第10話 芋虫の様な生物



『古の森』の中央付近。



いつも休息している広場から、少し離れた大きな川辺にドラゴン達が集まっていた。



その集団を束ねているレッドドラゴンが、夕日に沈む太陽を眺めながら呟く。




『・・・・・何だったのだ。アレは。』




久しぶりに大好物の人間が現れたから、仲間を使って少し遊んでしまった。


すると、止めをさす前に忽然と消えてしまい、すぐに辺りを探したが、まるで見つからなかった。



他の魔物に横取りされたか?



暫く人間を探した後にそう思ったが、突然その人間が走っているのが見えた。


見つけたと喜び、すぐに人間の元へと向かおうとした瞬間。



突然空気が変わった。



息苦しく、鼓動が高まる。



我々は魔物の中でも上位の存在。もちろん、我よりも強い者はいる・・・・・が、ドラゴンたる高位の誇りを見失う事はなかった。



しかし。



今まで経験した事がない感情が、我を含む全てのドラゴン達を襲う。





【死】。





圧倒的なまでの【死】。





考えるよりも先に体が飛び立って、この場から離れる。



生物としての本能がそうさせた。



人間がいたあの広場の方から漂う圧倒的な【死】を前に。



レッドドラゴンは、川辺から更に遠く離れた巣まで戻ると、まだ震える体を仲間達に悟られない様に、静かに眠りに入った。






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「ふぅ。やっと着いた~!」



住んでいる街『マリオン』に着いた僕は、町外れの自分の家の前まで来ると、ホッとして思わず声を上げる。


空を見上げれば、星々が綺麗に見える。


もうすっかり夜だ。



「さて。どうするかな。もうギルドも閉める頃だろうし、報告は明日でいいか。」




今日は色々な事があった。



一人前のE級冒険者になる為に、オーガと戦って。



その後に、他の冒険者パーティを助けて。



逃がす事は出来たけど、僕は死ぬ思いをして。



最後には変な生物を連れてくる。



てんこ盛りの日であった。




レイナさんが心配してなければいいけど、流石にもう遅いし、まずはこの芋虫達を助けないといけないから、明日の朝一番で達成報告をしに行こう。




僕は家へと入ると、すぐに背負っていたゴザを床に置いて広げ、その中にいる芋虫の様な生物を一匹ずつ、大きなダイニングテーブルの上へと並べた。


テーブルの上に並べた後に、すぐに部屋に戻って装備していた防具類を脱いで、カジュアルな格好に着替える。


居間に戻って、芋虫の様な生物を一匹ずつ、ツンツンとつつく。




「お~い。生きてるかぁ~?」




呼びかけてもピクリともしない。



困った。



ここに来る途中に死んでしまったのか?



「・・・・・おっと。外すのを忘れてたな。」



僕は首に付いている、声が変わるシールを剥がす。


そしてもう一度、芋虫の様な生物に向かって声を掛けた。



「・・・・・おい。生きてるか?」




ピクッ!



ピクッ!



ピクッ!



ピクッ!




語りかけた瞬間に、四匹全員が目を見開いて僕を見た。


まるで、何かに驚いたかのように。



「おっ。良かった。まだ生きていたみたいだね。それじゃ、始めるよ。」



この芋虫達。


ここまで弱っていて、生物の形を成していないとなると、もう最上級ポーションや欠損レベルさえ治すことが出来る【大聖女】様の回復魔法でさえも治す事は出来ないだろう。




だが、僕なら出来る。




僕はテーブルの上に並べられている芋虫の様な生物に向かって、両手を前に出す。



・・・・・僕の【スキル】は寿命が見えて、魔石を【吸収】すると寿命を延ばすことが出来る。でも、ある時に別の使い方が出来る事が分かった。それは・・・・・。






「君達に、僕の寿命をあげよう。・・・・・【放出】。」





小さく、呟くように唱える。



両手から虹色の光が放出され、芋虫の様な生物を包み込む。


すると、芋虫達はみるみるうちに形を変えていく。




数分後。



目の前には、小学1年生位だろうか。


綺麗な銀色の髪。痩せた少女三人と少年一人が、ポカンとしながら裸でテーブルの上に座っていた。



僕は黙って見ていると、その内の一人。


芋虫の時に一匹だけ色が違っていた少女が口をひらく。




「・・・・・・・あ。」


「くさっっっっ!!!まずは風呂だな!!!」




それを遮る様に僕は言うと、少年少女を抱きかかえて風呂場へと直行する。


四人共狭い風呂場で座らせると、何回も何回も綺麗になるまで髪と体を洗ってあげた。



「・・・・・ふぅ。これで綺麗になったかな。」



全員綺麗にした後は、僕のTシャツを人数分用意して着てもらっている。皆小さくて、ガリガリに痩せているからTシャツだけでワンピースの様になっている。



「まっ。とりあえずはこれで我慢してくれ。」


「・・・・・あっ、あり・・・・・ありが・・・・・。」



最初に喋りかけようとした少女が、お礼の言葉を口にしようとするが、上手く口がまわらないようだ。



僕は優しく少女の頭を撫でる。


「ハハッ。久しぶりに元に戻ったんだ。喋れなくて当然だよ。無理しなくていいから。・・・・・まずはご飯かな?」



何も食べさせてくれなかったのだろう。


体は痩せこけていてガリガリだ。



すると少女は首を振って一言。



「・・・・・・ご飯・・・・・魔力。」


「魔力?君達のご飯は魔力なの?」



すると、他の三人の少年少女もコクコクと頷く。



魔力がご飯?



魔物やモンスターでも聞いた事がない。もちろん魔族や他の種族でもだ。


どの位必要なのだろうか。


・・・・・でも、僕は無尽蔵の魔力があるから問題ない。




「オッケー。それじゃ、僕の魔力をあげるよ。どうすればいいの?」



すると、少しだけ話せる少女が僕の影を指さす。



「・・・・・貴方・・・・・の影。・・・・・入って・・・・・いい?」


「影?僕の影に入れば、魔力を食べて回復できるって事?」



後の三人がコクコクと頷く。



「そっか。んじゃ、いいよ。ゆっくり休んできな。」



「・・・・・あ・・・・・あ・・・・・あり・・・・・がとう。」


「どういたしまして。」




僕が答えると、言葉を発した少女が僕の影の上まで来て、ゆっくりと沈んでいき、そして消えていった。その後に残りの三人も続く様に影の中に入って行き、消えていく。



少年少女がいなくなるのを確認すると、僕は大きく伸びをする。




「さ~て!とりあえずこれで落ち着いたかな!後は風呂に入って飯食って、ゆっくりと寝ますかね!」





僕は、目の前に映っているスキルを見ながら風呂場へと向かって行く。











『寿命/残り1年』









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