第18話 提案


「ヒカリ様。少しお話があります。」



放送が終わって自室へと戻った僕は、ベットへと座ると、レインが影に入らずに横に座って声を掛けてきた。



「ん~?どったの?」


「ヒカリ様は今後、どの様な生活を考えているのですか?」



突然そんな事を聞かれて少し驚いたが、僕の人生設計はぶれる事はない。



「基本は生活資金を冒険者で稼いで、いつかもっと静かな場所でスローライフしながらパーソナリティ・・・・・いや、番組の【ゴースト】をずっとやっていたいかな。」


「そうですか。それでしたら、まずはもっと資金を貯めないといけませんね。」


「だよなぁ。」




どこか静かな所へ移り住むのにもお金がいる。レインが使徒になって、その眷属を含む四人が衣食住のお金がかからないといっても、出来るだけ一緒に食事はしている。だから一人の時よりはお金がかかるし、今は貯蓄も出来ていない。そんな時があるかどうか分からないけど、僕のスキルであと使徒が11人増やすことが出来るのだ。もし仲間が増えた時は、家も大きくないと住めないだろう。




僕が少し考えているとレインが続ける。



「それで提案なんですけど、【ゴースト】様の特別な商品を売り出すというのはどうでしょうか?」


「特別な商品?」



要は番組【ゴースト】のグッズ販売か。いつかはやりたいとは考えていたけど。



「グッズ販売かぁ。・・・・・売れるかなぁ。」


「凄く売れると思います!!!」


「おっ、おう。」



興奮しながら、めちゃめちゃ顔を近づけてくるレイン。



近いから!



「それでもなぁ。何のアイテムを販売するかだけど、今の所思い浮かばないんだよなぁ。」


「フフッ♪ 何を言っているのですか?」



少し小馬鹿な感じで言ってくるレイン。


何だろう。ちょっとムカつく。



「【ゴースト】様といったら・・・・・やはりコレです!!!」



そう言うと、いつの間に地下の壁に掛けてあったキャップを持ってきたのか、嬉しそうに被る。



「【ゴースト】様のコートも捨てがたいですが!やはり私達リスナーが絶対に欲しいのはこの帽子です!是非!是非ともっっっ!!作って売りましょう!!!」


「おっ、おう。」




瞳の光が突然なくなり、恍惚した表情で僕を見つめながら話すレイン。



ちょっと怖いんですけど。



これ。却下したらダメなやつだ。



しかも近すぎ。超絶美人のレインが目と鼻の先にいるのは心臓に悪い。




僕は自然に両肩を掴んで優しくレインを離す。



「あ~。分かった、分かった。それじゃ、キャップを販売してみるかぁ。・・・・・まずは製造販売の確保からだな。」


「製造販売のルートの確保は、わたくしにお任せください!もう既に考えていますし、商品も真似できないように唯一無二の帽子を大量生産してみせます!!!」


「おっ、おう。」



離したのにすぐに近づくレイン。



だから近いって!



押されて結局レインに一任する事にした。





話が終わったのでレインは影へ、僕はベットへともぐりこむ。


・・・・・とりあえずは準備も整ったから、ダンジョンに行って地道に稼いでいくか。





僕は静かに目を閉じた。







影の中。




「キャァァァァァァァァァァァァ!やったわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!遂に!遂に!!私達リスナーの【証】が出来りゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」






一人の美しい女性が奇声をあげていた。






-------------------------------------------------------






「ありがとうございました。」



俺は、『マリオン』にある一番の大商会の当主と握手する。



「いやはや、貴方はまだお若いのに素晴らしい手腕をお持ちだ。どうですか?今度ゆっくり話をしませんか?」


「お誘い頂きありがとうございます。ですが、これからすぐに『アーツ帝国』へ商談に行かなければいけませんので。・・・・・今後ともよろしくお願い致します。」



商談が終わり、大商会の館を後にする。






俺の名前はアルフィン。


世界を股にかける商人だ。



ある国の大商会の父上から様々な事を学んだ後、独立する為に15才で家を出た。



あれから五年。


自分の持っている恵まれたスキル【鑑定】を使いながら、世界中を飛び回って様々なパイプを作ってきた。



路地に入って自分の小さな店へと戻ると、次の旅の準備をする。



俺は根っからの商人の為、基本、人を信用しない。




『まずは人を疑え』




これが最初に父上から教わった事だ。



いつかは父上以上の・・・・・いや、世界一の大商会を作るのが俺の夢だ。


その為なら、人を蹴落とし、自分がのし上がるのをいとわない。




でも、四年前に偶然出会った男・・・・・ヒカリ。


不思議な雰囲気を持った青年だった。そして話せば話す程に惹かれた。今まで人を信用しなかった俺がだ。




すぐに色々と面倒を見る様になり、この国の証明書なども手配してあげた。


だから友達になるのは早かった。


世界中を旅していて忙しい俺だが、月に一度は友に会いにこの国へと来ている。



「フッ。何故かほっとけねぇんだよな。」



準備しながら思わず苦笑いをする。



この間彼に売ったショートソード。1本100万ゴールドの品物と言ったが、実は更にその10倍の1,000万ゴールドの【黒龍の牙】の素材を使ったレア物だ。それを10万ゴールドで売るなんて赤字もいいところだ。




すると、路地裏にある、めったに客がこない小さな店の扉が開く。



見ると、そこにはとても美しい銀の髪の女性が立っていた。



「あっ。いらっしゃいませ。すみません。もう閉店なんですが・・・・・。」



真っすぐに俺の方まで来ると、彼女は言う。


「ねぇ。貴方は確かアルフィンね?・・・・・貴方、【ゴースト】様公認のグッズを販売をしてみない?」




!!!!!!!!!!!!!!




その名前を聞いて目を見開く。






【ゴースト】。



その名前を知らない者は、この大陸ではほとんどいないだろう。



若者から老人まで。



いたる所にリスナーがいる・・・・・いや、信者というべきか。



曰くカリスマ。



曰く王。




自分も商人だ。もちろん妄想した事はある。



あの御方の商品を独占で売れる事が出来たら。



夢が一気に近づくと。




俺は真っすぐに彼女を見て答える。


「・・・・・その話。是非続きを聞かせてください。」






瞳の光がなくなった二人は、すぐに話を始めた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る