第27話 ジェミニ



「・・・・・・・。」




ある城の城壁の上で、体育座りをしながら黙って聞いていた一人の少女。


少女は、今まで映っていた【ゴースト】の【キューブ】を名残惜しそうに見ていたが、そのまま外へと向ける。



朝日が昇っていて、とても良く晴れたいい天気だった。



ヒカリがいる『フレグラ王国』から遠く離れた国。


時差が生じている為に、『フレグラ王国』は今は夜だが、この国は朝だった。




その朝日を少女は見ながら想う。



「ジェミニ。愛しているよ。」


「ジェミニ。貴方はずっとやりたいように生きてね。」




小さい頃、誕生日に言った両親の言葉。






・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・・・・






僕は小さな村で育った。



後で知った事だけど、僕のお父さんは獣人の国・・・・・獣王の息子の第一王子で、お母さんは希少種中の希少種。幻の種族と呼ばれている【妖狐】だったみたい。



お父さんとお母さんは結ばれる為に駆け落ちをした。そして獣人の国を出て『レブル王国』、別名『武力の国』と呼ばれている国へと逃げて、その外れにある獣人が集まって住んでいる村へと身を寄せていた。



僕が生まれて10歳の頃、村の外で遊んでいたら知らない人達に連れ去られてしまった。



そこで僕は殺し屋として育てられる。


大幹部の二人。世界一の剣豪だった男と、伝説の殺し屋と呼ばれている男に。



僕を攫ったのは、世界で三大犯罪組織の一つと言われている『毒牙』。


その構成員として、剣と戦闘力に比類の才能があったらしい僕は、大幹部の二人に目を付けられ、鍛え上げられた。そして、様々な犯罪に手を染め、沢山の人を殺した。




「フンッ。ジェミニ。お前はもう俺達を越えた。後は独学で鍛えるんだな。」




そう言われて突き放された僕は、ある程度自由にできる立場になっていたので、裏では殺しをやりながら、表では冒険者として、人だけじゃなくモンスターも狩る様になった。・・・・・そうする事で、違った戦い方や鍛え方が出来るからだ。




気づくと10年の月日が流れていた。



犯罪組織『毒牙』の主力部隊となった僕はボスに要望する。


一度でいいから、故郷に帰って両親に会いたいと。




「ならジェミニ。あと5年、俺の為に仕事をしろ。そうしたら会わせてやる。」




僕は頑張った。




殺しも。




犯罪も。




そして冒険者も。




ボスと約束してから二年の月日が経った時だった。



構成員と食事をしていた僕は、その食べ物に猛毒が入っていたのに気づく。視線を感じたからそのまま食べて、死んだふりをした。半分冒険者として活動していた僕は、毒や麻痺などの状態異常の類は一切効かない体になっていたのだ。



まわりの構成員達は、死んだ僕を見ると、すぐに僕を抱えてどこか遠くへと出かける。



誰もいない山の中へと入ると、構成員達が話始めた。



「こいつは勿体なかったな。俺達『毒牙』の中じゃ、もう最強だったんじゃねぇか?」


「しかも少女みたいな見た目しやがってよぉ。確かあの【妖狐】の血が流れてんだろ?あと何千年も生きられるらしいじゃねぇか。」



「まぁな。でもよ。ボスに故郷へ帰りたいなんて抜かしたんだろ?そうなったら処分されるに決まってんだろ。」


「そりゃそうだ。復讐された日にゃ目も当てらんねぇもんな。」



「まっ、死んで良かったんじゃねぇか。実はあの村は全員皆殺しにしたなんて聞かなくてよ。」






!!!!!!!!!!!!






瞬間。






抱えていた構成員以外の首が飛んだ。






慌てて尻もちをついた、僕を抱えていた構成員が叫ぶ。



「なっ!何でお前は生きてんだよ!・・・・・ガァッ!!!」



両腕を斬り飛ばすと、僕は聞く。


「・・・・・僕に毒は効かない。・・・・・それで?・・・・・どういう事?・・・・・拷問されたくなければ全て話せ。」




この『毒牙』の拷問は地獄だ。


それを知っている構成員は全てを吐いた。




攫われた日。


両親が住んでいた村は『毒牙』によって全員殺された。



高く売れる獣人の毛。


村人の皮膚を全て剥いで、その場に捨てたらしい。



そして僕に向かってその構成員は笑いながら言う。


「ハハハッ!しかもよ!ボスが今着ている短いコートあるだろ?ありゃお前の母親の・・・・・【妖狐】の毛さぁ!売れば数十億の代物だ!いつか俺も欲しいもんだ・・・・・。」



全て言う前に首が飛んだ。






「あっ・・・・・あっ・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」






抱えていた構成員の腰から奪った剣を捨てると僕は叫んだ。



言葉にならない叫びを。





ずっと。





ずっと。





希望を持って生きてきた。



攫われた時に、両親や村の人達を生かせておきたいなら、守りたいなら『毒牙』の為に働けと言われ、ずっと生きてきた。






プツッ。






その時、僕の何かが切れた。



それからは、あまり覚えていない。





とにかく殺した。





殺しまくった。





世界一の剣豪と呼ばれた大幹部も。伝説の殺し屋と呼ばれた大幹部も。構成員達も。・・・・・そしてその家族も。





全て。





全て。





『毒牙』の全てを・・・・・一人残らず皆殺しにした。





最後に言ったボスの言葉が頭をよぎる。



「・・・・・チッ。失敗した。まさかこんな事になるなんて思わなかったぜ。・・・・・これで『毒牙』も終わりだ。だがなジェミニ。お前は血に染まり過ぎた。もう戻れねぇよ!ハ~ハッハッハ!」



ボスを細切れにすると、壁に掛けてあったショートコートを取ってギュッと抱きしめる。






「・・・・・・・・・お母さん。ただいま。」






・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・・・・






あれから僕は表の世界の冒険者を辞めて、金を払えばなんでもやる傭兵をやっている。・・・・・冒険者は僕にとって眩し過ぎたから。




ジェミニは目線を外から体育座りしている足元の【キューブ】へと戻る。




三年前。



依頼の連絡用として持っていた【キューブ】。



その使っていないマスが点滅しているのに気づいて、何気なく僕はそのマスを押した。



すると【キューブ】から突然現れた男。


黒いコートを羽織り、真っ黒な見た事のない帽子をかぶって、顔は帽子を深くかぶっている為に見えなかった。


そしてその男はニヤリと笑うと、両肘をテーブルにつき、座りながら話始めた。




『よう!皆!初めましてだな!』




それを見てから僕は変わった。



『毒牙』を全滅させてから、何かが切れた僕は、笑う事も、怒る事も、泣く事もなく、ずっと無表情になっていた。



でも【ゴースト】を見続けて、徐々に僕の何かが変わっていった。






声。






あの声。






優しく。






本当に優しく。






耳にではなく。






心の奥底に響く声。






気づくと僕は夢中になった。



傭兵仕事をしていても、【キューブ】の一マスが点滅したら仕事そっちのけで聞いていた。



【ゴースト】を聞く。



聞いている間だけ、無表情の顔に少しだけど喜怒哀楽が出るようになった。




そして今日。



いつもは古参として感想のみを送っていたけど、勇気を出して僕だけのお便りを出した。



【キューブ】から映った【ゴースト】は、僕のお便りを読み上げて・・・・・そして僕の方をみて話始めた。




「・・・・・・。」




番組が終わった【キューブ】をずっと見ていた。



そして過去を想っていた。



すると。



自然と無表情の瞳から大粒の涙が流れる。



今まで流した事がなかった涙が。








城壁の外から声が聞こえる。


見ると、ケガを負った兵士達が、馬を駆けてこちらへと向かっている。そしてその先には粉塵をまき散らしながら、大勢の敵兵が。



「おい!ここはもうダメだ!もうすぐ数万の大軍がやってくるぞ! すぐに撤退だ!!!」



城壁の門まで来た兵士達は、この城を守っている隊長へと報告する。



「そうか!・・・・・だが、この城を落とされると、あとはもう王都のみ!・・・・・少しでも時間を稼いで防がないと、この国が滅ぶぞ!!!」


「しかし隊長っ!・・・・・・。」



門で迎えた隊長と兵士達がもめている。



城壁の上で、それを眺めていた少女は、涙をぬぐって【キューブ】を大事に仕舞うと、軽やかに飛び降りた。




突然現れた少女を見て驚いている隊長達を見渡すと言う。



「・・・・・仕事はする。・・・・・・皆は城内に入って門を閉めて。・・・・・・後は僕がやる。」


「ジェミニさん!・・・・・よろしく頼む!皆!入るぞ!!!」




隊長は戻って来た兵士達を連れて城内へと入って行った。




少女は歩きながら想う。






『それでもし、もっとやりたい事、ドキドキする事が見つかったら、今までやった事も無駄じゃないって思えるからさ。』






僕は胸を触る。




貴方の事を想うと。




ドキドキする。




ドキドキするんだ。




・・・・・・・僕は。




僕は。




貴方に。




【ゴースト】に。






会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。




会いたいっっっっっっっっ!!!!!!!






少女は暫く歩いた後立ち止まると、少女の背にある長刀を腰に移動してゆっくりと構えをとって柄を握る。



「・・・・・・そうだね。・・・・・・にやらなきゃ。」



少女は呟くと、長刀が光った。






閃。







-------------------------------------------------------






「よし!もうすぐ着くぞ!あの城を占拠すれば、あとは王都のみだ!」



オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!




粉塵を上げながら、先頭を駆ける敵国の隊長。



この国を攻め始めて半年。



とうとう王都の手前まで来ることが出来た。



数は減ったが、我々の軍はまだ5万ある。



目の前の城を攻め落とすには十分な数だ。



そうすれば、あとは王都のみ。



使者を送って、降伏させればそれで終わりだ。




「・・・・・ん?」




城の前に一人の獣人の少女が立っていた。


その少女は、似つかわしくない長刀を握って構えをとると・・・・・刀が光った。






・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・




馬の首がズレる。



馬に跨っていた兵士の腰がズレる。



後から走っていた歩兵たちの首が落ちる。



そして血が舞った。




・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・






「帰るぞ。」


「はっ?なっ、何を言われたのですか?将軍。」



隣にいた側近が聞き直す。



「撤退だと言ったのだ!全軍すぐに撤退を開始しろ!!!」



慌てて側近は周りの軍に指示を出す。



すぐに撤退を開始しながら、将軍は舌打ちをして呟く。



「チッ!・・・・・まさかこの国が雇っていたとは知らなんだ。」






世界最強の傭兵【ジェミニ】。


その前までは世界で三組しかいない一組の【超級】と呼ばれているソロ冒険者でいて、初のダンジョン【踏破者】。




将軍は撤退しながら、城の前で佇んでいる少女を見る。



少女が構えた瞬間。



前衛にいた一万の兵隊が一瞬で斬られた。




「化物め・・・・・何なんだアレは。生物の力量の域を遥かに超えている。・・・・・【戦争終結人】とはよく言ったものだ。」




世界最強の傭兵【ジェミニ】。


彼女に依頼するには国家レベルの報酬がないと雇えない。



だからこそ、その依頼は戦争レベルの物になる。



彼女を雇った国は、必ず勝利するか防衛する事が出来ると言われているからだ。



そこでついたあだ名が【戦争終結人】。



彼女が参加すれば戦争が終わる。



あっという間に。



それは敵が逃げるか、諦めるから。





「金をケチらずにこちらが雇っていれば、この国に勝利出来たものを。」



苦々しい顔をしながら将軍は去っていった。






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去っていく敵軍を見て、歓喜の声を上げる城の兵士達。



ジェミニはゆっくりと鞘から手を離すと、城に戻りながら呟いた。



「・・・・・・【ゴースト】。・・・・・・絶対。・・・・・・絶対に見つける。」




そして僕は・・・・・・・。




彼を想った少女の瞳は、徐々に光がなくなっていく。






そして。






無表情だった彼女の顔は。








とても可愛らしい笑顔になっていた。




















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