2-1 結ばれる相手(エレオノール)
「何であんたがクロヴィスさまと!? 本当に信じられない……! 無価値のくせに!」
急遽、相手の変わった結婚式の当日。人払いされた花嫁の控室にいるのは、エレオノールと、新婦の家族として、叔父夫婦とその娘であるセリアの四人だけだった。
セリアは地団太を踏むようにして、金切り声を上げていた。「有り得ない!」と、ひたすらに叫んでいる。余程、防音に優れた部屋なのだろうなと、そんなどうでも良いことが頭の隅を過ぎった。
叔父夫婦もまた、声は上げずとも、娘と同じ気持ちなのだろう。叔父の妻であり、現公爵夫人は、「あなたの言う通りよ、セリア」と、娘の肩を抱きながら慰めていた。
(でも、セリアの言いたいことも少しだけ分かるわ。……まさか、わたくしがクロヴィスさまと結婚、なんて)
考えてもいなかった出来事に、エレオノール自身も今なお、困惑したままであった。
クロヴィス・ラウル・カリエール=ジェデオン。臣籍降下したことで、バルバストルの名を捨て、ジェデオンの名を得た王弟。彼は、様々な点において、秀でた人物だとして有名であった。
その最たるものが、まさしくその容姿であろう。常に穏やかな笑みを浮かべる天使のような美青年であり、その両の目は滅多に見ることのない漆黒の瞳。それだけでも十分だというのに、それ以上に珍しいのは、その金色の髪であった。
(希少さで言えば、わたくしの……、元々の、黒髪と同じくらい希少な髪色だもの)
そのため、男性としての魅力という点で言えば、彼はその容姿だけでも最上級の存在であった。
もっとも、容姿だけの人ではないというところがまた、彼の恐ろしい所だが。
(賭博関係の関連施設を全て運営している上、その利益で孤児院や病院などを設立する慈善活動家でもある……。賭博に手を出すのは、お金と時間を持て余している貴族や富豪たちだから、国民はそのお金で慈善事業を行う彼のことを、本当に天使のように思っているとか)
国王が彼を疎ましく思うのも仕方がないのかもしれない。こうして思いつくだけ挙げても、あまりにも、出来過ぎているから。
国の税金の半分は、彼が納めているのだろうとさえ噂され、その年間の収入は国の予算を軽く超えると言われている。それどころか、国からの要請で、資金を貸し出しているという話まであった。嘘か真かは定かではないが、下手に否定も出来ない程の大富豪なのだ。
そんな、あまりにも規格外の存在である彼が、今になってもなお結婚どころか婚約者までいないのは、それこそ偏に国王が彼を嫌っているからだろう。臣籍降下していながらも、国王の座を脅かすほどの存在感を持つ彼を家門に迎え入れれば、少なくとも王城からは遠ざけられることが間違いないからだ。
そのため、貴族たちは彼の持つ容姿や資産などの付加価値がどれほど欲しくても、手を出そうとはしないのである。
(もっとも、年頃の令嬢たちは、そんなことお構いなしなのでしょうけれど)
まさに今、目の前にいるセリアのように。家門や政治などに関心のない令嬢たちの間では、もちろん、彼はいつでも注目の的だった。おそらく今日の式でも、自分には令嬢たちの恐ろしい視線が向けられることだろう。
エレオノール自身が望んだわけでもないのに、目の敵にされるのは少々不服ではあったが。王命である以上どうしようもないと、エレオノールは深く息を吐くのだった。
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