第7話 絶望
「おわっ!」
走りながら背後から迫って来たミノタウロスが、怒りの形相で斧を叩きつける。
素早くそれを右へ進路変更して回避。
・・・・・よし。大分距離を稼げたな。
これだけこいつを彼らから引き離せば、もう大丈夫だろう。『古の森』から出られるはずだ。
引き離す為に、僕は『古の森』の奥へと走っていた。
戦ったら勝ち目はないが、逃げるだけなら何とかなる。これから迂回して入口へと戻ろう。
迫りくるミノタウロスを後目で見る。
「【身体強化】二倍掛け。」
一気にスピードを上げる。
まさかの速さに、ミノタウロスは全力で追いかけているが、グングンと引き離される。
「はっ。逃げのとっておきさ!さいなら・・・・・・・」
ドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!
突然。
右から巨大な物が現れて、木を破壊しながら横殴りに僕を襲う。
「がっ!!!」
瞬間的に二本のダガーで受け止めるが、そのまま圧力で吹き飛ばされる。
飛ばされながら上手く回転して地面へと着地した。
見ると、二本のダガーは根元から上が粉々になってなくなっていた。
「オイオイオイオイオイ。」
見上げて思わず声が出る。
7mはあるだろうか。
巨大な体躯。鋭利な爪。そして何物も通さない強固な鱗。
【B】ランクモンスター。
ドラゴン。
B級以上。ソロではなく、複数人の冒険者パーティで対応するのが推奨されている、危険指定のモンスター。
ドラゴンは僕を見ると咆哮を上げる。
後から追いかけてきたミノタウロスは、すぐに引き返していった。
しまった。
逃げるのに夢中で、結構奥まで進んでしまったのか?
ふと周りを見渡す。
吹き飛ばされて、いつの間にか広場の様な開けた所に出ていたのだ。
「・・・・・嘘だろ?」
そこで僕は絶句する。
ドラゴン。ドラゴン。ドラゴン。ドラゴン。
そこにいたのは、二・三十匹はいるドラゴンの群れだった。
『Guaaaaaa!!!』
目の前のレッドドラゴンが踏み潰そうとする。
それを後ろに飛んで躱す。
ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!!!
どうする?これ以上は進めないし、迂回する事も出来ない。なら、来た道を戻ってまだミノタウロスを相手にした方がいいだろう。
僕は来た道を横目で見て、目を見開く。
そこには一人のモンスターが立っていた。
何もせずに僕とドラゴンを静観している。
一匹ではなく一人と言ったのは、人の格好をしているからだ。
黒の着物の様な物を着て、腰には一本の刀。首から上にあるはずの顔や頭がない。その名は。
ノーフェイス。
世界でまだ二度しか確認されていない【S】ランクモンスター。
天災級と呼ばれ、まだ討伐確認されていない魔物。
過去、A級冒険者パーティが全滅し、S級が遭遇して討伐出来ずに負傷を負って離脱したとされているモンスター。あまりにも遭遇率が低い為、そこまでの情報がなく、【S】ランク相当か、もしくはそれ以上かもしれないと言われているモンスター。
僕はモンスターや魔物の情報には詳しい。いざ何かあってもいいように、しっかりと勉強しているからだ。
このモンスターは特徴がありすぎて、勉強をしていない冒険者でも分かるだろう。
無理だ。
あのモンスターだけは絶対に無理。
人型だから、おそらくスピードもあるだろう。
逃げ切れるわけがない。
ドラゴンの群れに遠慮をしているのだろうか。それとも、ただ単にあまりにも弱い獲物がどうなるか鑑賞しているだけか。
レッドドラゴンを見上げる。
そして、その周りにいるドラゴン達を見る。
「・・・・・腹をくくるか。」
死にたくない。
だからこそ、一番の生還率が高いのはどこなのかを探っていた。
僕はドラゴンの群れの先にある木々を見る。
広場の先に見えるのは、森に相応しくない神殿の様な建物。
おそらく、ここはまだこの広大な『古の森』の中間位だろう。最奥までは未踏だが、中間位までなら踏破している上位冒険者はいる。
それでも聞いた事がない。
あんな建物があるなんて。
このドラゴンの群れを突っ切って、あの建物へと逃げ延びる。そしてモンスター達がいなくなったのを見計らってから、元来た道を戻る。
これが最善策だ。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・。」
刃物がないダガーを捨てると、予備の腰に刺さっている二本のダガーを抜く。
そして一気に駆けた。
目の前のドラゴン二体が腕を振る。
鋭利な爪が頭上から襲ってくる。
その先のドラゴン達も攻撃の準備をしている。
「【身体強化】三倍掛け!!!」
当たる瞬間。
消える。
更に加速したスピードに、ドラゴン達の目がついて行けない。
通常の身体強化魔法の三倍。
こんな使い方をする魔法は知られていない。
僕が戦闘で使えるのはこれしかなかったから。可能性を探って、自分が持っている無限の魔力を使う事で編み出した技だ。
苦しい。
呼吸が乱れる。
足が軋む。
鍛えていたが、それでも体がついて行けず悲鳴を上げる。
ドラゴンの足元をもの凄い勢いで駆け抜ける。
その動きについて行けず、ドラゴンは腕や尻尾を振るうが全て空を切った。
・・・・・もう少し!!!
神殿が近づく。
もうすぐこの広場を抜ける。
「ハッ!???」
急にドラゴン達が横へと避けはじめると、進路方向にいる三体のドラゴンが口を大きく開け、喉が赤くなっていく。
ブレスか!!!!!
反射的に蹴って横へと飛んだ。
そして一気に三体がブレスを吐く。
灼熱の大炎が広範囲で襲うが、身体強化三倍掛けで、大きく距離を稼げたおかげか、ギリギリでブレスを躱す。
ドドンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!
避けた先にいたドラゴンが、同時に僕めがけて腕を振るう。巨大な爪があたる瞬間に、二本のダガーを前に出して防ごうとするが、そのまま粉々に砕け、吹き飛んだ先に、もう一体のドラゴンが尻尾で襲ってくる。
吹き飛ばされて空中にいる僕は、砕けたダガーの柄をそのまま尻尾にぶつけて勢いを殺そうとするが、焼け石に水だ。
「ガッ!!!」
巨大な尻尾に激突し、バウンドしながら地面へと着地し吐血する。
「ガハッッッ!・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・あともう少し。」
広場が途切れる。もう神殿は目の前だ。
吐血し、頭や口からは血が流れるが、拭う事が出来ない。
先程の攻撃で、両腕が上がらない。
おそらく折れているのだろう。
もう少し。
あともう少しだ。
先程攻撃した二体のドラゴンがこちらへと向かってくる。
そして喉を赤くすると、口を開けて一気にブレスを吐いた。
「【身体強化】四倍掛けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
姿が消える。
叫んだ声が。体が。消えた後にこだまする。
瞬間移動の様に。
その場から。
青年が消えた。
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