2-2 結ばれる相手(エレオノール)
結婚式は、つつがなく進んだ。
予想通り、会場入りする前に顔を合わせ、腕を差し出してきたクロヴィスは、天使のように美しく。エレオノールが会場に顔を出した途端、令嬢たちには睨まれ。現実味のない、どこか夢の中を歩いているような心地で、その全てを眺めていた。
「……大丈夫ですか?」
大聖堂の中、椅子に腰かけた人々の間を、寄り添いながら、二人で真っ直ぐに進んで行く。密やかにかけられた声に、僅かに顔を上げれば、白い礼服に身を包んだクロヴィスが、優しい表情でこちらを見ていた。
そんな彼の礼服を見て、思う。
(この衣装は、……元々、ベルナール様が切る予定だったものだわ)
共に衣装合わせをした時に見たものだから、分からないはずがなかった。ベルナールも長身だが、クロヴィスの方が彼よりも更に背が高いため、昨日の内に慌てて直したのだろうとすぐに理解が出来て、そのことがエレオノールの表情を暗くする。
自分のためだけに設えた最高級の服を着ることの出来る人に、他人のために誂えた服を着せることになるとは。侮辱するような状況に、申し訳なさが募るばかりだった。
だというのに、彼はこうして自分のことを気遣ってくれる。尚更、心苦しくなった。
「お気遣いありがとうございます。閣下。わたくしは大丈夫ですわ」
せめて足を引っ張ることだけはしないようにと、品良く微笑んで見せる。実際、緊張はそれほどしていなかった。何度も何度も、練習した式次第であり、予想していた通りの数の観客たちだったから。
表情が暗いのも、身体が硬いのも、ただただ、彼に対しての罪悪感がゆえであった。
クロヴィスは数度瞬きを繰り返した後、また一つ柔らかい笑みを浮かべて、「そうですか」と呟いていた。
「無価値になったくせに、よく大公閣下の横に並べるものね」
「私なら、恥ずかしくて出てこれませんわ」
大神官の待つ壇上へと辿り着き、この婚姻を寿ぐ言葉を聞いていた時だった。会場から聞こえて来た囁き声に、知らず身を硬くする。
先程、セリアにも言われた言葉であり、自分でも分かっていることだけれど。今は隣に、そんな価値の無くなってしまった自分を娶ることとなったクロヴィスがいるのだ。
皆の言葉が耳に入るほど、今この瞬間にも謝罪して、この式そのものを取りやめたい衝動に駆られた。そんなことは無理だと分かっているのに。
「それでは、指輪の交換を」
式は予定通り進んで行く。指輪の交換は、バルバストル王国の結婚式で、婚姻の象徴のような儀式であった。お互いの髪色を現す宝石を飾った指輪を、お互いの指に着けることで、婚姻が成立したこととなる。
男性の場合は、魔力の譲渡を受ける際は、相手の魔力だけを受け取るという意味があり、逆に女性の場合は、相手にだけ魔力を譲るという意味がある。
用意された指輪を大神官から受け取り、エレオノールは思わず息を吐いた。分かり切ったことだったが、自らの目でそれを見ると、また一気に気分が落ち込んだ。
(黒い宝石を飾った指輪。……今のわたくしには、相応しくないものね)
さらりと、視界の隅で灰色の髪先が揺れる。土台が銀であることが、せめてもの救いだろうか。
儀式の進行通り、先にエレオノールがクロヴィスの手を取った。おそるおそるといった態で彼の左の薬指に、それを通していく。と、第二関節の所で、動きが止まった。さあっと、顔色が悪くなるのが自分でも分かった。指輪もまた、ベルナールに合わせて作られた物。サイズが全く同じはずもないのだ。
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