第21話 クロック=ロドリゲス
「それでは失礼致します。」
「うむ。・・・・・おぉ、そうだ。今月分の薬が出来たそうだから貰って行くと良い。」
「・・・・・ありがたき幸せ。」
王に礼を言うと、報告を終えた私は宰相室へと戻り、帰り支度を始める。
すると宰相室の扉が開かれ、一人の老齢の男が入ってくる。
「宰相殿。帰るのですかな?」
「えぇ。もう今日の仕事は終わりましたので、薬を貰って帰りますよ。」
「そうですか、そうですか。クロック殿が終わりと言えば終わりでしょうな。それではワシも王に挨拶をしてから帰りますかな。」
そう言うと、私が帰るのを確認してから、内務大臣のイアンは王室へと向かって行った。
「・・・・・フン。白々しい。」
私は小声で呟きながら歩く。
「クロック様。今日はもうお帰りですか?」
「クロック様。お疲れ様です!」
「クロック様!」
王城から出る間も、声をかけてくる文官や兵士達。
それを笑顔で対応しながら、迎えに来ていた専用の馬車で家路へと急ぐ。
私の名はクロック=ロドリゲス。
エルフと同じ2,000年を生きるヒューマンの上位種族であるハイヒューマンでいて、この小国『オーメン国』の宰相を約1,000年間勤めている貴族だ。
昔、ヒューマンの妻との間に出来たハイヒューマンの息子がいた。
その子は【死神憑き】にかかり、10年という長い闘病生活をして亡くなった。どんなにもっても半年から一年と言われている【死神憑き】でだ。
それは、この国の秘術で作った貴重な薬が【死神憑き】の進行を遅らせたから。
私は感謝した。
当時の王を。
だからこそ、宰相となりこの国を1,000年もの間、守り続けた。
しかし・・・・・。
貴族街へと入り、自分の館の前まで来ると馬車を降りる。
「お帰りなさいませ。クロック様。」
玄関で待っていた執事に手荷物を渡すと、その横にいる侍女に聞く。
「チェリーの様子は?」
「はい。変わらず苦しそうにしております。」
「そうか。」
私はすぐに大きな館へ入ると、二階へと上がり、娘の部屋の前まで来て呼吸を整え、笑顔を作り扉を開ける。
「ち~ちゃん! 今帰ったよ。」
「パパ・・・・・お帰り~。」
すぐにベットの横に座ると、チェリーの頭を優しく撫でる。
食事がほとんど取れていない体は痩せこけ、顔は真っ青だ。しかし、一生懸命笑顔で私を迎えてくれる。
「やっと薬が手に入ったよ。さっ。すぐに飲むんだ。」
体を起こして、小瓶に入った液体をゆっくりと飲ませる。
すると、少しだけ顔色が良くなり、ここ最近動く事さえ出来なかった手をゆっくりと私の手に重ねる。
「パパ。ありがとう。でも・・・・・無理してない?」
私は思う。
この笑顔をずっと見ていたい。その為だったら何でもやろう。・・・・・分かってしまったのだ。昔に息子が【死神憑き】にかかったのも、そして新しい妻との間に出来たこの子の【死神憑き】にかかった原因も。
それは・・・・・この国が、そして王が、私を縛る為に子供を【死神憑き】にした事を。
どうやったのかは分からない。
しかし、今の王と内務大臣が話していたのを聞いてしまったのだ。
私の子供を【死神憑き】にし、その延命が出来る薬を与える事で大きな貸しを作り、ずっと宰相としてこの国を守らせようと。
おそらくチェリーの母親。二人目の妻も事故死だったが、本当に事故なのかは分からない。
私は笑顔で答える。
「ち~ちゃんは私の生きがいだ。無理してるなんて考えた事もないよ。だから早く良くなるんだよ?」
「・・・・・うん。『頑張る』。」
チェリーはそう言うと笑顔で返した。
・・・・・・・【ゴースト】様。
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「今日は出来上がった薬をもって帰りましたぞ。」
「そうか。」
クロックの報告をしたイアンは続ける。
「これで宰相に更に貸しが出来ますな。この国もあと数百年は安泰ですかな。」
「こんな事をするのは心苦しいがな。」
「王よ。これも国の為ですぞ。」
「分かっている。」
クロック=ロドリゲス。
1,100年前に誕生したロドリゲス家のハイヒューマン。
すぐに頭角を現した彼の能力は凄まじく、政務も軍務も全てこなし、稀代の策略家、稀代の戦略家と他国には恐れられ、『オーメン国の頭脳』そして『オーメン国の守護者』と呼ばれていた。
そんな人物を他国にやらない為に、当時の王が行ったのが【死神憑き】を利用した束縛だった。
魔法の国『ロイエン国』と親しい関係だったこの国は、意図的に【死神憑き】を発症させる事が出来る薬と、延命できる薬を手に入れたのだ。
それをクロックの息子に仕掛け、救う事で大きな借りをクロックに作らせた。
そして今世。
同じ様に王はイアンの助言でクロックを縛り付ける。
クロックが気づいている事も知らずに。
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夜。
娘が寝るまで横にいた私は、静かに部屋を出る。
すると、外でいつもの様に待機していた侍女が言う。
「クロック様。食事の支度が出来ております。」
「あぁ。ありがとう。」
一階へと降り、食堂へと向かっていると、玄関の方から執事がやってくる。
「クロック様。お客様がいらっしゃいましたが、いかがいたしましょうか。」
「お客様?」
こんな夜に?
貴族を訪ねるのに夜はマナー違反だ。
特に、ここは宰相の家。
余程緊急でないとあり得ない。
「見た事のない格好をした者達です。・・・・・追い返しましょうか?」
「いや。私が行こう。」
他国の間者か?それとも国で何かあったか?
私なら、なんにでも対応できる。
仮に襲われたとしてもだ。
私は執事や侍女に待機させると、外に出る。
外は星々がきらめき、とても美しい。
「開けろ。」
守衛に指示すると、門が静かに開かれた。
入って来たのは男女五人。
すると、銀の髪をした四人が左右に分かれる。
その中心にいる男。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
私は自然に地面に片膝を付いて頭を垂れた。
この姿勢を取った事は未だかつてない。
王の前でもした事はなかった。
しかし・・・・・。
この御方の前では、自然とこの格好になってしまった。
黒いコートを羽織り。
黒の帽子を深くかぶった男。
私は心の中で歓喜した。
そして、涙が自然と地へ落ちる。
落ちる。
震える声で、頭を垂れながら私は迎える。
「いらっしゃいませ。【ゴースト】様。」
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