第11話 パーソナリティ2



「ヒカリ君。」




私は受付のカウンターで呟く。


誰もいない冒険者ギルドの広いロビーは、静寂に包まれていた。



「・・・・・帰ってこなかったわね。」



私は心配で居ても立っても居られず、一晩をギルドの館で過ごした。


いつ戻ってきてもいい様に、扉を開けて分かる様に灯りを付けて。



だって家に帰ってもどうせ眠れないから。


ならせめて、もしヒカリ君が戻ってきたらすぐに対応できるように、ずっと受付で座っていた。



開けている入口から見える外は、光が差し込んでいる。



もう朝だ。



するとまだ始まる時間ではないのに、一組のパーティが入ってくる。



『獣の誓』。



真っすぐに私の前まで来る。



「グリーミュさん、皆さん、おはようございます。お早いですね。」


「ふん。レイナ程じゃないさ。どうせ、一睡もしてないんだろう?」



「『獣の誓』の皆さんも同じ様なものでしょう。・・・・・まだ帰ってきておりません。」


「そうか。」



グリーミュは一瞬暗い顔をするが、すぐに元の顔に戻ると、仲間を見る。



「いいな?」



「ええ。」


「もちろん。」


「うん。」



仲間に確認を取った後に、私の方を振り返ると言う。


「これから俺達『獣の誓』は『古の森』に行く。何か手頃な依頼はないか?」



私は、すぐにカウンターの上に依頼書を置いた。それは夜中の内に何十枚も作っておいた依頼書。


「ある冒険者の探索。そして救助です。成功報酬は後程、ギルドマスターに確認してから公表します。そして、これから来る冒険者達にも依頼書を配ろうと思っています。・・・・・お願いできますか?」



グリーミュは置かれている依頼書を取ると、そのまま入口の方へと歩き始めた。



「当然だ。・・・・・行くぞ!!!」


「「「 おう! 」」」




「あの~。」




突然、間の抜けた声が、ロビーの隅から聞こえる。


私も『獣の誓』も動きを止めた。



皆、唖然とした顔をしてその声の主を見ていた。・・・・・私も含めて。




「何かあったんすか?こんな朝早くからやってるし、グリーミュさんや皆さんもいるし。」



固まっていると、嬉しそうにそのまま私の方へと来て、魔石を取り出しカウンターの上に置く。



「まぁいいや。レイナさん!オーガ倒しましたよ!これで僕もE級に昇格ですよね?あっ、そうそう、あとあのパーティ・・・・・確か『五の翼』でしたっけ!帰って来ました?色々あって、帰ってこれたか心配なんですよ!・・・・・ん?どうしたんすか?皆固まって。」


「「「「「 馬鹿野郎!!! ばか!!! 」」」」」




『獣の誓』が目に涙を溜めながら、ヒカリ君を抱きしめる。




「なっ、なんすか、なんすか?ちょ、ちょっと・・・・・ご馳走様です。」



ヒカリ君は急に抱きつかれて戸惑っている。最後の声は聞き取れなかったけど。


私はその光景をみて、自然と涙がこぼれた。


『獣の誓』の皆さんは姉貴分として、涙を流すのを堪えているみたいだけど。



緊張の糸が、疲れが、一気にとれる。



涙が止まらない。



うれし涙が。






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「いや~。大変だったな。」



空を見るともう夕方だ。



あの後、達成報告を終えると、レイナさんから説明を受けた。


結構大事になっていたみたい。



レイナさんや『獣の誓』の皆さんに心配をかけてしまった。


戻ったらすぐに報告をするべきだったな。



でも、芋虫達を助けるのが先決だったから、その後だと、もう開いていないと思っていたからなぁ。



その後は、『五の翼』が現れてとても感謝されてしまった。特に負傷したアニーさんには泣いて感謝され、リーダーのダニエルさんはお礼で結構な額のゴールドを渡そうとする始末。・・・・・丁重に断りましたけどね!



それからは、E級昇格の手続きと、その祝いにと、『獣の誓』に半ば強引に飲み屋に連れて行かれて、かなり飲まされた。いや、めでたい事だからいいんだけどさ。しかも奢ってくれたし。流石姉御達太っ腹!何故か珍しくレイナさんも来てくれて祝ってくれたのが結構嬉しかった。あと、いつも物静かな剣士のイーシャさんが、ずっと隣で嬉しそうに話しかけてくれたのには驚いたなぁ。




「ふぅ。気分がいいねぇ。」



フラフラと歩く。



夕風が気持ちいい。



こうやって、好きなだけ飲んだ後の帰り道はいいよね!



サラリーマンの気持ちがよく分かる。




「ただいまぁ~。」



自分の家に帰ると、誰もいない居間へと入り、そのまま地下へと下りていく。


そして壁に掛けてある黒のロングコートを羽織り、黒のキャップをかぶり、首に付けているシールを剥がすと、椅子に座ってテーブルの上に【マスターキューブ】を置いた。




こういった気分がいい時は、そのまま寝るのは勿体ない。



週に一回は、お便りを読んで答えるスタンダードの番組構成をしているが、他は気分によって不定期に、短い時間を放送したりしている。



その時はいたって普通の雑談放送だ。


魔力を注いだ後に、キャップのつばを深く下げて、金色に光っている【マスターキューブ】のマスを指で押した。






「よぉ!皆!俺の声は聞こえているか?・・・・・今日は雑談放送だ。気楽に行こうぜ!」






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「ハハッ!今日は嬉しい事があってさ!酒飲んじまったよ!聞いてくれるか?皆!」



【ゴースト】となった僕は、【マスターキューブ】に向かって、目の前にいる友人や恋人と話す様に話しかける。



すると、連続して次々とお便りが届いた。




『ペンネーム/じぇみ   聞く!聞く!』



『ペンネーム/ち~ぱぱ   何があったのですかな?』



『ペンネーム/ふぃあっち   貴方様のお話ならどんな話でもお聞きします!』



『ペンネーム/ち~ちゃん   何何~♪』



・・・・・・・



・・・・・・・



いきなり始めたのに、結構食いつきがいいな。



最初の一、二年は一方的な発信だったが、この一年は僕が開いたお便りは、皆が同時に見れるようになっている。おそらくリスナーサイドは、僕の画像と一緒に右上にお便りコメントが見れるだろう。【マスターキューブ】・・・・・いや、父親が残した手紙サマサマである。



僕は酔いながら続ける。


「俺はさぁ。この【キューブ】で皆に【声】を届ける事が本業だと思っているのよ。でもさ、これだけだと食っていけねぇからよ、稼ぐ為に冒険者をやっているんだ。今日、一人前と言われているE級に昇格してさ。マジで気分がいいんだよ!」




『ペンネーム/ち~ぱぱ   おめでとうござます!』



『ペンネーム/ち~ちゃん   おめでと~♪』



『ペンネーム/じぇみ   ゴースト様冒険者やってるの?なら僕が教えるし。何なら僕が稼ぐよ?元世界一の冒険者だから。』



『ペンネーム/ふぃあっち   冒険者なんて危険な仕事はしないでください!わたくしが養います!』



『ペンネーム/ゆーり   私がゴースト様にお金を送ります!場所を教えてください!』



『ペンネーム/ろーど   世界をお主にやろう。それなら働かなくてよいだろう。』



・・・・・・・



・・・・・・・



「オイオイオイw 祝ってくれるのは嬉しいが、リスナー達に養ってもらうつもりはねぇよ。そんなの情けねぇだろ。」



何か世界をやるっていうイカれたコメントもあるが、無視だ無視。




「おっ?【ゆーり】ちゃんじゃないか!あれからどうだ?いじめられてないか?大丈夫か?」



僕はどんどん来るお便りの中から確認する。




『ペンネーム/ゆーり   はい!ゴースト様のおかげでリスナーが助けてくれて、いじめがなくなりました!本当にありがとうございます!』




よかった。



いじめがなくなったみたいだ。



でもリスナーが助けた?



たまたま学園にリスナーがいたのか?



その偶然はすごいな。



ゆーりちゃんは運が良かったのだろう。



僕は何もしていないけど、助けてくれたリスナーにはお礼を言っておくか。



「そうか。いじめがなくなったか。それは良かった。俺の大事なリスナーがいじめられるのなんて許せねぇからさ。・・・・・助けたリスナー共!ありがとな!!!あと、他のリスナー達もあの時に励ましてくれてありがとな!!!」



励ましの声は、文字で見るだけでも嬉しいものだ。



前世の病室で、同じ病気の人達とチャットをやった時の事を思い出す。



喜びや歓喜のお便りがひっきりなしに届くが、とりあえずスルーして、僕はその後も暫くリスナー達と雑談を楽しんだ。






・・・・・・・






・・・・・・・






・・・・・・・






ヒカリ信者増幅中。






















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