第28話 リスナー2



『リスナーの皆!またなっ!!!』




手を軽く振った黒い帽子を被った男は、そのまま自分の目の前から消える。



「・・・・・嘘でしょう?」



テーブルの上に置いて見ていた可愛らしい女性は、【キューブ】から男が消えた後でも、ずっとその残像を見ているかのように前を凝視していた。


すると、終わったのを待ち構えていたかの様に扉が開き、女性が声を掛ける。



「ローレット様。終わったのでしたら、そろそろ会場の方へお願いします。」


「え~♪ 何で行かなきゃいけないの~? 勝手にやればいいじゃん♪」



頬をぷくっとして文句を言うローレット。

 


「そんな事言わないでください。貴方はこの魔導の国『ロイエン国』の第一席。貴方が参加しないと、しめしがつきません。」


「ルーカスやスカーレットがいるでしょ~♪ 大丈夫だよ~♪」


「大丈夫じゃありません!さっ、行きましょう。」

 


駄々をこね始めたので、長くなりそうなのを判断して強引に腕をとると、最上階の部屋から出て歩き出す。



「もぉ~♪ エレノアのそういう強引な所は、殿方に見せるだけにすればいいのに~♪」


「はいはい。行きますよ。」



ローレットは会議場の巨大な塔へと続く渡り廊下を歩きながら外を眺める。



「・・・・・【ゴースト】。」



「??? 何か言いましたか?」


「ん~♪ 何も言ってないよ~♪」

 


ブイサインを横にし、片目の前に出して楽しそうに返事をした。






・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・






薄暗い古いレンガ造りの通路に刻まれた魔法陣から現れるローレット。


そのまま真っすぐに歩き出す。



「まったく~♪ 毎回毎回無駄に長いのよね~♪ あの『十席会議』~♪ ホント面倒くさい♪」



プンプン独り言を言いながら歩く。



ここは、いつ頃出来た建物だろうか。


通路には苔が付いていたり、蔦がレンガの間から出ている。・・・・・遺跡の様な場所だった。



しかし歩きなれているのか、薄暗い通路でも意に介さずに真っすぐに歩いて行く。


歩きながらローレットは真面目に呟く。



「・・・・・ち~ちゃんが治った?あの【死神憑き】から?・・・・・意味が分かんない。」




【死神憑き】。



絶対に治らない死の病気。


これを開発したのは、第三席のハイヒューマン。


長い年月をかけて作り上げた死の病気は、この国の重要殺戮兵器の一つとなっている。




「あの【死神憑き】は、私でも軽減は出来るけど、治す事なんて出来ない。・・・・・当の作ったスカーレットでさえ、治せないって言ってる。」





それを治した?





あの男が?





ただ暇つぶしに見ていた。



怪しげな男が、奇抜な衣装を着て【キューブ】を通して語りかけるあの番組。



今はちょっとだけ夢中になっているけど。




暫く歩くと目の前に巨大な石扉が現れる。


その扉に手をかざすと、両サイドにゆっくりと開かれた。



見ると、中はとても広い空間になっている。


その真ん中に、禍々しい渦の様な半ドーム状の何かがあった。



そこへ真っすぐにローレットは歩いて行くと、その禍々しいドーム状の何かを優しく触る。



「・・・・・ジョシュ。」



すると、禍々しい渦の様な物が徐々に一点へと集約していき、一人の少年の形になっていく。そして透明になったドーム状の真ん中に、金髪の優しそうな少年が立っていた。



「お・・・・・ね・・・・・ちゃん。」



少年は何かを言おうとするが、言葉が繋げない。


その姿を優しく見つめながらローレットは話す。



「ジョシュ。やっと・・・・・やっと見つけたかもしれない。・・・・・ジョシュを治せる方法を。だからね、もう少しだけ待って。絶対・・・・・絶対にお姉ちゃんが何とかしてあげるから。」



少年は何か言いたそうだが口にする事が出来ず、少しだけ悲しそうな顔をすると、そのまま霧散して禍々しい渦に戻っていった。



その光景を暫く見ていたローレットは踵を返す。






「・・・・・【ゴースト】。」






歩きながらローレットは小さく呟いた。






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『リスナーの皆!またなっ!!!』




「あぁ!消えてしまう!・・・・・愛しの殿方よ!」



そう言うと、消える前に男の唇に自分の唇を合わせる。



もちろん映像の為、温もりも感触も感じない。


でも、そんな事は些細な事のようだ。



男が消えると、そのままベットへと横たわり、大きな枕を抱きしめる。



「・・・・・はぁ♪【ゴースト】よ。早くわらわと・・・・・わらわと一緒に永遠の時を過ごしたい♡♡♡ 何故答えてくれぬのか?お主が望めば全てをあげると言うのに。」



その姿を黙って見ている幹部が、大きなため息をつきながら答える。



「はぁ。ミリオン様。早く謁見の間に行ってくださいよ。来訪者がつまっているんですから。」


「うるさい!うるさい!わらわは【ゴースト】を見た後は、暫く余韻に浸っていたいのじゃ!黙っておれ!」


「はいはい。」



口から一瞬見えた鋭い八重歯。



黒いスーツ姿をした幹部は、諦めてその場で動き出すのを黙って待つ事にした。






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『リスナーの皆!またなっ!!!』




「・・・・・参った。」



見終わった長い髭を生やした男は、天井を見上げると自然と呟く。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「どう?作ってみたんだ!これなら役に立つかな?」


「ほう。これは便利だな!アッシュ。ありがとうな!」



頭を撫でてもらって嬉しそうにする。



「あらあら。また変な物を作ってるよ。あの子は。」


「そんなガラクタばかり作ってないで、親の手伝いをすればいいのに。」


「まだ分からないのかね~。まるで役に立っていないのに。」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~






・・・・・あの頃は楽しかった。



純粋に誰かの為に作る事に喜びを感じていたから。


誰に何を言われようと、その人に役に立つならそれでいいと思っていた。






『99人がその仕事をバカにしていようが、たった一人が感謝してくれれば、それで十分じゃねぇかよ!!!』






衝撃を受けた。




頭をハンマーで殴られたみたいだ。




自分の手を見る。




すっかり忘れていた。




誰かの為に作るという事を。




今の俺は金の為に、言われた事だけを作っている。




情熱など、とうの昔に失って。






すると扉が開き、一人の男が入ってくる。



「アッシュさん。お久しぶりです。」


「おぉ。アルフィンじゃねぇか。」



この男。世界中をまわって商売をしている珍しい商人だ。


ほとんどが一ヶ所に根付いて商会や店を運営するのが基本だが、この男は世界中をまわって、様々な商品を仕入れて商売をしている稀有な商人だった。



髭を触りながら言う。



「この『ブレイグルト国』に来るなんて珍しいな。何か欲しい物でもあるのか?」


「何を言っているんですか。この国は技術の国。欲しい者なんて沢山ありますよ。でも、今日は別件でアッシュさんに相談がありまして。」


「相談?」



珍しい。


こちらが欲しい素材などを要望して融通してもらっているのに、逆に相談されるのは初めてだ。



「それでどういった相談だ?俺は知っての通り忙しい。いくらお前でも、余程の事じゃないと聞けねぇぞ。」


「・・・・・【ゴースト】。」




ピクッ。




その一言で、アッシュは黙る。



それを見たアルフィンは続ける。



「今度ですね、【ゴースト】公認のグッツ販売を行う事が決まりまして。・・・・・そのグッツを貴方に作ってもらいたくてここに来ました。」


「・・・・・。」



アッシュは黙っている。



構わずにアルフィンは続ける。



「素材はこちらで全て用意します。ですので可能な限り期限内に作って欲しいのです。報酬は販売価格の5%・・・・・・。」


「いらん。」



アッシュが言葉を遮る。



「はい?」


「報酬などはいらんと言った。だがやろう。・・・・・いや、やらせてくれ。必ず最高の物を作ってやる。」



アルフィンは少し驚いた後、笑顔で手を差し出す。



「そう言ってくれると思いました。それじゃ、よろしくお願い致します。」



アッシュとアルフィンは強く握りしめながら握手した。






・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・






近代的な造りのビルの様な建物の中。



「おい、聞いたか?アッシュ様が暫く魔導工場を貸切るらしいぞ。」


「本当か?今は国の魔道具や兵器を開発しているんじゃないのか?」


「国も強くは言えないだろうよ。だってあの御方は、この国の開発機関のトップなんだからさ。」


「しかし、何を作るんだろうな。」






・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・






近代的な造りの巨大な工場。



その入口に立ったアッシュは、工場を見上げる。



ここの社員は一ヶ月の間、他の工場へ移動させた。



今は俺一人。




「フッ。」




思わず笑みがこぼれる。



【ゴースト】は、実は俺も古参。最初からずっと聞いている。だた、お便りや感想を届けないのは、自分は『聞き専』だからだ。



この間の【ゴースト】を聞いて、失った何かを呼び戻してくれた。



あんなまだ青年の若造にだ。




最初からだ。




最初からあの番組を聞いた俺は。




痺れた。




痺れまくった。




そして感動した。




ゆっくりと瞳の光がなくなっていく。




「さて・・・・・何事もにやらんとな。」




そう呟くと、巨大工場へと入っていった。






・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・・・・






どんどんと動き出す。






ヒカリの知らない所で。


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