第22話 ち~ちゃん
「パパ?何か光ってるよ?」
三年前。
いつもの様に、夜、娘の部屋で看病をしている時に、何気なくテーブルに置いた【キューブ】の使ってない1マスが点滅していた。
この【キューブ】。
今まで手紙でしか通信手段がなかったのを変えた画期的な魔道具。しかも相手が見えるから高額な転移魔法陣を使わなくても、会っているかの様に話すことが出来るのだ。
あの時は、薬を飲んで調子がたまたま良く、笑顔で会話していた時にチェリーが気づいた。
私は【キューブ】を手に取ると、少しワクワクしているチェリーの前で、その点滅している1マスと押した。
すると、そこから一人の男が現れる。
黒いコートを羽織り、真っ黒な見た事のない帽子をかぶっている。顔は帽子を深くかぶっている為に見えない。
そしてその男はニヤリと笑うと、両肘をテーブルにつき、座りながら話始めた。
『よう!皆!初めましてだな!』
惹かれた。
何故だか分からない。
その声。
その姿に目が離せなかった。
ただ一方的に話すその男が暫くしてから消えると、ハッとして娘を見る。
すると、娘は私と同じ様にずっと男が現れていた所を見つめていた。
不思議な経験だった。
「パパ。また、光るのかな?」
私はチェリーの頭を優しく撫でる。
「ち~ちゃんがきっと元気でいれば、また光ってくれるよ。」
「うん!そうだね!」
その嬉しそうな顔を今でも私は忘れない。
それからというもの、定期的に【キューブ】が点滅して、その男が現れた。
その男の名は【ゴースト】。
突如現れたその男は、世界中に発信している事が分かった。
何故この【キューブ】から発信出来るのか。そして【ゴースト】とは何者なのか。
発信するのが決まって夜の為、いつもチェリーと一緒に【ゴースト】を見るようになっていた。
見ていく内に、回数を重ねる内に、どんどん惹かれていく。こんな事は未だかつてなかった。・・・・・この1,000年の時を過ごして。
この【ゴースト】の持っているカリスマ性なのか。それとも心に響く【声】なのか。
娘も夢中になって見ていて、見ている時はどんなに苦しい時でもその時だけは幸せそうだった。
苦しそうな娘の顔を見ると、この国の憎悪が増す。
王だけでは物足りない。
この国を滅ぼさないと気が済まない。
でも今は出来ない。
娘の薬が必要だからだ。
だから余計なのか、娘に笑顔を与えてくれるこの男に・・・・・・・この【ゴースト】に夢中になった。
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「うぅぅぅぅぅぅぅ。」
苦悶の表情を浮かべ、弱った細い腕で胸を抑えながら苦しむ。
痛い。
痛い。
苦しい。
苦しい。
何でこんなにも痛いの?
何でこんなにも苦しいの?
私が何かした?
どうして私だけ?
苦しい時、決まって自問自答してしまう。
気づいた時には、私は死の病気【死神憑き】にかかっていた。
治すことが出来ない死の病気。
もって半年から一年と言われていた病気だけど、パパが貴重なお薬を毎月手に入れてくれるおかげで10年近くも生きられている。
でも、どんどん苦しみが増えて・・・・・正直本当はもう死にたかった。楽になりたかった。
でも・・・・・。
『いいか!ち~ちゃん!がんばれだ!』
『ち~ぱぱの為にがんばれ!』
【ゴースト】様の言葉。
三年前からずっと古参リスナーとして応援している【ゴースト】様。
気づくと夢中になって聞いていた。
気づくと夢中になって見ていた。
そして大好きになった。
聞いていると、見ていると何故か痛みが、苦しみが和らぐような気がした。
大好きな【ゴースト】様。
そんな【ゴースト】様が、大勢のリスナーの中でたった一人の私に向かってかけてくれた言葉。
それを聞いた時、気持ちが変わった。
ずっと心配をかけているパパの為に。
一番大好きなパパの為に。
生きたい。
生きていたい。
そしてこの【ゴースト】を聞いていたい。
そう思ったの。
でも痛い。
痛いの。
苦しい。
苦しいよぉ。
私はうずくまりながら小さく呟いた。
「・・・・・【ゴースト】様ぁ。」
すると、呟いたと同時に部屋の扉が開いた。
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「ち~ちゃんはこちらになります。」
そう言うと、ち~ぱぱ・・・・・もといクロックさんが扉を開けた。
「ち~ちゃん。寝ている所ごめんね。」
「・・・・・パパ?」
「ち~ちゃん!大丈夫かい?」
慌ててクロックさんは苦しそうにうずくまっているち~ちゃんの元へと駆ける。
すると、慌ててすぐに笑顔を作る。
「・・・・・大丈夫だよ。ちょっとだけ苦しかっただけだから。」
「ち~ちゃん・・・・・。」
無理やり笑顔を作っているのが、初めてち~ちゃんを見た僕でも分かる。
細い体、痩せこけた顔、そして生気のない瞳。
今にも死にそうだ。
僕はゆっくりと近づくと、ち~ちゃんが見える位置まで来て言う。
「よう!ち~ちゃん!初めましてだな!会いに来たぜ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?????」
目を見開く。
信じられない様な顔をして驚いている。
クロックさんが退くと、僕は隣に座って手を握る。
「ち~ちゃん。 頑張ったんだな!パパの為に。・・・・・・・よく頑張ったっっっ!!!!!」
「【ゴースト】様・・・・・・えっ。えっ。・・・・・え~~~~~ん。」
決壊したかのように大粒の涙を流すち~ちゃん。
きっとずっと我慢していたのだろう。
僕の言葉を守って。
大好きなち~ぱぱに心配させないように。
大泣きしているち~ちゃんを見ながら小さく呟く。
「・・・・・僕の寿命をあげるよ。・・・・・【放出】。」
握っている手が虹色に光る。
すると、みるみるうちに泣いているち~ちゃんの顔色が赤みをおびていく。
生気のない瞳からは光が戻る。
大泣きしていたち~ちゃんは、突然ピタリと泣き止んだ。
そして僕の手を離すと、胸を触る。
「・・・・・痛くない。・・・・・苦しくない。・・・・・パパ?・・・・・苦しくないよ?・・・・・全然痛くもないよ?・・・・・パパっ!!!」
「ち~ちゃん!!!!!」
クロックさんはち~ちゃんを抱きしめる。
「・・・・・行くぞ。」
「「「「 ハッ! 」」」」
僕は静かに立ち上がると踵を返してレイン達を連れて部屋を出た。
外に出ると、変わらず星々が綺麗に夜を照らしている。
確かここは大陸の中央辺りにある『オーメン国』だったか。パッと見はあまり『フレグラ王国』と変わらないな。
僕は大きく伸びをする。
「さて、終わったね。帰ろうか。」
「ヒカリ様。私は少し用事がありますので、ここに残ります。・・・・・さくら。しずく。サスケ。ヒカリ様を頼みますよ。」
レインが片膝を付いて答える。
何で自分で何かしようとする時に、わざわざ僕の前で片膝を付くのかな。仲間なんだからそんな事しなくていいのに。・・・・・こだわっているみたいだから言わないけどね。
「それじゃ、帰ろうか。」
「「「 ハッ! 」」」
僕は三人を連れて館の外にある【ホール】へと入っていった。
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「【ゴースト】様は!・・・・・【ゴースト】様はどこへ行った!!!」
慌てて娘の部屋から出た私は、一階へと駆けて叫ぶ。
「クロック様。お客様はもう帰られました。」
「帰っただと?何故引き止めなかった!」
「いえ。もう用は済んだと仰っておりましたので・・・・・。」
執事が戸惑っている。
私はそのまますぐに庭へと飛び出すと、守衛に門を開けさせ、外へと出た。
辺りを見渡す・・・・・すると、そこには一人の女性が立っていた。
【ゴースト】様と一緒にいた者達の一人だ。
銀の美しい髪。漆黒のドレス。【ゴースト】様に目がいっていて気づかなかったが、とても美しい女性だった。
女性は話始める。
「初めまして。私はレイン=シルバー。そしてあの御方の【使徒】。」
「【使徒】だと?」
「えぇ。・・・・・私はね、貴方の目を見て確信したわ。・・・・・貴方は熱狂的な古参リスナーでいて・・・・・最上級の【同志】だと。」
「・・・・・・・それで?」
「フフッ♪ もし貴方が【ゴースト】様に忠誠を・・・・・いや、忠誠だけでは足りない。全てをあの御方に捧げるつもりがあるのなら、迎え入れるわ。・・・・・10日間。この【ホール】を開けておきます。・・・・・良い返事を待っているわ。」
そう言うと、レインは【ホール】へと入って行った。
「・・・・・・。」
レインがいなくなり、一人だけになったクロックの周りは静寂に包まれる。
「・・・・・・フッ。・・・・・・フフフフフ・・・・・・ハァ~ハッハッハッ!」
突然笑ったかと思うと、館へと戻る。
「・・・・・レイン。わざと言ったな。・・・・・答えなど決まっているというのに。」
その瞳には光が無った。
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