第17話 パーソナリティ3


僕はこの三年間で、【マスターキューブ】の可能性や性能を色々と探って来た。そしてある程度は扱えるようになってきていると思っている。



放送時に届くお便りの量が膨大に増えているので、この番組も結構な数の人が聞いてくれて、リスナーも増えていると感じている。なので、突発的に発信している雑談放送はどうしようもないが、ちゃんとした番組をやる時は、発信する一日前に『【キューブ】の一マスをオレンジ色に光らせる』とリスナーに言ってあるのだ。




「へぇ~。アルフィンも【ゴースト】を聞いているんだ。」


「当然だよ!ヒカリは聞いてないの?今話題の【ゴースト】を聞かないなんて、話題に乗り遅れるぞ?僕が商談している相手とは、必ずと言っていい程話題に出るからさ。」



「へっ、へぇ~。そうなんだ。んじゃ、僕も聞いてみようかな。」


「面白いから絶対聞いた方がいいよ。」




驚いた。



リスナーが増えているとは思っていたけど、ここまでとは。



マジで嬉しい。



やりたかった夢の様な職業が、軌道に乗り出すと気分がいいよね!




「それで?今日はどうしたの?」


「あぁ。この間の討伐の時に武器を破損してしまってさ。新しい武器を買いに来たんだけどある?」


「そう言う事ね。ちょっと待ってて。この間『アーツ帝国』に行った時に、良さそうな武器を手に入れたんだ。」



そう言うと、カウンターの後ろにある大きな箱の中をゴソゴソとし始めた。



「これなんかどうかな。」



カウンターの上に出されたのは二本のショートソード。



僕はその一本を手に取る。


今までのダガーに比べると刀身が倍位あるな。これならそこまで重くないし、攻撃可能範囲も広がる。



「いいねぇ、アルフィン。分かってんじゃん。」


「でしょ?なるべく危険を冒さないでモンスターを討伐したいって言っていたからさ。ダガーより少しでも刀身が長い武器の方がいいと思ったんだ。」



「んで、これいくらするの?」


「素材が素材だから、一本100万ゴールド。」


「100万?!」



とてもじゃないが無理だ。貯金は少しはあるけど、それはいざという時の為に使いたくない。



「ハハッ。まぁ無理だと思ったからさ。友情価格で一本10万でいいよ。」


「10万?」



言い値の10分の1だ。



「僕はこう見えて結構稼いでてさ、これ単体だと赤になっちゃうけど、渋って友達に死なれたら困るしね。いつか出世したら気持ち分を払ってくれたらいいよ。」


「友よ!!!」




僕はアルフィンに抱きついた。






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「さて。ぼちぼち始めますかね。」



首に貼っているシールを剥がし、黒のロングコートを羽織り、黒のキャップを深く被った僕は、地下室の中心にあるテーブルの上に置かれた【マスターキューブ】を見ながら呟く。



「・・・・・つ~か君達は何をやっているのかな?」



少し離れた壁際に、レイン達四人が並んで正座している。・・・・・目をキラキラさせながら。



「私達はヒカリ様のリスナーです!この神聖な場所で直に見れるのです!あぁ!!!何という感動!!!」



三人もコクコクと高速で頷いている。



「そっ、そう。まぁ、喜んでくれて嬉しいよ。それじゃ始めるから黙っててね。」



前世のラジオ番組も、ファンがガラス越しに観覧しているシーンを見た事がある。


いつかリスナー達が来れて公開出来たら最高だし、気持ち良さそうだな。



そう思いながら【マスターキューブ】の金色に光っているマスを押した。






「よう!皆!俺の声が聞こえるか?!・・・・・・・さぁ、今日も始めるぜっ!!!!」






始めると同時に、どんどんとお便りが届く。


そのお便りをピックアップして軽快に読み始め、答える僕。それに対して反応してくれるリスナー達。



リスナーと感じるこの一体感。



マジで楽しい。



夢だったこの職業。


生きている間は出来るだけ続けていきたいと思った。




「さて!次のお便りを読んでいくぜ。」



今回は事前にお便りをチェックして、深刻な物はなるべく外している。毎回そういった物を読み上げるのも精神的にきついからね。・・・・・でも、これは読み上げないわけにはいかなかった。






『ペンネーム/ち~ぱぱ   ゴースト様。いつも楽しく娘と拝見しています。娘が【死神憑き】であと余命が少ないのです。どうか・・・・・どうか娘の大ファンのゴースト様から励ましの御言葉を頂戴いただけないでしょうか。』






「おう!またヘヴィなのが来たな!【死神憑き】?それは病気か何かか?知っているリスナーは教えてくれ!」




『ペンネーム/魔女っ子   それは大聖女の回復魔法も、最高級のポーションでも治らない死の病気です。』



『ペンネーム/ふぃあっち   徐々に体を蝕んで、苦しみながら必ず死ぬことからそう呼ばれています。』



『ペンネーム/じぇみ   傭兵仲間がそれにかかって死んだの見た事ある。酷い死にざまだった。』



・・・・・・・



・・・・・・・



・・・・・・・




どんな薬でも治らない?・・・・・僕がかかった末期ガンみたいな物か。



「そうか。治らない病気があるのか。・・・・・・・ち~ぱぱ!今、娘は聞いているのか?」



すぐにお便りが届く。






『ペンネーム/ち~ぱぱ   はい!聞いております!ペンネームの名前はち~ちゃんです!』






「おいおい!【ち~ちゃん】って言ったら、ち~ぱぱもそうだが、古参じゃねぇかよ!・・・・・よし、ち~ちゃん!よく聞いてくれ!・・・・・いいか?俺からの言葉は前もそうだが、一つだけだ。・・・・・『がんばれ』!!!・・・・・ち~ちゃん。とにかく『がんばれ』だ!!!」




僕が余命半年と聞いて苦しんでいた時。



『病気と向き合え。』


『病気に負けるな。』


『病気と闘え。』



そんな言葉をSNSでよく貰ったし、本でも見かけた。



自分と向かい合うのは大切だけど、苦しい時に一番救われたのは・・・・・・・・・『誰かの為に頑張る事』。




僕は続ける。



「ち~ちゃんには大好きで、大切な人はいるか?」






『ペンネーム/ち~ちゃん   パパだよ!世界で一番大好き!(体が動けないので代打ちしてます。/ち~ぱぱ)』






「そうか!・・・・・なら、世界で一番大好きなち~ぱぱが、ち~ちゃんが弱っていたらとても悲しむだろ?だから悲しませない為に・・・・・・・ち~ぱぱの為に『がんばれ』!!!!!」



前世で心配してくれた彼女の・・・・・妻の為に一日でも長く生きたい、頑張りたいと思った。



それが僕にとっては一番の薬だった様に思う。




励ましのお便りが続々と届き、僕はすぐに開封する。



『ペンネーム/ゆーり   がんばって!』



『ペンネーム/魔女っ子   ち~ちゃんがんばれ!』



『ペンネーム/じぇみ   がんばれ!がんばれ!』



『ペンネーム/ふぃあっち   少しでも元気になれるようにお祈りします!』



『ペンネーム/ろーど   我もリスナー仲間を何とかしたいが、すまん。がんばれ!』



・・・・・・・



・・・・・・・




「ハッ。ち~ちゃん。聞いてるか?リスナーの皆も応援しているぞ?・・・・・いいか!どんなに辛くても!どんなに苦しくても!ち~ぱぱの為に『がんばれ』!!!俺の大事なリスナーだ!もちろん応援する!・・・・・ち~ぱぱ!悪いが後で居場所を送ってくれ!・・・・・ち~ちゃん。俺が元気を届けるまで、絶対に頑張るんだぞ?約束だ!!!」






『ペンネーム/ち~ちゃん   がんばる!パパの為にがんばるよ!』






「よく言った!・・・・・ちと熱くなっちまったな。それじゃ、次行くぜ。」






今日もめちゃめちゃ盛り上がった。






【マスターキューブ】のマスを押して放送を終了すると、僕はその場で伸びをする。



「ん~!今日もやりきった!・・・・・何で泣いてるんだよ?」



壁際で大人しく正座しながら聞いていた四人。


何故か全員号泣していた。



「ビガルざまぁぁぁぁぁ。ぢ~ぢゃんが・・・・・ぢ~ぢゃんがぁぁぁぁぁぁ。」



言葉にならない声を出すレイン。



「ハハッ。」



ここまでリスナーが感情移入してくれたのは素直に嬉しい。それだけ番組構成も成功していると思っていいだろう。身近でリスナーの反応を見れるのは、良し悪しの判断がつくのでいいのかもしれない。



立ち上がると、レインに言う。


「さて。聞いていた通り、僕はち~ちゃんを励ましに行きたいと思う。え~と・・・・・『オーメン国』か。知ってる?」



さくらが答える。


「はい。この大陸の中央付近にある小国です。」



流石さくら。時間がある時にはずっと資料館に行っていたからな。この世界の事は大体知ってそうだ。



「よし。それじゃ・・・・・。」


「お待ちください。まずは我々が行って【ホール】を開けてきます。」


「ホール?」



レインが説明する。


【ホール】はレイン達のスキルで、一度眷属がホールを開けると、レインがいる所まで繋がり、今後行き来が可能になるらしい。一人の眷属で3ヶ所ホールが開けられるとの事。



なにそれ?すごく便利じゃん。



「なので、まずは私の眷属に行ってもらって、【ホール】を開けさせます。それでよろしいですか?」


「よし。それじゃ、よろしく頼むよ。」



「さくら。しずく。サスケ。この場所へ・・・・・我らが同志のち~ちゃんがいる家へ向かってちょうだい!」


「はい!」「了解っす!」「御意。」



三人は返事をすると、黒い砂となって消えていった。




同志?



何言ってんだかちょっと分からなかったので、とりあえずスルーした。









ヒカリは知らない。



『がんばれ』と言った時に、世界中のいたる所で、叫び声と泣き声がしたのを。




ヒカリは知らない。





・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・・・・






ヒカリ信者更に増幅中。


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