第29話 ダンジョン2



「今度はこっちの掃除をするっすよ~。」


「は~い!しずくお姉ちゃん。」



「そのお掃除が終わったら、今日も勉強ですよ。」


「は~い!さくらお姉ちゃん。」




元気なち~ちゃんの声が、小さな家に響き渡る。



朝食を済ませて、ゆっくりと紅茶を飲んでいる僕は、一生懸命動いているち~ちゃんを笑顔で見ていた。



「まったく。ゆっくり馴染んでいけばいいって言ったのに。やっぱり子供は元気だなぁ。」


「フフッ♪ そうですね。」



僕の後ろに立って、同じ様にその光景を眺めているレイン。




・・・・・クロックさんは僕の仲間になって、すぐに旅立ってしまった。今後、今の家だと住みづらくなるだろうから良さそうな土地を探してくると言って。最初にクロックさんの質問に、静かな所にいつか住みたいって言ってしまったので、その影響かもしれない。だから実は結構気にしている。・・・・・無理しなければいいんだけど。



レインがいつでも【キューブ】で連絡が取れるし、一緒にサスケを同行させたから大丈夫だと言っていたので、大丈夫なんだろう。





それと、ち~ちゃんだ。



クロックさんは、何とち~ちゃんを置いて旅立ってしまった。クロックさん曰く、ち~ちゃんは僕と一緒の方がいいと寂しそうに言っていたので、受け入れざるを得なかったそうだ。そして、ち~ちゃんの生活費とその他雑費をレインに預けたのだが、そのお金が半端なかった。流石元大貴族。




「おっ。のみこみが早いっすね!これなら将来いいお嫁さんになるっすよ!」


「えへへ~♪ おっきくなったらね~♪ ヒカリ様のお嫁さんになるんだ~♪」


「だっ、ダメです!ダメです!だぁぁぁぁめぁぁぁぁでぇぇぇぇすぅぅぅぅぅぅ!それだけは絶対にダメっっっ!!!」



速攻、透き通る白い肌を真っ赤にして反応するレイン。



「え~!レインお姉ちゃん。何で~?」


「えっ、えっと・・・・・それはね?まだち~ちゃんは子供だし・・・・・そっ、そう!きっと大人になったら気が変わるかもしれないでしょ?」



「そんな事ないもん!ヒカリ様一筋だもん!」


「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



レインがち~ちゃんとじゃれ合っている。



どっちが子供だよ。



思わず心の中でツッコム。




すると、いつの間にか両隣にいるさくらとしずくが、目を細めて嬉しそうに言う。


「・・・・・レイン様がこんな風になるなんて信じられません。ヒカリ様と出会う前は、ご自分以外の全ての者を見下したり、ほとんど会話もしなかった御方・・・・・今は子供とじゃれ合って、あんなに嬉しそうに・・・・・ヒカリ様。貴方のおかげです。」


「そっすね!あんなに赤くなって騒いでいるの見た事ないっす!しかも子供とっすよ?初めて見たっす!」



「へぇ~、そうなんだ。」




良かった。僕と仲間になって二人が喜んでいるのなら、レインもいい方向にいっているのだろう。



確かち~ちゃんは12才。暫くはさくらに勉強を教えてもらって、数年後には学園に行って欲しい。ずっとこのまま僕達と一緒にいると言ってはいるが、人生において学生生活はとても貴重だ。そこでいっぱい友達を作って、一緒に勉強をして遊んで・・・・・恋をして。そんな学園生活をおくって欲しい。




「まっ、暫くは二人に頼むよ。」



「分かりました。勉強はお任せください。」


「了解っす!自分は勉強は苦手っすから、体を動かす方を教えるっす!」



「さて、それじゃ僕は行ってくるね。ほら!レイン!行くよ!」


「あっ!お待ちを!・・・・・ち~ちゃん!この続きは後でね!」



そう言うと、追いかけて僕の影へと入って行った。






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「シッ!」



飛んでくる子供位の大きさの蜂のモンスター、ホーネットブラン。



一匹。二匹。三匹。四匹・・・・・。



向かってくる数々のホーネットブランを素早い動きで躱しながら、どんどんと斬りつけていく。




キィン!


ザッ!




近づいて後ろに付いている太い針を僕に刺そうとするが、片方のショートソードで弾いて、もう片方のショートソードで斬りつける。



蜂の飛ぶ音が徐々に鳴り止むと、地面には十匹以上のホーネットブランの死体が転がっていた。



僕は屈んで魔石を取り出そうとすると、先の方からカサカサ音が聞こえてくる。



見ると上半身が人の形の蜘蛛。アラクネが三体現れる。




「【身体強化】二倍掛け。」




瞬時に距離をつめて、一体のアラクネの首を飛ばす。


そのまま反応しきれていないもう一体のアラクネに近づくと、胸を一突。最後の一体が、大量の糸を僕めがけて飛ばすが、アルフィンから買ったショートソードは、鋼鉄と同じ位の硬さを誇るアラクネの糸を難なく斬り伏せる。そしてそのまま懐に飛び込むと足を斬ってバランスを崩した所で一突。



あっという間に、アラクネ三体を倒した。



手慣れた様に、ホーネットブランとアラクネの魔石を取り出していく。




「よっし。最後の10階層も問題なく倒せるな。」




ここ数ヶ月、僕はダンジョンがある街『バディン』に行ってモンスター狩りをしていた。


レイン達のせいで、『古の森』のモンスターが激減して稼げなくなったからだ。


おかげで今、この国の上級冒険者以外は皆『バディン』にあるダンジョンで狩りをしている。


だからこそ、ギルドで推奨している階層以外は他の等級の冒険者の縄張りという暗黙の了解が出来ていた。



E級冒険者が推奨されるのは10階層まで。


今日は推奨される最後の階まで行ってみた。



それは、ソロでどの位時間がかかるのか知りたかったのと、僕の実力で危なげなく攻略できるのか知りたかったからだ。




「この間は9階層までだったけど、この10階層も大丈夫だな。でも、やっぱり結構時間がかかるな。」




半日以上かかってしまった。おそらくダンジョンに入ったのが昼過ぎだったから、もう外は夜だろう。




「今日はどの位かかるか知りたかったから、いいんだけどね。んじゃ、ダンジョンで初めてのキャンプをしますかね。」



おそらく帰りは次の日になると、さくら達には言ってあるので大丈夫だろう。



僕は腰にあるポーチからゴザを出して広げると座り、ランプを置いて、魔道具を使ってお湯を沸かし、朝に作っておいたサンドイッチを取り出す。




「レイン。」


「はい♪ ヒカリ様。」




呼ぶとすぐに影からレインが現れる。




「やっぱり今日は時間がかかっちゃったから、ここで一泊しようと思う。一緒に食事しよう。はい、お茶とサンドイッチ。」


「♪♪♪」




嬉しそうに僕の隣で座りながら食べ始めるレイン。



こんな所で食べているのに、レインクラスの超絶美人だと何でも絵になるから凄いな。


僕の魔力を食べているので食事する必要はないと、前にしずくが言っていたけど、やっぱり一緒にいる時はちゃんと食べて欲しいので、今でもずっと皆で食事をしている。



食べ終わると、胡坐をかいている前に【マスターキューブ】を置いた。




「えっ?!ヒカリ様?何をするつもりですか?」


「ん?ちょっと雑談配信をやろうと思ってね。」


「えっ?ほっ、本当ですかっっっっっっ!!!」



めっちゃ喜んでいる。




フフフ。



実はやってみたかったんだよね。



外での放送。



後、リスナーの皆に頼みたい事もあるし。




10階層でキャンプを張る冒険者はまずいない。基本冒険者は複数人のパーティだから、10階位ならすぐに地上へ戻れるからだ。



僕も戻れない事もないけど、地上に出ても夜で、結局お金を払って宿で一泊しなければならない。



なら、やってみたい事をするしかないでしょう!




「ヒカリ様。任せてください!【ゴースト】が終わるまでは何人たりとも・・・・・一匹たりとも近づけませんから!」



そう言ってレインは僕の対面へと目をキラキラしながら正座する。






僕はポーチから、いつもの黒のコートを取り出すと羽織り、黒のキャップを深く被って、首に付いているシールを剥がすと【マスターキューブ】の金色に光っている一マスを押した。








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