第15話 狩り
綺麗な満月。
夜空は星々の輝きと相まって、森を優しく照らしていた。
『古の森』。
夜は夜行性のモンスターや魔物が動く時間。昼に比べて夜の方が凶暴なモンスターが多く、視界も狭まる為、冒険者はダンジョン以外の外での夜の探索はしない。
その為、夜は普通なら静かなものだが、今日ばかりは違っていた。
モンスターが。
魔物が。
魔獣が。
『古の森』に棲む全ての者達が逃げまどっていた。
ゴブリンの様な弱いモンスターからミノタウロスやドラゴンの様な強いモンスター。更にまだ発見されていない凶悪なモンスターまで。
等しく逃げていた。
恐怖。
恐怖だ。
三人の銀の髪をした男女が歩いて行く。
星々の輝きに照らされ、銀の髪がとても美しい。
モンスター達はその三人に襲う事さえ。・・・・・いや、動く事さえ出来ない。
体から漂う、その圧倒的な恐怖の前に。
歩くと、その半径100メートル程のモンスターや魔物達が次々と殺されてゆく。
何をされたのかも分からない。
その三人を視認した瞬間に絶命していた。
巨大なドラゴンでさえも。
そのまま三人は、蹂躙しながら奥へ奥へと歩いて行く。
そして、冒険者達がまだ到達していない未知なる奥地へと足を踏み入れる。
最奥の洞窟で目を閉じていたモンスターがゆっくりと目を開くと、いつの間にか目の前に男女を従えた美しい銀の髪の女性が立っていた。
『ほう。・・・・・これは珍客だ。・・・・・久しいなレイン。もう死んだとばかり思っていたが、まだ生きていたとはな。』
「フフッ。古竜・・・・・エンシェントドラゴン、ギジナー。貴方の王は今も元気?」
『フン。貴様に教えるわけがなかろう。・・・・・それで?この森で死ぬ運命の貴様が何故五体満足で生きている?』
レインは両手を掲げると嬉しそうに叫ぶ。
「私はね!救われたの!!あの御方に!!!・・・・・もう・・・・・もう、この体も心もあの御方の物なのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
突然の叫び声が洞窟に響き渡る。
『・・・・・チッ。誰だか知らないが、史上最悪の厄災を蘇らせるとはな。』
ギジナーはゆっくりと立ち上がる。
その強者のオーラはもの凄く、この洞窟には他のモンスターが一切近寄らない。
それを平然と眺めているレイン。
『それで?ここまで何しに来たのだ?まさか昔話に来たわけではないのだろう?』
「フフッ♪ 実は今、私は魔石を集めているの。貴方ほどの者ならさぞ素晴らしい魔石が手にはいると思ってね♪」
エンシェントドラゴンは咆哮を上げる。
地面が揺れ、空気が震える。
『貴様が最強、最悪だったのは遥か昔の事!復活したのなら、この我が引導を渡してやろうではないか!!!』
「・・・・・フフッ♪」
レインは微笑むと、ゆっくりと右手を上げた。
ゾクッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
一瞬。
ギジナーは止まる。
レインが右手を上げた瞬間。
凍る。
心が凍る。
恐怖。
恐怖した。
遥か昔から絶対強者として生きてきた己が死を感じたからだ。
『おっと。ちょっと待った。』
恐怖で動けない我は、その声の先を見ると、首から上がない黒の着物を着た男が立っていた。
ヒカリが一度遭遇した天災級と呼ばれているモンスター・・・・・ノーフェイス。
「・・・・・あら。これはまた久しぶりね。貴方も生きていたのね。」
『君程じゃないさ。・・・・・レイン。この森で暴れ過ぎだ。流石にこれ以上は看過できないな。・・・・・まだ暴れるというのなら、私が相手になろう。』
そう言うと、腰にある刀の柄を握る。
それを見たレインは上げた右手を下げる。
「フフッ。私はまだ全開ではないの。貴方とそこにいる古いトカゲと同時にやり合うには、少し面倒かしら。力の半分しか使えない貴方とやり合っても面白くないしね。さくらとサスケをだしてもいいけど・・・・・やめておくわ。ここまで来る間に十分魔石も手に入れたし。・・・・・それじゃ、またね♪」
そう言うと、そのまま頭から砂の様に崩れていき、黒い砂となって洞窟の外へと消えていった。後ろにいる二人と共に。
黙ってその様子を見ていたノーフェイスが言う。
『ギジナー。竜の王に報告をしてくれ。』
『分かった。・・・・・それで【アルメリア】はどうするのだ?』
『・・・・・。』
アルメリアと呼ばれた首から上がない男は沈黙する。
『フン。語らぬか。まぁいい。我の命を救ってくれたのは事実だ。ここを出て王に報告に行くとしよう。』
ギジナーは数十年ぶりに大きな羽を広げると、結界をすり抜けて『古の森』の外へと飛び立っていった。
飛び立つ様子を洞窟の外から見上げていた首から上がない男は、いなくなるのを確認すると歩き始める。
『さて。レインが復活してどうなるか。・・・・・暫くは様子見だな。』
そう言うと、そのまま黙ってこの場から去っていった。
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「ほっ。ほっ。ほっ。」
早朝。
朝早く起きた僕は、いつもの様にこの大きな『マリオン』の街を走っていた。
この朝の走り込みは鍛える事が目的だが、それ以上に汗を流してリフレッシュ出来るのが大きい。
「ちょっと何してんすか。待ってくださいよぉ。」
「・・・・・何で付いてくるんだよ。」
いつの間にか僕の影から出て来て一緒に走っている、しずく。
やっぱり夢じゃなかったんだ。
昨日は僕のスキルで初の使徒第一号が誕生するわ、その眷属が仲間になるわで大変だった。
とりあえずは、また準備を整えて魔石の調達をしないと。
今の僕の寿命は1年。使徒になったレインも同じ寿命だ。
せっかく助かったのにすぐに死んだら流石に可哀そうだ。
「ほっ。ほっ。・・・・・でもまずは、武器を買いに行かないとな。」
走りながら僕は呟く。
この間の『古の森』で武器として使っていたダガーが、予備も含めて全て破損してしまった。
まぁ、まだ寿命は一年あるんだ。
E級冒険者にもなれた事だし、しっかりと準備を整えてからまた行こう。
とりあえず暫くは、体の疲れを癒して軽い依頼をこなそうと思っている。
今後の事を考えながら走っていると、いつの間にか自宅の前だった。
「ふぅ。いい汗かいた。」
家の中へと入ると、風呂で軽く体を洗ってから朝食の準備だ。
「しずく達は料理を食べたりするの?」
「う~ん。知っての通り、魔力で栄養をとってるから正直食べないっすね。食べられない事はないっすけど、食べてもすぐに消滅するから、味だけ楽しむ感じの娯楽っすね。」
「そっか。でも、せっかくだから一緒に食べようよ。」
「いいんすか?」
笑顔で頷く。
せっかく仲間が出来て一緒にいるのだ。食卓は賑やかな方がいい。
僕は二人分の朝食を用意していると、家の扉が開いて嬉しそうに三人が入ってくる。
「ただいま帰りました♪」
「おかえり。」
みんなが帰って来たので、五人分の朝食に切り替える。
今回は消えないでちゃんと扉から入って来た。
偉い偉い。
「それで?急にいなくなったけど何してたの?」
台所の火を一旦止めると、ニコニコしているレインに尋ねる。
「はい!魔石を集めに森に行ってました。」
「えっ?森って、レイン達がいた所の事?」
「はい♪」
夜の『古の森』はかなり危険だ。
冒険者はまず行かない。
「大丈夫だった?」
僕は心配しながらレイン達三人の体を見ながら触る。
「あん♪・・・・・ヒカリ様に触って頂いて元気満タンですぅぅ!!!」
さくらとサスケもコクコクと頷いている。
そんなつもりで触ったわけじゃないけど、傷一つない綺麗な体だ。
「とりあえずは無事でよかった。・・・・・それで魔石を集めに?何で?」
「決まっているじゃないですか!失ったヒカリ様の寿命を延ばす為ですよ!」
あ~。それでモンスターを狩りに行ったのか。夜の危険な森に。流石に引き返してきたようだけど。
「僕の為にありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。・・・・・それじゃ、皆で朝飯を食べようか。」
「えっ?ちゃんと魔石は取れましたよ?」
「そうなの?」
「ハイッ!」
レインは嬉しそうに僕の手を引いて、外に出る。
「・・・・・・・・ナニコレ。」
僕は見上げて思わず声を出した。
小さな自宅の庭にあったのは、山の様に積まれていた大量の魔石だった。
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