第6話 古の森



「よぉぉぉし!着いたな!」




僕は広大な森を見渡す。


左から右まで、ずっと続く緑の大自然。


光り輝く太陽に照らされて神々しささえ感じる。



「さて。それじゃ行くか。」



僕は、鳥居の様な門から森へと入って行く。



この『古の森』に入る事が出来るのは、今通った鳥居のみ。



言い伝えによると、遥か昔に凶悪な魔物やモンスター達を森の外へと出さない為に、伝説と言われた大賢者がこの鳥居を建て、永続魔法でよほどの事でないと外へと出れない様にしたらしい。・・・・・他にも理由があったらしいが、それは僕達平民の知る所ではない。



まっ、入口が一つだし、鳥居がデカいから分かりやすくて僕達冒険者にとっては都合がいいけどね。



僕は入ると左斜めに歩き出す。



それは今まで左や右、中央など色々と手前付近を探索したけど、左側の方がゴブリン達が多く生息していたからだ。




『ゴブリンの先にオーガあり。』と、よく冒険者の先輩方に聞いていたので、その更に先を目指す事にした。




出来るだけ気配を消しながら、ゆっくりと先へと進む。


途中にゴブ達がいたけれど、今回は相手にしないでスルー。


初めて戦うオーガだ。出来るだけ万全の状態で臨みたい。



準備を怠る冒険者は早死にするとグリーミュさんによく言われたけど、僕も同意見だ。この世界で絶対に死にたくない僕は、慎重に慎重を期する様にしている。




・・・・いた。




3m近くあるだろう。角を生やした鬼の様なモンスター。



オーガ。



右手には木で出来たデカい棍棒の様な物を持っている。



僕は【気配察知】魔法を唱えて、他にモンスターがいないか探る。




・・・・・よし。他にはいないな。




周りにオーガ以外がいない事が分かった僕は、行動を開始する。


木と木の間を素早く移動して、気づかれない様にオーガの背後にまわる。1本のダガーを抜いて一気に駆け寄ると、両手で思い切り右足の太ももを刺した。



「ガァ?!!!」



突然右足に激痛が走ったオーガは、すぐさま棍棒を後ろの右足元にいる僕めがけて振り下ろす。



僕は刺したままのダガーを放して、棍棒を避けながら正面へと移動する。


敵に当たらなかった棍棒は、そのまま地面へと叩きつけられ土煙が舞った。



「【身体強化】。」



体が一瞬だけ光ると、もう1本のダガーを抜きながら一気にジャンプする。


振り返ったオーガの顔めがけて。


高速でジャンプした僕は、そのままの勢いで丁度振り向いたオーガの脳天に迷わずダガーを太ももと同じ様に両手で力いっぱいに刺した。



ダガーが根元まで突き刺さる。



そして、すぐに反動を使って元いた場所へと着地する。2本のダガーをオーガに預けて。



一瞬の静寂。



突然の事で、何が起きたのかほとんど分かっていないオーガは、そのままゆっくりと地面へと倒れ、絶命した。



「おっし!完璧!」



僕は大袈裟に一人でサムズアップをする。



相手の機動力を奪いながらの、素早い急所の攻撃。


あまりにも理想通りに攻撃出来た。


100点満点と言ってもいいだろう。




「♪~♪~♪。オーガクラスだと、ダガーは短くて結構きついな!そろそろ武器も買い替えどきかなぁ?」




鼻歌を歌いながら刺さっている2本のダガーを抜くと、胸を開けて魔石を取り出す。



ダガーは素早い攻撃には最適だけど、何せ間合いが狭い。


敵の懐に飛び込んでの戦いにならざるを得ないので、危険も大きい。


これからの事を考えると、もっとアドバンテージのある戦い方をしたいと思っている。


でも、とりあげずは・・・・・。



僕はゴブよりも一回り大きい魔石を眺めながらニヤリと笑う。


「これでやっと一人前のE級冒険者だ!やったぜ・・・・・。」


「×△△△×!!!!!」



突然、少し離れた所から言葉にならない叫び声が聞こえて、喜びの声が遮られる。



「何だ?」



考えるよりも先に、僕は叫び声の方へと走った。






----------------------------------------------------------






「アニー!大丈夫か?!」



目の前のモンスターを牽制しながら、倒れた仲間の名を叫ぶ。



「ダニエル!結構深くやられている!早く安全な場所で手当てしないとまずいぞ!」



もう一人の仲間が、アニーを抱え上げながらダニエルに答える。



「・・・・・くそっ!何でこんな所にこんな奴がいるんだよ!!!」



ダニエルは目の前のモンスターを睨みつける。



俺達は、幼馴染で構成された五人組のE級冒険者パーティ。E級になってから五年が経過し、そろそろD級に手が届きそうな時にこいつが現れた。


俺達を見つめているモンスターは、巨大な斧を肩にかける。



くそっ!



完全になめている。



いつでも殺せると思っているのか、俺達の出方を待っていた。



どうする?


このまま戦えば、間違いなく全滅だ。


しかし、アニーを抱えながらの逃走はすぐに捕まってしまうだろう。


ならばアニーを見捨てて、全速力で俺達だけでも逃げる。これが最善策だ。しかし・・・・・。



リーダーのダニエルは悩む。


仲間を・・・・・幼馴染を見捨てて逃げる事に。




「はっ!?」


『Gaaaaaaaaa!』




俺達が動かないのにしびれを切らしたのか、目の前のモンスターは咆哮を上げると、肩におかれた斧を頭上へと掲げ、そのまま振り下ろす・・・・・が、突然現れた投げナイフが、そのモンスターの腕に当たり、刺さらずに弾かれた。



『Ga?』



ダメージなど受けなかったが、突然別の方向から飛んできた投げナイフに驚き、動きを止める。



「おい!そこのヤギ!お前の相手は俺だよ!」



モンスターも、冒険者達も、その声の方へと向く。




そこには一人の青年が立っていた。






----------------------------------------------------------






「オイオイオイオイ。マジか。」




僕は叫び声の方へと駆けつけると、木の陰からその様子を見ていた。



そこにいたのは、一匹のモンスター。


ヤギの様な顔。3mはある巨大な体。腕には斧を持っている。



危険度『C』ランク。


ミノタウロス。




「何でこんな所にいるんだよ。」


僕は呟く。



冒険者ギルドは、冒険者の等級と同じ様に、モンスターや魔物にもランク付けをしている。F級の冒険者だったらFランクモンスターを。E級の冒険者だったらEランクモンスターの様に。そして実力を付けたなら、その上のランクのモンスターを討伐し、等級アップを獲得する仕組みだ。



あのパーティは、ギルドでよく見かけるパーティだ。


確かE級冒険者パーティ。



あのパーティだったら、Dランクのモンスターなら十分倒せる実力があるパーティだ。しかし、Cランクとなると話が違う。



レベルが違うのだ。



一つや二つランクが違う位なら何とかなる。というレベルではない。



そこには想像できない程の力の差が存在していた。だからこそ、ギルドは同じランクを討伐する事を推奨しているし、その上のランクまでしか依頼を受注できない様になっている。



だからこそ、この絶望的な状況。



まだ森から浅いこの場所に何故ミノタウロスがいるのか分からないが、ごく稀にこういう事故がある事は知っている。




「しかし・・・・・どうする?」



僕は状況を見ながら考える。



一人の女性が倒れている。


他の冒険者達が戦っても、間違いなく全滅するだろう。


でも逃げられない。


それは仲間を見捨てないといけないから。




「・・・・・・・。」




僕はこの世界に転生して色々な事をやりたい。


その為には絶対に死にたくないし、長生きしたい。


この世界を楽しむ為に。



今の僕はF級。



Cランクのモンスターに喧嘩を売るなんて自殺行為もいい所だ。



でも・・・・・。




『おいヒカリ。お前は危険を冒さずにちゃんと考えて行動をしている。それは冒険者として長生きできる秘訣だし、とてもいい事だ。だがな、もし他の冒険者がいて、そいつらが危機に陥っていたら、助けられるなら助けろ。それが冒険者ってもんだ。』


『おいっす!分かりました!グリーミュさん!』



グリーミュとの会話を思い出す。




「はぁ。・・・・・まぁ何とかなるか。【身体強化】。」



僕は投げナイフを取り出すと、今まさに斧を振り下ろそうとしているミノタウロス目掛けて投げつけた。






----------------------------------------------------------






「オラオラオラオラァ~!どしたぁ?かかって来いよ!!!」



襲われていた冒険者達の反対側に移動した僕は、ミノタウロスを挑発する。



唖然としているのか、動かないので、屈んでお尻を向けてペンペンしてみた。




『Gaaaaaaaaaa!!!!!』






めっちゃ怒った。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る