧れの人。
遠い。
あまりにも遠い。
数少ないA級となって自信になったが、上には上がいるという事をまざまざと思い知らされる。
すると、珍しく無口の剣士イーシャが俺の肩を叩く。
「・・・・・僕達は僕達で頑張ろう。・・・・・ヒカリに・・・・・弟分に恥をかかせない様に。」
グリーミュは驚くと、パナメラもアミュも笑顔で頷いている。
「はっ!・・・・・そうだな!俺達はまだまだいける。・・・・・よし!全て終わった事だし、拠点に帰って弟分に自慢してやろうぜ!」
晴れやかな顔をした『獣の誓』のメンバーは、拠点がある最西の国『フレグラ王国』へと帰路についた。
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「何が起きた?」
隊長がその光景を見て呟く。
『ポルト国』の軍隊が、ダンジョンの前で茫然と立ちすくんでいる。
兵士達は目の前に映る光景を見て皆絶句していた。
死体。
死体。
死体。
モンスターの焼け焦げた死体が無数に散らばっていた。
一体何匹いたのだろうか。
一キロ位先まで埋め尽くされたモンスターの死体を見て、隊長の声も震えていた。
そして宙に浮かんでいる桃色の髪をした可愛らしい女性が一人。
魔法使いだろうか、黒と白の配色のローブを着て、モンスターの死体を嬉しそうに眺めている。
すると、もの凄いスピードで空から一人の女性が飛んでくると、宙に浮かんでいる女性の隣に来て文句を言い始めた。
「ローレット様!突然いなくなったと思ったら・・・・・何をやっているんですか!」
「え~♪ 何って~♪ 【ゴースト】に~♪ 頼まれちゃったから~♪ 助けに来ただけだよ~♪」
女性は頭を抱えて続ける。
「またそんな勝手な事をして・・・・・分かっているのですか?貴方は『ロイエン国』の第一席なのですよ?外交問題に発展したらどうするんですか!」
「まぁまぁ。大丈夫だって~♪ 無償でここの人達を助けたんだから~♪ 後はエレノアが上手くやってくれるよね~♪・・・・・ブイ♪」
ブイサインを横にし、片目の前に出して楽しそうに返事をする。
「はぁ。まったく・・・・・分かりました。後は私が何とかしますので、もう国へ帰ってください。元老院様がお待ちですよ。」
「え~♪ あのおじいちゃん達うるさいんだもん~♪」
エレノアがジト目をする。
「はいは~い♪ 帰りますよ~だ♪」
エレノアの顔を見て諦めたローレットは、一気に上空へと上がり、雲の上へと出る。
太陽が輝き、下には真っ白い雲の海が広がっていた。
ローレットは眩しさで目を細めながら呟く。
「・・・・・さて、少しは貸しが作れたかな?・・・・・あのダンジョンは多分『フレグラ王国』。・・・・・待っててね。・・・・・【ゴースト】♪」
何かを唱えると、フッと消えた。
「では、王へお伝えください。それではこれで失礼致します。」
そう言うと、国印が入った書面を隊長へと渡し、エレノアという女性は飛び立っていった。
「何だったんですかね。」
隣にいる副隊長が去っていったエレノアを見ながら呟く。
「・・・・・最初に宙に浮かんでいた女がいただろう。あれがおそらく『ロイエン国』の第一席。」
「えっ!?・・・・・まさかあの?」
「そうさ。まぁ、こんな事が出来るのは、あの女をいれても数人だろうがな。」
魔導の国『ロイエン国』。
『10席』と呼ばれている10人の魔法使い。
たった一人で一個大隊を殲滅出来る力を持つとされている。
そしてその頂点の第一席。
ローレット=ジャニー。
【深淵の魔女】と呼ばれ、遥か昔に『ロイエン国』をつくったとされる人物。
隊長は広がっているモンスターの死体を見る。
おそらく一発。
もの凄い高火力で焼ききった後。
隊長はため息をつくと副隊長に話す。
「ふぅ。・・・・・まずは被害が出なかった事に感謝しよう。後は我々で後始末をするぞ。」
「ハッ!」
そう言うと、『ポルト国』の軍隊はモンスターの死体を集め始めた。
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「レイナさん。今日は何か簡単そうな依頼はないですか?」
「ごめんなさい。丁度今は少なくて、ヒカリ君に合う案件がないみたい。」
「そうですか。」
冒険者ギルドに来た僕は、今日はダンジョンに行かないで、この街の簡単な依頼をやろうと思っていたんだけど、タイミングよく見合った依頼がなかったのでちょっと残念だ。
「あぁ!そうそう!そういえばね、ポルト支部の同僚から連絡が入ったの。スタンピートが収まったみたい。」
「えっ!本当ですか?・・・・・それで『獣の誓』は?」
「大丈夫だったみたい。討伐を終えてこっちに向かっているみたいよ。」
「そうですか!そりゃ良かった!」
素直に喜ぶ僕。
グリーミュさん達はA級冒険者。あまり心配はしていなかったが・・・・・いや、少しは・・・・・はい、とても心配していました。
相手はモンスターだ。
何があるか分からない。
レイナさんは続ける。
「それでね。同僚が言うには、伝説の元冒険者のジェミニさんが助けてくれたみたい。」
「へっ。へぇ~・・・・・(ジェミニ?ペンネーム『じぇみ』に似てるけど気のせいだよね?)」
「あと、もう一つのダンジョンには、世界的に有名な【深淵の魔女】が助けたみたい。」
「へっ。へぇ~・・・・・(深淵の魔女?ペンネーム『魔女っ子』に似てるけど気のせいだよね?)」
ハハッ。まさかね。
「・・・・・見つけた。」
レイナさんとカウンターで話をしていると、後ろから女の子の声が。
レイナさんは目を見開いて驚いている。
「ん?」
僕は後ろを振り返ると、同時に獣人の少女が飛びついて僕を抱きしめる。
「見つけたっっっっっっっっっ!!!!!!」
「・・・・・・・へっ?」
思わず変な声が出た。
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