第24話 使徒2
「ほっ。ほっ。ほっ。」
朝。
いつもの様に、朝のルーティーンの走り込みだ。
「しっかし、結構きついな!」
苦悶の表情をしながら独り言を言う。
いつもと同じペースだが、内容が全然違う。それはアルフィンの店で武器を買った時に、ついでに足に付けられる重りも買ったのだ。
あの『古の森』の時は何とか逃げる事が出来たが、【身体強化】の倍掛けで体が全然ついていけてなかった。
もう自分は一人前のE級冒険者だ。これからもっと危険な場面に出くわすかもしれない。
だからこそ、もっとスピードを強化して、いざという時に逃げられる様にしないといけないと思った。
僕は更にペースを上げながら、ゴールの自分の家へと向かう。
「はっ。はっ。はっ。・・・・・そう言えばち~ちゃん。元気になったかな。」
走りながら呟く。
・・・・・あれから一週間以上経ったけど、ち~ちゃんは治ったのだろうか。
走りながらスキルを発動すると、目の前に表示される。
『寿命/残り1,990年』
10年寿命が減っていた。
あの時ち~ちゃんの苦しみがなくなっていたので、おそらくスキルが発動して、ちゃんと寿命を消費して治ったのだと僕は思っている。
でもすぐに立ち去ったので、あの後どうなったのかが分からないから、少し気にはなっていた。
「今度放送した時にでも聞いてみるかな。」
正直言って、ここまでするのはどうかなとは思う。
僕は聖人君子ではない。前世では普通のサラリーマンだ。
今回も僕には関係のない事だし、いくら苦しんでいる子がいたとしても、全ての人達を助ける事なんて到底出来ない。そしてするつもりもない。
レインの時もそうだったけど、バカな事をしたと一瞬だけ思う事もあった。
でも。
それでもだ。
夢だったパーソナリティをする事が出来て、僕の番組を聞いてくれるリスナーさんがいる。
そんな大事なリスナーだけは助けたいと思ったんだ。
自己満だと思うけどね。
「よっし!ゴール!」
「お疲れ様っす!」
「お疲れでござった!」
黙って僕の後ろで一緒に走っていた、しずくとサスケ。
貴方達、あんだけ走って汗一つかいてないってどういう事?
「はい。ヒカリ様♪」
「ありがとう。さくら。」
影から出てきたさくらが、用意したタオルを僕に渡す。
僕は受け取ったタオルで汗を拭いていると、家からレインが出てきた。
滅多な事じゃないと影から出てこないレインが、今日は朝から用事があると出かけていたので、少し驚いたけど帰って来た様だ。
「ヒカリ様。お客様がいらっしゃっております。」
「お客様?」
僕は首を傾げる。
こんな朝早くに?
僕の知り合いは、冒険者パーティ『獣の誓』の姉御達と受付のレイナさん。後は、友達のアルフィン位だ。
それで今は『獣の誓』は遠征でいないはず。
誰だ?
僕はタオルを首にかけながら、家の中へと入って行く。
「【ゴースト】様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ごふっ!」
突然、お腹にダイレクトアタックをかましてきた小さな可愛い女の子。
「ち~ちゃんじゃん!」
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「それでどったの?」
「ハッ。・・・・・ち~ちゃん。いや、娘のチェリーを助けて頂いた【ゴースト】様に、どうしてもお礼が言いたかったので、レイン殿に頼んで【ホール】でここまで来ました。」
レインは、ニコニコしながら後ろで立って僕達を見ている。
どうしても大事な話があるという事で、ち~ちゃんは外でさくら達に相手をしてもらっていた。
片膝を付いて頭を垂れているち~ぱぱ・・・・・いや、クロックさん。
何で皆、僕に対してその恰好をするのだろうか。
好きなのかな?
「クロックさん。レインに聞いたとは思うけど、僕の本当の名前はヒカリ。【ゴースト】は番組内の演者の名前さ。だから今後【ゴースト】が僕というのは黙っていて欲しいのと、普段の時はヒカリって呼んで欲しいんだ。」
「もちろんでございます。チェリーにもよく言って聞かせます。」
「助かるよ。」
「・・・・・ヒカリ様。この度は私の無理な願いを叶えて頂き、本当に・・・・・本当にありがとうございました!!!」
クロックは深く、深く頭を下げる。
「ハハッ。僕は大事なリスナーに苦しんで欲しくないから勝手にやった事さ。そんなに重く考えないでくださいね。」
「【ゴースト】様。貴方という御方は・・・・・・。」
すると、レインが口を挟む。
「ヒカリ様。クロック様がお礼と一緒に、どうしてもという願い事があるそうです。」
「願い事?」
レインが頷くと、片膝を付いているクロックがそのまま顔を上げて僕を真っすぐに見て言う。
「ヒカリ様。・・・・・どうか。どうか私を【使徒】に!!!!!」
「へっ?」
自然と変な声が出た。
「何でそういう考えに至ったのかな?」
思わずツッコむ。
クロックはゆっくりと立ち上がると両手を広げて話始めた。
「私はヒカリ様がご存じの通り、番組を始められた時からずっと聞いている古参リスナーです。【ゴースト】をずっと聞いていて、私も娘もその度に元気を貰いました。・・・・・そして、今回のお便りの出来事。こんな事をされてしまったら、私はどうやったらこの御恩を返せばいいのですかっ!お金?それとも地位?・・・・・いや!そんなちっぽけな恩を返すだけでは、全然足りない!足りないのですっっっ!!!私はっ!貴方のっ!腕となりっ!足となりっ!そして頭脳となって!ずっと!ずっとお支えしていきたいのですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
「わっ、分かった!分かったから落ち着いて!!!」
両手を広げている肩を慌てて掴む僕。
光のない瞳で、どんどんと話がエスカレートしていくクロックさん。
怖ぇよ!!!
そんな事を考えていると、スキルが表示された。
『寿命/残り1,990年』
『貴方に対する忠誠が上限を超えました。使徒にしますか? 【使徒】残り11名/マスターと同じ寿命となる。マスターが死亡すると同じく死亡する。』
はぁ。
その想いに負けたよ。
まぁ、僕の番組で元気を貰ったと言ってくれるのは素直に嬉しかったけどね。
「それで?クロックさんは好きな番号はある?ゼロはレインだけと、あと1~11番まで選べるよ?」
「ほう。・・・・・それでは【9】でお願いします。」
僕は頷くと、クロックさんと握手する。
すると、クロックの体が虹色に光った。
スキルの表示が追加される。
『寿命/残り1,990年』
【使徒】残り10名
ナンバー0:レイン=シルバー
ナンバー9:クロック=ロドリゲス
クロックは目を見開く。
「見える!見えるぞっ!ヒカリ様が見ているであろう表示を!これで!こぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇでぇぇぇぇぇぇぇ!!私もぉぉぉぉ【使徒】ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大きく叫ぶクロック。
だから怖いって!
するとハッと我に返ったのか、真面目な顔をして片膝を付くと頭を垂れる。
「・・・・・ヒカリ様のした事が【使徒】になって初めて分かりました。・・・・・貴方の寿命を犠牲にする代わりに、私の娘を助けたのですね。・・・・・今後は未来永劫、貴方の為にこの命を捧げます。」
「ハハッ。そういうのはいいから。まぁ気楽にやろうよ。」
「ハッ!・・・・・所でヒカリ様。最初にこれだけは聞かせてください。」
「何?」
クロックは跪きながら顔を上げて僕を見る。
「・・・・・貴方は今後はどうするおつもりで?・・・・・そして、どうしたいのかをお教えください。」
どうしたいのかって?
それは、この世界に転生してずっと目標は決まっている。
「あぁ。それはね。今は冒険者として生活費を稼いでいるけど、いつかはどこか静かな所で僕の家を建ててさ、本業のパーソナリティ・・・・・いや【ゴースト】の番組をずっとやりながらスローライフを送りたいね。」
「何と!」
「えっ!・・・・・えぇぇぇ?????」
クロックとレインが驚いている。
あれ?
僕なんか変な事言ったかな?
「まっ、とりあえずクロックさんが仲間になったんだ。夜は【ゴースト】の予定だからさ、昼に歓迎会でもしようよ!」
そう言うと僕は二人を連れて、ち~ちゃん達がいる庭へと出た。
後から付いてくる二人の瞳に、光がない事にまったく気づかずに。
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