第13話 レイン=シルバー
『古の森』。
その中にある小さな神殿。
強力な不可視の結界が張られているこの神殿。設置されている転移魔法陣から、いつもの様に監視する為に来た兵士二人が現れる。
二人とも地下にある鉄格子のある小さな牢屋の前で佇んでいた。
「おい。・・・・・いないぞ。」
「・・・・・だな。そういう事だろ。もうすぐだと、元老院の御方が言っていたんだ。その時が来たんだろうよ。」
目の前の牢屋の中には、数日前までいた芋虫の様な物体が消えていた。
兵士が格子を触る。
「消滅すると同時に、強力な結界もなくなると言っていたからな。これで俺達の仕事は終わりだ。」
「そうか~。見張りだけの楽な仕事だったから良かったんだけどな。」
「まぁ、そう言うな。俺達は説明を受けていないから分からんが、一応、この世界の危機が去ったんだ。さっ、帰ろうぜ。」
兵士達二人は、神殿の外へと出ると、魔法陣の横にはめ込まれている石を外し、すぐに魔法陣の上に乗る。
床が光ると兵士達二人は消えていった。
数分後。
ゆっくりと砂の城が崩れる様に神殿がなくなっていく。
そして最後はただの平原と化した。
不可視の結界と共に。
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数万年前。
まだ国と呼べる物がない混沌とした時代。
五人の別々の種族達が、広大な平原に立っていた。
その周りには、様々な種族の死体が大量に転がっており、平原は焼かれ、焼け野原となっている。
「何故!・・・・・何故だ!!!何故裏切った!!!」
上空で巨大な光の十字に、キリストの様に拘束された、銀の髪をした美しい女性が叫ぶ。
「流石だな。天上の頂点たる大天使の私や、魔の王、竜の王が行使している大魔術を受けてなお話が出来るとは。」
大天使が言うと、遮る様に見上げていたハイヒューマンの男が答える。
「すまないな。レイン。確かに約束した。二人でこの世界を滅ぼして新しい世界を創ろうと。だがお前は・・・・・やりすぎた。」
この世界にいる種族の半数以上をこの女が虐殺した。
あまりの暴力。
あまりの破壊力。
あまりの恐怖。
男は続ける。
「民がいなければ、統一した新しい国がつくれないだろう。だから、他の種族の王と協定を結ぶ事にしたのさ。レイン、お前をどうにかする事を条件に、この地上の大部分を俺が貰うという事でな。・・・・・なに、殺しきれなかったお前の幹部達も寂しいだろうから一緒に封印してやる。そこで魔力がなくなるまで永遠と過ごすがいい。まぁ、暴れられないように両手両足はこの【神殺しの剣】で斬らせてもらうがな。」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
レインは叫ぶ。
この世界はあまりにもつまらなかった。
私に逆らう者などは存在せず、日々過ごすだけ。
たまに暇つぶしに他の生物を殺したりしていたが、何の面白みもなかった。
そんな時に持ち掛けてきたハイヒューマンの男。
『新しい世界を創ろう。』
魅力的だった。
何もやる事がない私にとっては。
「ローレット。」
「はいは~い♪ 呼んだかな~?♪」
後ろにいた可愛らしい少女が、男の横に現れる。
「始めてくれ。」
ローレットは拘束されている私の前まで来ると、ブイサインを横にし、片目の前に出して楽しそうに話す。
「ごめんね~♪ レインに恨みはこれっぽっちもないけど~♪ 報酬を貰っちゃたからね~♪」
そう言うと極大魔法を行使した。
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何年月日が流れただろうか。
1万年?・・・・・それとも2万年?
もうどれ程経ったのか分からない。
長い時を経て、徐々に体を維持している魔力が減っていく。
私は不老不死。
食べ物がなくても生きていける。
魔力さえあれば。
体の自由を奪われ、膨大にあった魔力が底をつきかけている。
もう諦めていた。
最初はあの男を八つ裂きにして殺したいと憎んだが、長い年月が経つにつれて、もうどうでもよくなった。ハイヒューマンの寿命はエルフと同じで2,000年位。どうせもうあの男も生きてはいないだろう。
両腕両足を斬り捨てられ、徐々に朽ちていく体。
死ぬことも出来ない私は、考える事をやめ、眠りについた。
そんな時だ。
あの御方の声が聞こえたのは。
『よう!皆!俺の声は聞こえるか?』
声を聞いた瞬間。
覚醒した。
何故か分からない。
薄っすらと目を開くと、そこには二人の兵士が、テーブルに四角い物を置いている。
そこから映し出されている顔が見えない男。
その男から発せられる声。
今まで聞いた事がない程の、とても澄んだ声。
優しく。
とにかく優しく。
心に響き渡る。
私に精神系の魔法の類は一切効かない。
でも惹かれた。
とにかく惹かれた。
そして初めての感情。
聞いていて。
楽しい。
楽しいのだ。
私の眷属達も同じ様だ。
気づくと夢中になっていた。
こんな事など、数万年生きてきて今まで一度もない。生まれた時からつまらなかった人生。あの男からの誘いも興味は惹かれたが、こんな感情は生まれて初めてだった。
それからというもの、私は兵士達が来るのを今か今かと待っていた。数万年生きてきた私にとって、ほんの一瞬の三年間。でもその三年間がとても愛おしい。
そんな時に現れた青年。
澄んだ瞳で私に問いかける。
『生きたいか?それとも死にたいか?』
生きたい。
そしてずっとあの御方の声を聞きたい。
初めて思った。
私は目を閉じず、意思表示をする様に、ずっと青年を見ていた。
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命を救ってくれた青年の影の中に入って私は驚く。
魔力が溢れんばかりの量。こんな魔力量は見た事がない。あの大天使や魔の王、竜の王。そして私でさえこんな魔力を持ってはいない。・・・・・あえて言葉にするのなら。
無限の魔力。
私を救ってくれた命の恩人。魔力を枯渇させないように気をつかったが、これなら遠慮せずに魔力を食べる事が出来る。
この青年の魔力は、今まで味わった事がない程に美味しかった。
魔力がなくなりかけた小さな体だった私は、魔力を大量に食べ、急速に元に戻っていく。
青年の影の中は本当に居心地がいい。
暫くして、影の中でほぼ元の体に戻った私は、今後どうするか考え始めると、声が聞こえる。
『よう!皆!俺の声は聞こえるか?』
時が止まった。
あまりの衝撃で。
ゆっくりと影の中から青年を見る。
黒のロングコートを羽織り、黒のキャップをかぶっていた。
あぁ!
あぁ!!!!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
これは運命!
運命なのですね!!!!!
私は影の中で、神に祈る様に両膝をつくと両手をギュッと合わせる。された事はあったが、自分は絶対にしないと思っていたポーズ。
そして恍惚の表情をしながら私は叫んだ。
「【ゴースト】様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
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