第31話 見つけた1


 


『今日は雰囲気を変えて、ダンジョンで放送中だ!』




「えっ?!!!」




私は大声をだすと、ハッと我に返る。


すると、すぐに部屋の扉が開き、白い鎧を纏った女性が現れた。



「フィア様。どうかされましたか?」


「アシェリー。何でもないわ。少し【ゴースト】を見て驚いていただけ。」


「そうですか。」




彼女は聖騎士団の副隊長アシェリー。


この『ロマンティ皇国』の主力を担う騎士団の一つ。


彼女が所属している聖騎士団の任務の一つが、三人の大聖女の一人・・・・・私を守護する事だった。




「でも丁度良かったわ。アシェリー。この【ゴースト】様の後ろに映っているダンジョン。どこだか分かる?」


「・・・・・いえ。少なくともこの国のダンジョンではないですね。気になるのですか?」


「ええ。とても気になるわ。」



【ゴースト】の雑談放送を見ながら答える。



「それでしたら、すぐにでも大図書館で全世界のダンジョンが載っている図鑑を取ってこさせましょう。それでよろしいですか?」


「それは助かるわ!アシェリー。ありがとう。」


「いえ。・・・・・それでは私は任務に戻ります。」



そう言うと、扉の外へと出ていく。



私はアシェリーと話をしていても、一時も目は【ゴースト】から離れる事はない。・・・・・一人になった私は【ゴースト】様を見ながら呟く。



「見つけたわ。・・・・・ダンジョンは数多くあるけど、それぞれ特徴があって一つとして同じ様相のダンジョンはない。だからダンジョンの内部が載っている図鑑と照らし合わせれば・・・・・うふっ。・・・・・うふふっ。・・・・・うふふふふふっ。・・・・・・【ゴースト】様ぁ。絶対に・・・・・絶対に会いに行きますからね♪」




よだれを垂らし、大聖女だと疑うような程のだらしない顔をしながら、【キューブ】に映っている男をずっと見つめていた。




「君。すぐに大図書館へ行ってダンジョン図鑑を持ってきてくれ。大聖女様がご所望だ。すぐに頼むぞ。」


「ハッ!」



近くにいる文官に命令をすると、そのまま我らが守護する大聖女。フィア=バイオレットの扉の前に立つ。




「・・・・・【ゴースト】。あれは少し危険だな。」






数年前に突如として【キューブ】から現れた男。



【ゴースト】。



当初から人気があったが、ファン・・・・・いや、リスナーと呼ばれている者が今は爆発的に増えている。




どこにいるのか。




何者なのか。




まるで分からない謎の男。




それでいて、世界中の多くのリスナーを惹きつけている。



「これ以上、フィア様も夢中にならなければいいのだが・・・・・。」



心配そうにフィアの居る部屋を見ながら呟いた。






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「うっ嘘だろ?・・・・・ドッ、ドラゴンだ!ドラゴンが出てきたぞぉぉぉ!!!」



急いでダンジョンの入口近くにいる大勢の冒険者達が逃げる。



ダンジョンの入口から出てきたのは無数のドラゴン。


おそらく30匹はいるだろう。



入口から続々と出てくるドラゴンを見ながら、『ポルト国』ギルド本部の幹部グレイが叫ぶ。



「全員逃げるなぁ!入口で食い止めないと、国民に被害が出てしまう!ドラゴンはBランクモンスターだ!悪いがB級冒険者達が担当してくれ!C級以下は他のモンスターを討伐するんだ!絶対に逃がすな!!!」




冒険者はスタンピートなどの有事の際は、優先してギルドに従わなくてはならない。


それは冒険者になる時に、契約を交わす条件の一つだ。




「クソッ!しょうがねぇ!俺達B級はドラゴン退治だ!」


「「「「「 おぉ!!!!! 」」」」」




他のモンスターと戦っていたB級冒険者は、入口から逃げてきたC級以下の冒険者達とスイッチする。


他のB級冒険者も、同じ様に入口へと向かって行く。



それを見ながらグレイは、ついさっき到着した獣人のパーティに頼む。



「『獣の誓』!すまないが助力を頼む!今この国にはA級以上のパーティが不在なんだ!もう一つのダンジョンにはこの国の軍隊が討伐に向かっているから、こちらは我々冒険者達だけで討伐しなければならない!A級は貴方達しかいないんだ!すまない!よろしく頼む!!!」



ガタイの大きい女性の獣人が、グレイの隣で戦況を眺める。




「パナメラ。どう見る?」


「・・・・・そうね。B級は見た感じ10パーティ位かしら。あれだけのドラゴンだと私達が助力して五分五分といった所ね。」



「そうか。・・・・・なら十分だ!皆!行くぞ!!!」


「「「 オウッ!!! 」」」




リーダーのグリーミュが叫ぶと、A級パーティ『獣の誓』全員が飛び出す。



ドラゴンに苦戦しているパーティの前に出て、一斉に攻撃を叩きこむ。



グリーミュの剛腕と、パナメラの魔法、イーシャの剣技で一匹一匹着実にドラゴンを倒して行く。・・・・・合間にアミュの回復魔法を入れながら。



『獣の誓』が参戦した事で、徐々にモンスターの勢いが弱まっていく。





「よし!あともうひと踏ん張りだ!皆!気を引き締めろ!!!」



オォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!




グリーミュが叫ぶと、それに呼応して周りの冒険者達も叫ぶ。



いつの間にか『獣の誓』が中心となって、モンスター達を討伐していく。




「いいぞ!ドラゴンもあと数匹だ!これならスタンピートを抑えられるかもしれない!」



グレイがその様子をみて希望を口にすると、すぐに絶望へと変わる。





「・・・・・おいおい。嘘だろ?」





グリーミュ達がドラゴンを倒し、残り一体となった時にそれは起こった。





ダンジョンの入口から出てくる巨大な二体の生き物。


体長10m。無数にある巨大な脚。硬い甲殻で守られている長い胴体。そして全てをかみ砕く牙。



『A』ランクモンスター。



超巨大ムカデ【デイトナ】だった。



80階層より更に下層にいるとされている災害級のモンスター。



それが二体。




一気にパニックになる冒険者達。



B級も含めて、『獣の誓』以外の冒険者達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。



茫然と見ていたグレイは、両膝を地面へと付ける。


「・・・・・もう無理だ。あれはA級冒険者でもどうする事も出来ない。・・・・・『獣の誓』!逃げてくれっ!」




グリーミュは周りを見渡す。


モンスターは大分数が減った。Bランクのドラゴンも残り1体。しかし・・・・・。



デイトナ二体を見る。


デイトナはAランクでも上位のモンスター。一体でもA級になりたての俺達じゃまず倒せない。それが二体。倒せる可能性は・・・・・ゼロだ。



仲間を死なせるわけにはいかない。



この街の被害がどの位になるか想像もつかないが、グリーミュは苦渋の決断で仲間に向かって叫ぶ。




「皆!これは無理だ!撤退する・・・・・・。」




仲間に話しかけた時、横から『獣の誓』を素通りしてモンスター達の方へと歩いて行く一人の獣人の少女。


背には少女に相応しくない程の長い長刀を背負っている。




「「「「 あっ、貴方はっっっっっっっっ!!!!! 」」」」




『獣の誓』全員が驚きの声を上げる。



すると、少女は一回立ち止まって振り返る。




「・・・・・【ゴースト】に頼まれた。・・・・・だから助けてあげる。・・・・・邪魔だから下がって。」




グリーミュ達はその言葉に従い、グレイの所まで下がる。




「あれは・・・・・・。」



パナメラが呟く。



グリーミュがその後ろ姿を見る。




その少女を。




知らないわけがない。




冒険者なら、知らない者などほとんどいない。




特に私達獣人には。





Gyaaaaaaaaaa!!!!!





デイトナ二体は奇声を上げて少女を見る。


周りのモンスター達も合わせる様に、少女の方へと向かって行った。




少女は歩く。




まるで散歩でもしているかの様に。




そして近くまで来ると、ゆっくりと長刀を腰に移動して柄を握った。




「・・・・・もう僕は常に・・・・・・。」










閃。










一瞬。






一瞬だ。






長刀が抜かれて光ったかと思うと。






ドラゴンも。



その他のモンスターも。



そしてAランクモンスターのデイトナも。








全てのモンスター達が細切れになって地面へと落ちていった。










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