第2話 転生
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・ん?
なんだ?
何か首が絞められる感覚。
気がついた瞬間、とにかく息が出来ない。
「ぐっ!」
思わず声が出る。
何が何だか分からないが、とにかく苦しい。
ここは地獄なのか?
こんな苦しみをずっと味わうのなんてごめんだ。
僕はとにかく無我夢中で暴れた。
すると、上の方から擦れる音がしてそのまま地面へと落下した。
「がはっ!・・・・・はぁ。はぁ。・・・・・息が吸える。」
パニくっていた僕は、ゆっくり深呼吸をして、落ち着きを取り戻すと立ち上がり、近くの鏡の前へと歩いて自分の顔を見る。
そこに映っているのは、見た事のない優しそうな少年だった。
「・・・・・マジで?これって転生ってやつじゃね?」
僕は思わず呟く。
僕の名前は、神木 光(かみき ひかる)。
日本人で25才だった男だ。
しかし今・・・・・この少年は死のうとして首を吊ろうとした。実際、それで死んだんだろう。そこで僕が代わりに転生したという所か。
「髪が黒い。目も黒くなっているな。」
起き上がった時に、少年の生涯の記憶が蘇った。
まず、この少年の容姿は金髪で青い瞳だったのだ。何故か今は黒髪、黒目だ。転生して変化が現れたのだろうか。
しかし・・・・・。
「はぁ。・・・・・自殺かよ。」
父親が死に、暫くして後を追う様に母親が死んだ。
その孤独に耐えられずにこの少年は自殺。
はっきり言おう。
自分で死を選ぶなんて、僕にとってはナンセンスだ。
生きたくても生きられなかった僕にとってはね。
「まぁ、いいか。せっかく第二の人生を送れるんだ。」
僕は気持ちを切り替えると、すぐに旅立ちの準備を始める。
悪いが、この家族には何の感情もない。
少年の記憶があって姿形は違うが、自分は神木光だ。それ以上でも、それ以下でもない。
隠れ住んでいた古い一軒家の扉を開けると、太陽の光が僕を包む。
晴れた真っ青な空。
ちょうど昼時位か。
周りを見渡すと、離れた所に同じ様な家が密集している。
「確かここは『ログナント国』の国境付近の村だったな。」
僕は歩き始めながら呟く。
この国で僕の容姿を知っている者は、この村位だろうか。
しかも髪や瞳の色も変わっている。
ならば隣の国へ行って、一から神木光としてやっていけるだろう。
「ただ、日本の名前はマズいか。・・・・・今後は【ヒカリ】でいっかな。」
一度立ち止まると、目を閉じる。
爽やかな風が顔に当たって気持ちがいい。
おそらく転生した。
まだ気持ちの整理も何も出来ていない。
でも。
これだけは言える。
今度こそは生きたい。
前世で思った様に生きられなかった分。
やりたい事をして、満足のいく生き方を。
僕は目を開けると、ニヤリと笑い、歩き始めた。
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「レイナさん。今日の成果です。」
そう言うと僕は、小さな魔石を10個カウンターの上に出す。
「はい。確かに承りました。ヒカリ君。無茶してないですよね?」
「もちろんですよ。レイナさんのアドバイス通り、大勢に襲われない様に一匹ずつ着実に自分に見合ったモンスターを倒してますよ!」
「フフッ。なら良かったです。・・・・・はい、本日の報酬です。」
メガネをかけた綺麗なお姉さん風のレイナさんは、笑顔で3万ゴールドを僕に手渡す。
ゴブリン1体3千ゴールド。
この世界の1ゴールドの価値は、日本で言うと1円位だ。今日は10体討伐出来たから大体3万円の価値だ。一日の成果としては十分だな。
「ありがとうございます。それじゃ、レイナさん。また。」
「はい。お疲れさまでした。」
お金をもらって軽く手を振ると、笑顔で答えてくれるレイナさん。
う~ん。癒されるわぁ~。
綺麗な女性に見送られるのはやっぱりいいよね。
僕は歩きながら周りを見渡す。
ここは冒険者ギルド。
僕の様なヒューマンはもちろん。様々な種族の冒険者達が行き交っている。
「おう!ヒカリじゃねぇか!今日もちゃんと稼げたのか?」
突然、僕の肩に腕を回して嬉しそうに話しかけてくるガタイの大きな女性の獣人。
この人は、この街にいる数少ない【B】級冒険者でいて、前からよく僕を気にかけてくれるグリーミュさんだ。・・・・・あの、ちょうど顔に胸があたるのでやめて頂けますか?
「そっすね。今日もゴブリン10体倒せたので、まずまずでしたよ。」
「おぉ!ヒカリにしちゃ、上出来じゃないか!そうかそうか。今日は俺ももう仕事は終わりだ!んじゃ、飲みに行くぞ!」
「えっ。・・・・・ちょっ、ちょっと。」
そのまま連行される様に飲み屋へと連行される僕。
さて。
状況を説明しよう。
今いるここは転生する前に住んでいた『ログナント国』の隣国でいて【最古の国】と呼ばれている世界の最西にある国『フレグラ王国』。
その王都から近い街『マリオン』。
僕はこの国・・・・・この街に来て、すでに四年の月日が経っていた。
年齢で言うと17才だ。
四年前に上手くこの国に入国した僕は、今は『フレグラ王国』の出身として活動をしている。もちろん、その証明書を手に入れる為に、多額なお金がかかったけどね。
こればかりは、僕の為に使わずに貯めてくれていた亡くなられた両親に感謝だ。
それからは、残ったお金をほとんど使って外れに小さな一軒家を購入。その後の生活費を稼ぐ為に、職業は手っ取り早く冒険者となったのだ。
そして今の僕の冒険者ランクは【F】級。
S級からG級まであって、一番下から二番目の階級だ。・・・・・まぁ、S級の上が一つだけ存在しているみたいだけど知らない。
冒険者は、E級で一人前。C級だと熟練の冒険者。そしてB級以上だと上級冒険者と言われている。
だから僕は、まだまだ半人前という事だ。
僕はグリーミュさんと一緒に飲み食いした後、別れて夜の街を家路へと歩く。
見上げると、夜空は満月でとても綺麗だ。
グリーミュさんは上位冒険者だというのに、三年前に冒険者となった僕をいつも気にかけてくれて、こうしてよく飯に誘ってくれたり、冒険者のイロハを教えてくれたりと、仲間がいるというのに、本当に頭が上がらない優しい女性だ。いつか何かしら恩返しをしたいと思っている。でも冒険者としては、B級以上を目指している訳じゃないから無理だけどな!
この街は、王都に近いというだけあって、他の街に比べて活気があって人も多い。
冒険者や街の人達も人柄がよく、すぐに馴染む事が出来た。
「さて。明日は週に一度の【本業の日】でもあるから、早めに寝て英気を養おうかな!」
独り言の様に呟くと、町外れにある家へと歩いて行った。
☆☆☆
翌朝。
冒険者ギルドへと赴き、Fランクの受注を受けると、すぐにこの街『マリオン』を出る。
小走りで約2時間程行くと、広大な森へと着いた。
「よし。着いたな。・・・・・しっかし、いつ見てもでけぇな。」
僕は目の前に広がる、広大な森を見て呟く。
【古の森】。
そう呼ばれているこの森は、太古の昔から存在している森らしい。
とにかく広く、どの位まで森が奥まで続いているのか分からない。
地図を見ると、この最西にある『フレグラ王国』内の更に西を占めている森。
入口付近は弱いモンスターが生息しているが、奥に行くにつれて強大なモンスターが生息しているんだとか。
今まで、一番奥まで探索が出来た冒険者や騎士団はいないらしい。
だが、この森は冒険者達にとっては人気の場所だった。
それは、ダンジョン並みに全てのランクに対応できる環境だからだ。
入口付近には、僕の様なランクの低い者達が対応できる弱いモンスターが多く、ランクが高い冒険者達はその先へと進んで強いモンスターを討伐する事が出来る。
だからこそ、この街から離れているダンジョンより、この【古の森】へと向かう方が効率が良かった。
森に入り、一本の木の上によじ登る。
暫くそこで待っていると、先の草木の方から音が聞こえた。
「おっ。来たな。」
二匹のゴブリンが現れた。
静かに両腰にあるダガーを抜く。
そのままゴブリン達は僕がいる木の真下へと通り過ぎようとする。
僕はそのまま飛び降りた。
ザシュッッッ!!
木の上から、狙いすました様にゴブリン二体の間に落ちると、首元めがけてそのまま2本のダガーを振り下ろす。
何が起きたか分からないといった感じのゴブリン二体は、そのまま絶命して地面へと倒れた。
「おっし!完璧ぃ!」
僕は嬉しそうに倒れた二体からダガーで胸を切り裂くと、その中から輝いている黒い小石を取り出す。
モンスターの心臓と言われている物。
【魔石】。
魔石は、この世界に様々な恩恵をもたらしている主要なエネルギー石だ。
だからこそ、冒険者という職業が確立されて、国から重宝されている。
2個の魔石を取り出した僕は、拭き取ると腰に付けている空間収納付きのポーチに入れた。このポーチ。見た目は小さいが、キャンプ道具位は収納できる優れものだ。めっちゃ高かったけどね。
僕が本格的に冒険者になったのは三年前。
最初は喜んださ。
だってアニメやマンガに出てくる、日本にはなかった職業なんだもん。嬉しいに決まってるでしょ。
でも、実際リアルだと命がけだ。
日本人だった僕としては、流石に怖い。
だからこそ、とにかく暫くは何かあってもすぐに逃げられる様に、【速さ】だけは優先的に鍛えた。
もちろん、異世界漫画の様に、ステータスなんて見れない。だからどの位強くなったのかも分からない。
でも、グリーミュさんやその仲間達に、聞いたり鍛えてもらったりして、少なくとも逃げ足だけは速くなったと思う。
足音が聞こえてきたので、ゆっくりと忍び足でその方へと歩き出した。
僕にはこの世界に転生して、やりたい事があった。
だから今やっている冒険者は、正直に言うと、そんなにやりたいわけではない。
だって、命の危険がある職業なんて、日本人だった僕がやりたくなんてないでしょ。
怖いし。
生活費を稼がないといけないからやっているだけなのだ。でも・・・・・それとは別に・・・・・。
木の陰で待ち伏せして、通り過ぎた三体のゴブリンを速やかに背後から強襲し倒す。
3個の魔石を取り出して、軽く念じると、目の前に一文が表示された。
「・・・・・これなんだよなぁ」
そこには、こう書かれてあった。
『寿命/残り60年』
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