第3話 キューブ




『寿命/残り60年』




目の前に表示されたこの一文。



おそらく、これは僕の持っているスキルの一つだ。



この世界は全ての人・・・・・種族が、大なり小なり【魔力】を持っている。その【魔力】を使って生活を豊かにしたり、様々な職へと就いたりしているのだ。






【スキル】。



その中でも【魔力】だけではなく、特殊な能力を持つ者。


この世界にほんの一握りしか持っていないとされている唯一無二な存在。持つ者のほとんどは、国の重要人物や有名人になっているらしい。



僕のこのスキル。


要は、自分の残りの寿命が分かる能力だ。これだけだったら、ただ見れるだけのゴミスキルなのだが。



僕は今日の収穫、小さな魔石5個の内、2個を手にかざすと呟く。



「・・・・・【吸収】。」



すると、握っていた小さな魔石がゆっくりと消えていった。




このスキル。


何とある程度の魔石を吸収すると、寿命が延びるのだ。


前にスキルを検証する為に、半分は換金、半分は吸収で暫くやっていたら、何と寿命が延びたのだ。大体、このゴブリンを狩って得た小さな魔石を約1,000個位吸収すると、寿命が1年延びた。その時はマジでビックリしたわ。・・・・・まぁ1年以上かかったんだけどね。




だから、無理しない程度に冒険者としてモンスター退治をしようと思っている。


もうちょっと強くなって、もっと大きな魔石を吸収出来れば、ワンチャンずっと生きていられるかもしれない。でも、無理をして殺されたら何の意味もない。だからこそ慎重に、ゆっくりと強くなって、一人前と言われている【E】級まで、まずはなろうと思っている。



後は別の使い方も出来るんだけど、それはおいそれと使えないからなぁ。


少年の記憶にはなかったので、おそらく転生特典とでもいうべきか。



強くなれるスキルではないが、そもそもそんなに強くなろうとは思っていないので、このスキルで当たりだと思っている。上手くすれば長生き出来るのだから。


今は17才になったばかりだから、このまま生き続ければ77才に死ぬという事だ。



「おっと。またゴブ発見。」



少し離れた所にいた五体のゴブリンを背後から忍び寄って、二体の首に斬り込み、突然、仲間の首か斬られたのに驚いていた残りの三体も素早く倒した。



「順調♪ 順調♪」



冒険者になりたての時は、スライムやホーンラビットを中心に討伐していたけど、F級になってからは、もっぱらこの森の入口付近でゴブリン討伐を行っている。自分で言うのも何だが、かなりの数のゴブリンを倒したと思う。グリーミュさん達には、よくゴブリンスレイヤーってからかわれている程だ。



ゴブリンの死体から魔石を取り出す。



「安定してゴブは倒せる様になったなぁ。そろそろ、もう少しだけ奥に行ってワンランク上のモンスターを狙ってみるかな・・・・・ん?」



5個の魔石を取り出して、ポーチに入れていると、ゴブリンの叫び声に誘われたのか、一体の大柄なモンスターが現れた。



デカい。3m近くはあるだろうか。角を生やした鬼の様なモンスター。



オーガだ。



僕は、咆哮を上げながらゆっくりと近づいてくるオーガを見てニヤリと笑う。



「ハッ。丁度次のステップに行こうと思っていたんだ。・・・・・【身体強化】。」



僕の体が一瞬だけ光る。




そう。


転生した僕もしっかりと【魔力】を持っていた。


測った事はないけど、おそらくかなりの【魔力】を持っている。だって、どんなに使ってみても冒険者ギルドで教わった、使いすぎると気持ち悪くなったり、意識を失ったりといった事はなかったし、ましてや枯渇するなんて事は今までで一度もなかったからだ。おそらくこれも転生特典と僕は思っている。



それなら、この無尽蔵な【魔力】を使って大魔法使いとかになれんじゃね?って思った時もあったさ。




でも。




オーガが10m位まで近づいて来たので、指を指して大きな声を出して叫ぶ。



「あっ!後ろ!!!」



オーガはそれに反応して立ち止まると、後ろを振り返る。



「ウガッ?」



そこには誰もいない。



人間がいた方へと再び振り向くと・・・・・そこには誰もいなかった。



見ると、すでにかなり距離が離れた所に人間がいて、森の外へと向かって一目散に走っていた。



「さよならぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・。」



襲おうとしたオーガは、まさかのあまりの逃げっぷりに、ただただ突っ立って、茫然とその人間が消えるまで眺めていた。




見よこの逃げっぷり。



戦闘でも、今の所使う必要がない【身体強化】を行使しての逃げ。



一人なら、どんな敵でも逃げる自信があるのだ!



「ほっ。ほっ。ほっ。・・・・・まったく。そりゃ、ステップアップしたいと思ったけど、心の準備っていうものがあるんだよ!」



森から出ると、僕は独り言を言いながら街まで真っすぐに走っていた。




そう。


僕には魔法使いの才能がまったくなかったのだ。グリーミュさんの仲間の魔法使い、パナメラさん曰く「諦めが肝心よ。」と言われたのを思い出す。・・・・・前世のことわざを使うんじゃねぇよ。


唯一覚える事が出来たのが、自身を強化する戦闘職の【身体強化】と探索系の【気配察知】だけだった。


正しく宝の持ち腐れ状態だったのだ。



でも、とりあえず今日は最低ノルマの魔石10個はゲットして、2個は【吸収】したから8個換金して約2万4千ゴールド。


今日はやることがあるから良しとしておこう。



オーガと遭遇したというのもあるが、早く帰る予定だったので、このタイミングで切り上げて『マリオン』へと戻った。







明るい内に街へと戻り、冒険者ギルドで受付のレイナさんに魔石を渡して換金する。人はまだ少ないが、近くの待合所には椅子に座って冒険者が【四角い小さな箱の様な物】に向かって会話をしている。換金した後、出る時にその光景を横目で見ながら、近くの食堂でお酒を飲まずに早めの夕食を済ませて家へと帰る。



装備を脱ぎ捨て、小さいお風呂に入ってゆっくりした後に、いつもの私服に着替えた。




そうそう。


この世界の生活環境は以外にも高い。


魔石のエネルギーとそれを活用した【魔道具】と呼ばれる様々な道具で、日本までとはいかないが、お金持ちでもない僕でもちゃんとした生活が出来ている。



僕は、下に続く階段を使って地下へと下りていく。



この一軒家は二階はないが地下がある。


前に住んでいた人は、八百屋だったみたいで、備蓄する為の地下室があったのだ。



それがこの家を買うポイントだったんだよね。



僕は地下の扉を開けて、8畳位の部屋に入る。


中央には、テーブルと椅子が置かれているシンプルな部屋だった。



「さて。準備をしますかね。」



そう言うと、壁に掛けてある黒のロングコートを羽織り、黒のキャップをかぶる。


そして目が隠れる程につばを下げた。



この世界の帽子は、主に貴族や商人がかぶる様々なデザインのハットはあるが、キャップやニット帽などはない。


このキャップを作る為に、バレない様に隣町や王都まで行って、革屋でつば部分と頭部分をパーツごとに作ってもらい、完成させた一品物だ。前立てには【ゴースト】の『G』をカッコよく入れてある。この世界に英語なんてないから、デザインとしてカッコよく見えるだろう。



僕は椅子に座ると、ポーチから【四角い小さな箱の様な物】を取り出して、テーブルの上に置いた。




この四角い小さな箱の様な物。



その名も【キューブ】。




10年前。


『ログナント国』の研究者だった父親が発明した【世紀の大発明】と呼ばれる魔道具。



僕はその【キューブ】を手に取ると呟く。


「ほんと、これって〇ービックキューブだよなぁ。」



見た目も大きさも、前世にあった〇ービックキューブそのものだ。


マスも9×6の54マスある。



【キューブ】に少しだけ魔力を注ぐ。



すると、54マス中50マスにこの世界の文字が浮かび上がった。



この【キューブ】と呼ばれる魔道具は、魔力を注ぎ、お互いが決めた暗号文字を入力すれば、どんなに遠くに離れていても会話が出来る。


日本での携帯&テレビ電話みたいな物だ。



この【キューブ】を『ログナント国』が開発を成功させ、世界中に販売した事で、『アーツ帝国』、『ロマンティ皇国』に次いで三番目の資金力を持っていると言われている。




「この【キューブ】のせいで少年の父親は死んで、家族は崩壊した・・・・・か。」



一通の父親の遺言書となった手紙を思い出す。



設計図を父親の所属する魔道具研究所の所長、ミュラン=ハーゼルに奪われ、殺し屋に暗殺された。


その後、逃げる様に母親に連れられ、少年は王都から一番離れた村に移り住む。そして心労がたたった母親の死に耐え切れずに自殺。


ミュラン=ハーゼルは今や時の人となって、大貴族の一員になっているらしい。



「・・・・・いつになるかは分からないけど、転生させてもらった恩は必ず返すよ。」



この家族を死に追いやったミュラン=ハーゼル。


この男だけはしっかりと、いつかは報いを受けてもらおう。



「おっと、そろそろ時間かな。」



僕は手に持っている【マスターキューブ】に膨大な魔力を注ぎ始めた。




実はこの【キューブ】。


何かあった時に調整出来たり、新しい事が出来る様にと、父親がその元になる【キューブ】を作っていた。



その名も【マスターキューブ】。



設計図は奪われたが、この【マスターキューブ】だけは隠すことが出来た。


父親の手紙には、この【マスターキューブ】の様々な使い方が書かれてある。





その内の一つ。



魔力を大量に保有している名のある魔導士や魔法使いを数千、数万人集めて注ぎ込まないと出来ない非現実的な使い方。



それが僕には一人で出来るのだ。



かなりの魔力を持っていると前には言ったけど訂正しよう。おそらく魔力は無限大に保有していると僕は思っている。



何故なら、それをやった後でも全然疲れないからだ。




この世界でやりたかった事。




そしてこれが僕の【本業】。




僕は首に付いているシールの様な物を剥がす。・・・・・このレアな魔道具は、首に付けると声が変わる代物だ。王都に行った時に偶然闇市場で見つけて『これだ!』って思ったね。普通の生活や冒険者稼業の時は偽の声で。そして・・・・・・・。




暫く魔力を注ぎ込んだ【マスターキューブ】は、空いている4マスの内の1つが金色に光った。



僕は【マスターキューブ】をテーブルの上に置き、もう一度帽子のつばを下げて、完全に鼻と口しか見えない様にしたのを確認すると、金色に光っているマスを指で押した。



すると金色だったマスが、輝く青色に変わる。






僕は両肘をテーブルに付けて両手を合わせる。






そして【マスターキューブ】に向かって言う。






「よう!皆!俺の声が聞こえるか?・・・・・・・さぁ、今日も始めるぜっ!!!!」








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