第19話 ダンジョン1


「ヒカリ様♪ 凄い!動いていますよ!・・・・・今の時代はこんな物まで造っているのね。」


「ハハッ。そうだね。」



レインが目を輝かせて外の景色を眺めている。最後の方は良く聞こえなかったが。




アルフィンの店で武器を買ってから一週間。


今、僕はレインと一緒にこの国にある唯一のダンジョンがある街へと向かっている。



この国での移動は、近場は馬車や馬で。街から街には距離があるので【魔導列車】で移動している。前世で言う所の電車だ。でも車輪はなくて、地面より数センチ浮いて走っている。魔石を動力としているらしく、どういう造りになっているのかはまるで分からない。この世界の歴史を勉強していた時に、機械と技術の国と呼ばれている『ブレイグルト国』がこの国へ提供したらしいというのは分かっている。



まさかこの世界に来て電車に乗るとは思わなかったが、魔石というエネルギーがあるおかげで前世とは違った、国によって様々な生活様式になっている。



一時間程で目的地へと着くと、レインはすぐに僕の影へと入っていった。


魔導列車から降りた僕は、この街を見渡す。





ダンジョンのある街『バディン』。



装備した冒険者達が行き交い、武器屋や防具屋など、冒険者が立寄る店が建ち並んでいる。


横を見ると、次々と冒険者らしい人達が魔導列車から降りていく。



大体一つの国に一つはあると言われているダンジョン。



起源は遥か大昔。まだ国がなかった時代に、種族の王達が害をなすモンスターや魔物を封じ込める為に作ったとされている。


深さは約100階層近くあり、多くの冒険者達が魔石と依頼報酬を手に入れる為に通っている主戦場だ。


人が集まれば商いが生まれる様に、この国のほとんどの冒険者がダンジョンへと行くので、自然と街が出来上がった。



そんな『バディン』へ着いた僕は、すぐに中心にあるダンジョンへと向かう。


まだ午前中でも早い時間だ。ゆっくりと浅い階層を探索できるだろう。



レイナさんから貰った浅い階層の討伐依頼書のモンスターと魔石を出来るだけゲットしようと思っている。



大体の冒険者はダンジョンへ行く時は、パーティを組んで行くのが普通だ。何故なら、浅い階層なら日帰りで帰ってこれるだろうが、深く行けば行く程、大物の討伐を狙おうとすればする程時間がかかり、潜る日数が増える。だからこそ、ギルドはパーティを推奨しているし、ソロは不向きとされている。・・・・・よほど実力があるソロの冒険者なら別だろうが。



基本、僕は日帰りと決めているので、この街の宿に泊まるつもりはない。お金もかかるしね。


魔導列車で一時間程で着くんだから、時間もあるし十分稼げると思っている。





「しっかし・・・・・でけぇな!」



僕は見上げる。


ダンジョンの入口を。



建築したのか、巨大な神殿の様になっているダンジョンの入口には、大勢の冒険者達が行き交っていた。



その中を一人で入る。


影の中にいるレインとは約束をしていた。命にかかわる事にならない限りは、絶対に出てこないようにと。



数百メートル程歩いて行くと、すぐに雰囲気が変わり、人の手が入っていない巨大な鍾乳洞の様な洞窟へと変わっていく。壁には光る苔の様な物が付着していて、全体的に明るく、魔法で明るくしたり、魔道具を使ったりする必要はなさそうだ。



道も複数に分かれているので、なるべく人の少ない方へと僕は歩いて行く。



冒険者達は、攻略した階層は再度行く様な事はしないで、入口と最後に行った階層をマーキングして【転移魔導具】を使って移動している。それは、魔法の国『ロイエン国』が開発したダンジョン専用の魔道具で、結構なお値段がするらしい。でも僕は日帰りソロ冒険者だから関係ないけどね。




このダンジョンは、10階層までがE級の推奨となっている。


今回は初回だし、2、3階層位までにしといて、稼げるだけ稼ごう。



すると、早速小さなモンスターが現れた。


真っ白いモンスター。頭に一本の角を生やしたウサギの格好をした【ラージ】だ。5匹程固まっていて赤い目をして僕を見ている。




「うぉぉ。」




思わず声を漏らす。



今までずっと『古の森』で討伐をしていたので、入口付近のゴブリンしか相手にした事がないからだ。まぁ、最近はオーガやミノタウロス、しまいにはドラゴンまで相手にしたけどな!


初ダンジョンで、今まで見た事のないモンスターが目の前にいるのにちょっと感動してしまった。




「確かあれはFランクのモンスターだよな。・・・・・丁度いい。」




このダンジョンへ来る前に、ちゃんと下調べはしておいた。このラージは、ゴブリンと同じFランクに位置付けられている。



僕はダガーから新調したショートソードを両腰から抜くと構える。



構えたと同時に、ラージが一斉に襲い掛かって来た。



素早い動きで、ジャンプしながら角を前に出して飛び込んで来た所を躱しざまに一刀。一刀。また一刀。


更に逃げようとした二匹を瞬時につめて斬りふせる。



「いいね。」



付いた血を払うと、すぐに魔石を取り出す。


Fランクでもラージはすばしっこいので、新人の冒険者は倒すのに苦労するとよく言われているけど、僕は逃げ足特化・・・・・いや、スピード特化なので、この位の速さなら難なく追いつける。




「しっかし、このショートソード。すげぇよく斬れるな。」




斬った感触を感じさせない程だった。


流石1本100万の品だ。それでいてダガーより倍近く長いので、攻撃可能範囲もかなり広がった。しかもそんなに重くないのでマジで使いやすい。後でアルフィンにはお礼を言っておこう。



お約束のゴブリンも現れたが、こいつはお得意様なので、難なく討伐していく。



一階層から二階層へと下りると、出会った事のないモンスターが続々と現れた。



出し惜しみはしない。




「・・・・・【身体強化】。」




『ギャ!』『Ga!』




一気に距離をつめて次々と首や腕を飛ばしていく。



Eランクモンスター【ワーウルフ】。


Eランクモンスター【ベアラー】。



ワーウルフ・・・・・人狼の身体能力は高いが、身体強化魔法をかけた僕の速さにはついていけていない。鋭い爪を振り下ろすが、それより早く首を飛ばす。そして熊のベアラーでさえも、ショートソードの切れ味鋭い一刀で腕を飛ばした。




「よしっ。問題なくやれるな!」




同等のEランクモンスターと危なげなく戦う事が出来ている。


これなら、このダンジョンの上層で稼ぐ事が出来るだろう。



僕は確かな手ごたえを胸に、もう一階層だけ下りようか迷っていると、先の方から悲鳴や怒声が聞こえてきた。



見ると、おそらく僕と同じEランク冒険者だろう。4つか5つのパーティが、血相を変えて僕のいる二階層へと走ってくる。数名の怪我人を抱えながら。




すれ違いざまに、僕を見ると一人が叫ぶ。


「おい!お前!ここに居たらヤバイ!早く逃げろ!【特殊個体】が現れやがった!何パーティかは犠牲になっちまった!・・・・・クソッ!何でこんな浅い階層に出やがるんだよ!!!」




逃げていくパーティを見送りながら、先の方へと向き直る。



「マジかよ。」





特殊個体。


ダンジョンでは、稀に現れるモンスターで、知能が高く、同じモンスターでも危険度が一気に跳ね上がる。


資料を見た時、過去、特殊個体のベアラーが現れた時は、危険度が二段階に上がり、そのベアラーのみEランクからCランクとなったと書いてあった。


それ程ヤバいモンスターなのだ。


そんな特殊個体が遭遇するのは大体中層から下だと言われている。


上層に現れた事例は、資料を見る限りだとほんの数例しかなかった。



どうする?



逃げ足が速い僕は、負傷者を抱えて逃げている彼らを容易に追い抜く事が出来るだろう。


しかし、モンスターの足が速ければ彼らが犠牲になってしまう。




でも。




「もう遅いみたいね。」




先の方から、ゆっくりとこちらへと歩いてくるモンスター。



片手には巨大なハルバートが。



そしてもう一つの手には・・・・・・・髪を掴んだ冒険者の頭が。




それを見た僕は顔色を変えると、近づいたモンスターを見上げる。




「・・・・・てめぇ。」




そこにいたのは『古の森』でも出会ったモンスター。


ヤギの様な顔。そしてあの時よりも更に大きい4mはある巨大な体。そして一番特徴的なのは赤く染まった全身。






特殊個体のミノタウロスだった。







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