第30話 パーソナリティ5




「よぉ!皆!俺の声は聞こえているか?・・・・・今日は少しだけ喋りたい気分だからさ。雑談放送をやっていくぜ!」





【ゴースト】になった僕は、【マスターキューブ】に向かって話しかける。



すると、連続して次々とお便りが届いた。




『ペンネーム/じぇみ   やった!』



『ペンネーム/魔女っ子   聞くよ~♪』



『ペンネーム/ふぃあっち   すぐに聞く体制を整えました!バッチリです!』



『ペンネーム/ろ~ど   きたぁぁぁぁぁ!』



・・・・・・・



・・・・・・・




続々とお便りが届く。




「ハハッ!」


思わずニヤける。



【ゴースト】をスタートした時点で、途切れる事なくお便りが届く。最初の頃に比べれば段違いの量だ。はっきり言ってこれだけの量になってくると、全てのお便りに目を通す事は出来ない。・・・・・でも、時間がかかっても出来るだけリスナーのお便りは目を通そうと思っている。週に一回の放送になっているのは冒険者の仕事だけじゃなく、読み切れないお便りを出来るだけ読んでいるからだ。



放送をするたびにリスナーが増えているのを肌で感じる。



マジで嬉しいな!




僕はダンジョンに入る前に蚊に刺された腕をポリポリ掻きながら続ける。


「俺は冒険者をやっているって言っただろう?だからな。今日は雰囲気を変えてダンジョンで放送中だ!・・・・・しっかしよぉ。ダンジョンに入る前に蚊に刺されてなぁ。痒くてしょうがねぇわ。」




『ペンネーム/ゆーり   えっ!ダンジョンですか?凄い!』



『ペンネーム/動物好きちゃん   暗くていい雰囲気だっちゃ♪』



『ペンネーム/天使   懐かしいな。今も変わらないみたいだ。』



『ペンネーム/ふぃあっち   大丈夫ですか?私が蚊に刺された所をすぐに治しますよ!』



『ペンネーム/ろーど   我の【ゴースト】の血を吸うとは!小虫ごときがぁぁぁぁぁ!許さん!!!』



・・・・・・・



・・・・・・・




ハハッ。



盛り上がっているな。



一部あぶねぇリスナーがいるが、とりあえずスルーだ。



僕は日常であった出来事や、最近面白かった事などをリスナー達に話しかける。・・・・・まるで友人や恋人と話しているかのように。




暫く話した後に、ふと気づく。


「おっと、そうだ。そういやじぇみ!あれからやりたい事やドキドキする事は見つかったか?」






『ペンネーム/じぇみ   うん。言葉ではっきり言ってくれて、やっと気づいた。ゴースト・・・・・ありがとう!』






「おう!そうか!そりゃ良かった!少しは役立ったみたいで良かったよ。やっぱりさ、俺もリスナーの事になるとマジになるからよ。ちょっと言葉がきつかったかもしれないが、それはごめんな。」




素直に謝る。



どうしても感情移入して熱くなってしまう時があるから困りものだ。



終わった後にいつも反省してしまう。






『ペンネーム/じぇみ   気にしなくていいよ。だって僕は君に救われたんだから!』






「おっ、おう。そう言ってくれると嬉しいな!」



そこまでの事はしていないが、折角感謝しているのに水を差すのはよくない。



軽く数十分で終わりにするつもりだったので、ある程度話した僕は最後にリスナーに願い事をする。



「よっし!それじゃ今日はここまでだ!・・・・・でもな、ちょっとリスナー達に一つ頼みたい事があるんだ。」




何?というお便りがもの凄く届くが、そのまま続ける。



「あのよ。ここに来る前に冒険者ギルドで聞いたんだが、『ポルト国』で【スタンピート】が発生したらしい。」





スタンピート。



モンスターの暴走。


ダンジョンで冒険者がモンスターを狩るのは報酬や魔石の為だが、このスタンピートを起こさせない為でもある。それは、モンスターを狩らなければどんどんと増え続け、ある一定の数を超えると、ダンジョンに閉じ込めておくことが出来ずに、外へと出てきてしまうからだ。


だからギルドは冒険者に高い報奨金を払ってダンジョンに潜らせている。



そして今回発生した『ポルト国』。


大体国には一つダンジョンがあるのだが、唯一この国はダンジョンが二つある。だからこそ、この国は『冒険者の国』とも呼ばれていて、世界中の多くの冒険者達がこの国へと集っている。




僕はギルドの事を思い出す。




・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・




「えっ?スタンピートですか?」



レイナさんに僕は聞き返す。



「そうなの。今【キューブ】で、本部のある『ポルト国』から連絡が入ってね。」


「冒険者ギルドの本部がある『ポルト国』っていったら、ここから相当遠い場所じゃないですか。」



僕達がいるこの『フレグラ王国』は大陸の最西にある国だ。『ポルト国』は確か大陸の東側の方にある国。とてもじゃないが、数日で行ける距離じゃない。



「えぇ。だからね、近い支部には応援を。私達の様な遠い支部には、何かあったら支援を要請するから準備する様に言われているの。」


「そうなんですか。」



「ただね・・・・・。」



レイナさんが言うには、師匠達『獣の誓』が今その『ポルト国』にいるというのだ。



「会って喜ばせたいから黙っててほしいとグリーミュさんには言われているんだけどね。彼女達『獣の誓』は依頼を達成して【A】級になったの。」


「マジっすか!!!」



すげぇ!これでこの『フレグラ王国』で初のA級冒険者だ!



喜んでいると、少し曇った顔でレイナさんが続ける。


「ただ今言った様に、スタンピートが発生しているから、当然上位冒険者は派遣されるわ。今本部の知り合いと話をしたんだけど、ほとんどの上位冒険者がちょうど国外に出ていていないらしくて・・・・・A級になったばかりの『獣の誓』に白羽の矢が立っているみたいなの。」




僕はまだスタンピートは経験していない。


大体発生するのは冒険者があまりいない国や、逆に『ポルト国』みたいにダンジョンが二つある国位だ。


ただ資料によれば、酷い時は街を数個飲み込む程の被害が出る時があると書いてあった。


もちろん、その国の兵士や冒険者達の被害も。




・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・




僕は続ける。


「俺も冒険者だからさ。スタンピートが発生したんなら何とか食い止めたいって思ってな。でも、今俺がいる所からだと到底間に合わないんだ。だからさ、もし『ポルト国』の近くにいて、腕に自信のあるリスナーがいたら、冒険者達を助けてやってくれないか?」




『ペンネーム/ろーど   くそう!遠すぎて間に合わんではないか!!!』



『ペンネーム/ふぃあっち   ごめんなさい!ちょっと遠くて行けません!』



『ペンネーム/じぇみ   ちょうど近くにいる。分かった。任せて。』



『ペンネーム/魔女っ子   しょうがないなぁ♪ 【ゴースト】の頼みなら聞いてあ・げ・る♪』



・・・・・・・



・・・・・・・




「じぇみ!魔女っ子!ありがとな!でも無理だけはするなよ!・・・・・それじゃ、そろそろ寝るかな。夜のリスナーはいい夢見ろよ!昼のリスナーは頑張れよ!それじゃ、またなっ!!!」



そう言うと僕は【マスターキューブ】のマスを押して終了した。






「う~ん!」



僕は伸びをする。



初の試みだったが、たまにはこういった外での放送も悪くないな!


グリーミュさん達『獣の誓』ならきっと大丈夫だ。だからあんまり心配はしていない。A級になる程の実力があるんだから。後、リスナー達も駆けつけてくれるって言ってくれたしね。




「さて。それじゃ、少し仮眠を取って、朝にはダンジョンから出ようか。」



【ゴースト】の衣装をポーチに入れてレインの方をみると、いつの間にか僕の隣で正座をしている。



「さっ。ヒカリ様。私に睡眠は必要ないので、目覚めるまで私が見張っております。・・・・・どうぞ♪」




えっ?




それって膝枕ですか?




有無を言わさず、光を失っている瞳で自分の太ももをペシペシ叩いてアプローチするレイン。




あっ。これ断ったらダメなやつだ。




「・・・・・失礼します。」






僕はその瞳に逆らう事が出来ず、大人しくレインの白い太ももで寝る事にした。











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