第26話 パーソナリティ4-2



「さて!どんどんお便りを読んでいくぜ!」




大量に届いてくるお便りを、ランダムに軽快に読み上げていく僕。



今日は事前に選んだ便りを読み上げるパターンではなく、今届いたお便りを適当に開けて読んでいた。


たまにはこうやって、ランダムに読み上げるのも面白いからね。・・・・・たまにヘヴィなのに当たると困るけど。



でも今日の滑り出しは、ち~ちゃんのめでたい報告のおかげでバッチリだったから、今はとても機嫌がいい。



何でも答えられそうだ。




どんとこいやぁ!




読み上げて、その感想を楽しそうに話す僕。


壁際の六人を横目で見ると、瞳をキラキラしながら嬉しそうに聞いている。



うん。今日の受け答えも良さそうだ。



リスナーがどんな反応をしているのか発信側だと分からない。でもレイン達がいるおかげで、リスナー目線でその反応が見れるから結構参考になって助かっている。




「よし!そろそろ次のお便りで最後だな。」



僕は大量にあるお便りから適当に選んで読み上げる。






『ペンネーム/じぇみ   【ゴースト】に聞きたい。僕は僕の生き方がつまらない。今の仕事もつまらない。でも他にやりたい事もない。どうやったら【ゴースト】みたいに楽しく出来るの?』






「・・・・・・・ほう。面白れぇお便りが来たじゃねぇか。」




仕事がつまらない。



学校がつまらない。



人生がつまらない。




これは前世でもよく聞く話だ。


僕はあっという間の人生だったから、偉そうなことはとてもじゃないが言えない。


でも・・・・・。




「よ~し!じぇみ。俺の意見を言うぞ。・・・・・生き方がつまらない?・・・・・・仕事がつまらない?・・・・・・ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」




大声で怒鳴る。



生きることが出来なかった僕にとっては、生きる事でいっぱいいっぱいだった。だから正直羨ましいし妬ましい。・・・・・そんな気持ちを持てる、じぇみに。




「いいか。大声出して怒鳴っちまったが、じぇみを怒っているわけじゃねぇ。・・・・・羨ましいんだよ。そんな気持ちを持てるじぇみに。多分、他のリスナーも共感している者もいるだろう。・・・・・でもな。そんな気持ちになる事。・・・・・いや、そんな考えになる事さえ出来ない者もいるんだ。だからその気持ちを持てるだけで、じぇみは恵まれていると俺は思う。・・・・・それでな、じぇみのお便りに対する俺の言いたい事はいつもの様にたった一つだけだ。・・・・・それはな・・・・・・・『真剣』だっっっ!!!」




転生した今は冒険者として、そして夢だったパーソナリティをやっている。



まだ生活は結構厳しいし大変だけど、僕は今、やりたい事が出来ている。




「・・・・・俺は冒険者で生活費を稼いでいるって言ったよな。今は一人前のE級だけど、この間まではF級だ。どんな事でもやらなきゃ稼げない。・・・・・でもな。どんな依頼でも俺はいつも『真剣』にやっていた!・・・・・やっていたんだ!!!どんな仕事でも、どんなにきたない汚れ仕事でもだ!・・・・・そして、この【ゴースト】だって、リスナーが楽しんで聞いてくれる為に、俺はいつでも『真剣』に答えているし、『真剣』に向い合っているっ!!!・・・・・・・じぇみは、いまの生き方が・・・・・仕事がつまらないって言ったよな?お前は・・・・・『真剣』にやったと・・・・・『真剣』にやっていたと今本気で言えるか?????」




・・・・・大量に来るお便りに目を通しているが、じぇみの追伸は来ていない。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おばちゃん!依頼のドブ掃除終わったよ!」



顔を泥だらけになりながら、依頼主の老女に言う。



「ヒカリ君。いつもありがとねぇ。」


「ははっ!いいって!」






「レイナさん!今日の依頼は終わったっす!」


「ヒカリ君。ご苦労様です。」




「おい。またあいつ、あんな依頼受けているぞ。」


「冒険者としてプライドねぇのかよ。」


「フフッ。冒険者じゃなくて、清掃屋になればいいのにね。」



「おい!!!今言ったやつは誰だ!!!」




グリーミュさんが怒鳴る。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~






僕は続ける。


「じぇみ。そして同じ気持ちになっている奴はよく聞いてくれ。じぇみがどんな仕事をしているのか。どんな生き方をしているのかは俺には分からない。もしかしたら想像も出来ない生き方をしているのかもしれない。・・・・・でもな、99人がその仕事をバカにしていようが、たった一人が感謝してくれれば、それで十分じゃねぇか!!!・・・・・99人が嫌な顔をしても、たった一人が喜んでくれれば・・・・・それで十分じゃねぇかっっっっっっっっ!!!!!!!!」



テーブルにあるコップを手に取ると一口水を飲む。



「・・・・・皆が皆、好きな仕事や好きな事が出来ているわけじゃない。・・・・・だからさ、じぇみ。今、目の前の出来る事を流さないで『真剣』にやってみたらどうだ?・・・・・それでもし、もっとやりたい事、ドキドキする事が見つかったら、今までやった事も無駄じゃないって思えるからさ。・・・・・・・いいか!!! リスナーの皆もそうだ! 分かったな!!!」






・・・・・ん?




何だ?




叫び声?




気のせいか?






「まっ、まぁそんな感じだ!仕事も、恋愛も、勉強も、趣味も、俺達は常に『真剣』にやろうぜ!・・・・・おっと。結構な時間になったな!じぇみ!聞いているか?いいお便りだったぞ!・・・・・それじゃ、今日はこれで終わりだ。・・・・・リスナーの皆!またなっ!!!」




僕は軽く手を振ると【マスターキューブ】のマスを押して終了する。




「・・・・・ふぅ。」



椅子に背中を預けて天井を見る。



今日も結構熱く語っちまったな。



三回に一回はお便りに刺激されて長く話してしまう。



悪い癖だ。



ふと壁際を見た。




「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ♪♪♪」


「素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい!素晴らしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」




レインが奇声を上げて、ゴロゴロ床に転がっている。


クロックが正座をしながら両手を広げて同じ言葉を繰り返している。


他の四人もレインのまねをして、床に転がりながら奇声を上げはじめた。




・・・・・君達。一体何をやっているのかな?






ヒカリは知らない。






リスナーに向かって『分かったな!』と言った時に、世界中で奇声が上がったのを。






それこそ町中に・・・・・いや、国中に響き渡る程に。






ヒカリは知らない。






・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・・・・






ヒカリ信者、ますます増幅中。





















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